三重苦が招いた米デモ拡大 人種差別・コロナ・失業

2020/6/2 21:17 (2020/6/3 5:12更新)
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ニューヨークの繁華街タイムズスクエアはデモ参加者らで埋め尽くされた(1日)=AP

ニューヨークの繁華街タイムズスクエアはデモ参加者らで埋め尽くされた(1日)=AP

【ワシントン=河浪武史】黒人暴行死事件の抗議デモが全米を揺るがす規模に膨らんだのは、人種差別に加え、新型コロナウイルスの感染と大量失業という三重苦への不満が爆発したためだ。コロナによる死者の比率は黒人が白人の2倍超と極めて重く、失業率も16%と白人より高い。デモ活動は中南米出身のヒスパニックら低所得層にも広がり、人種差別に経済格差がもたらした社会分断も絡み合って、歯止めが利かなくなっている。

トランプ大統領は1日、ホワイトハウスで全米の州知事と電話会談を開き、「逮捕して刑務所に長期拘束すべきだ」と抗議デモの鎮圧を繰り返し迫った。暴行事件が起きた中西部ミネソタ州を「世界の笑いものだ」とも非難。そのホワイトハウスは前日、抗議デモの参加者で再び周囲を囲まれ、放火や強奪も発生するなど、米首都として近年にない混乱状態にある。

「警官はくそったれだ!」。デモ隊が連呼したように市民と警察の摩擦は強い。民間調査では、2019年に犯罪などに絡んで警察官に殺害された米国人は1100人弱と、主要国で突出する。このうち24%は黒人で、米国の人口全体に占める黒人の比率の2倍に達する。これまでも警察による黒人への暴力は、1992年のロサンゼルス暴動を筆頭に、人種差別への不満爆発をもたらしてきた。

今回も、新型コロナの感染やそれが引き起こす失業といった生活苦が、黒人に集中していることが抗議デモの拡大につながった面がある。5月31日夜、ホワイトハウス近辺でのデモに参加していた黒人学生は「新型コロナの感染は黒人が圧倒的多数で、職を失った人も多い」と強調。「我慢の限界だ」と訴えていた。

ワシントンの新型コロナの感染死(約460人)のうち、8割弱が黒人だ。同市内の失業率は4月に11%まで上昇したが、黒人が人口の9割を占める南東部は20%と跳ね上がる。全米でみても、10万人あたりのコロナ死者数は黒人が54.6人と白人(22.7人)の2倍超。黒人の失業率は16%を超え、白人より2.5ポイント高い。

ただ今回のデモは黒人からの抗議にとどまらない。経済学者のヌリエル・ルービニ米ニューヨーク大教授は「黒人や白人といった人種を問わず、4000万人の失業者が激怒している。コロナ危機が暴動につながると想定していた」と語る。各地のデモ参加者の中には白人やヒスパニックの姿も目立ち、人種問題だけでなく経済格差問題に発展しつつある。

「家賃を減免してほしい」「金持ちを追い出せ」。ホワイトハウス周辺には、経済的な困窮に不満を訴えるプラカードや落書きが目立つ。デモ隊の中には野球バットを持って略奪目的ではじめから参加する若者もいて、経済格差が社会不安に直結している。

「年収4万ドル(約430万円)以下の世帯は40%が失業した」。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は独自試算を明かす。失業者の大半は飲食店や小売店で、低所得層に雇用悪化のしわ寄せは集中する。人種別でみた平均年収は、白人は6万ドルを超えるが、黒人は4万ドル強、ヒスパニックは5万ドル強と格差が大きい。

92年のロス暴動時も経済不安の真っ最中だった。91年の米経済は9年ぶりにマイナス成長に転落し、92年には失業率が7%台に上昇。景気悪化と所得格差が都市暴動につながった点が今回と似る。トランプ政権下で米経済は過去最長の景気拡大を記録したが、所得格差はさらに第2次大戦時並みに広がった。

ニューヨーク市やワシントンは1日、夜間の外出禁止令を出した。ワシントン市内のイタリア料理店は、5月29日に営業を再開したばかりだが「また商売ができなくなった」(店員のアンジェリカさん)。レストラン予約サイト「オープンテーブル」によると、テキサス州ダラス市の飲食店は、夜間外出禁止となった31日の客足が前年比2割強まで落ち込んだ。2日前には同4割まで持ち直していたが、足踏みを余儀なくされている。

米経済は新型コロナによって、4~6月期に年率換算でマイナス40%近い落ち込みが予想される。経済活動の一部再開でようやく「底入れ」の兆しが見えつつあったところで生じた抗議デモによる混乱は、米経済の新たな重荷となる。

ホワイトハウス周辺では抗議デモが激化し、放火や略奪などの不法行為が発生した(5月31日、ワシントン市内)

ホワイトハウス周辺では抗議デモが激化し、放火や略奪などの不法行為が発生した(5月31日、ワシントン市内)

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