韓国造船3社、カタールからLNG船受注 2兆円規模 - 日本経済新聞
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韓国造船3社、カタールからLNG船受注 2兆円規模

中国勢との攻防激しく

韓国の造船大手3社が中東カタールから合計2兆円規模の液化天然ガス(LNG)運搬船を受注する。1日に初期契約を結び、今後数年で船の仕様や建造量を詰める。発注量は100隻超で、造船業界で過去最大規模の案件となる。現代重工業など3社の大型造船所の生産枠は2027年まで埋まることになる。国家主導で技術力を高める中国勢も一部を受注し、世界首位を争う韓中のせめぎ合いが一段と激しくなっている。

カタールの国営エネルギー会社、カタール・ペトロリアム(QP)が数年前から、LNG増産に向けて運搬船の発注作業を進めてきた。27年までに現在の保有船74隻を190隻まで増やす計画を示しており、韓国や中国、日本の造船会社が受注競争を繰り広げてきた。

今回、韓国勢が受注する契機となったのが、19年1月に開かれた両国の首脳会談だった。来韓したカタールのエネルギー相に各社のトップが自ら造船設備の技術力を売り込んだ。その後は現代重工、大宇造船海洋、サムスン重工業の3社が水面下で交渉を続け、大型受注の獲得につなげた。

QPと韓国3社が1日に結んだ「スロット契約」とは、造船所の生産能力を確保する契約だ。20年から24年にかけてLNG船の仕様や建造量、納入金額などを詰め、順次契約を結んで建造し、引き渡す予定だ。QPが3社と協議し、発注量を分散させる形となる。今後、一部がキャンセルになる可能性もある。

QPは3社と04年にも同様の契約を結び、その後、5年ほどかけてLNG船を計50隻超、納入した実績がある。QPの発表通りの受注が確定すれば、3社の大型造船所は27年まで生産枠が埋まる計算となる。1日夜の発表を受けて、2日は現代重工の持ち株会社の韓国造船海洋の株価が6%上昇し、大宇造船は14%、サムスン重工業は18%それぞれ上昇した。

新型コロナウイルスの影響で原油価格が急落し、足元の資源価格は不安定な動きをたどる。ただ、資源メジャーなどは石炭や石油に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないLNG関連事業に力を入れており、LNG船の需要は今後も拡大が続く見通しだ。

長期化する造船不況のなかでも、需要増が見込めるLNG船は高い建造技術が求められる。氷点下150度を下回る極低温タンクに天然ガスを保存し、長く航海し続ける強度と燃費性能が求められるためだ。かつては三菱重工業川崎重工業など日本勢の「お家芸」ともされたが、00年代に韓国勢が巨額投資で建造能力を急拡大し、受注量で日本勢を抜き去った。

生産能力と技術力を生かし巨額受注を獲得した韓国勢だが、中国勢の猛追を振り切れるかは見通しにくい。今回のカタール案件を中国企業も一部、受注しているためだ。

中国の造船最大手、中国船舶集団(CSSC)は韓国勢に先駆けて4月、QPから約3千億円規模のLNG船の受注を発表した。中国にとって過去最大の海外での受注案件となり、「中国の造船会社は着実に技術力を高めている」(造船関係者)と評価された。

CSSCは中国1位と2位の国有造船会社が19年11月に経営統合し、発足した。国有海運会社の船を優先的に受注し、軍用艦なども手掛ける。中国政府が実質的に船を買い支える構図で、国有銀行も系列リース会社を使って潤沢な資金を供給する。中国勢は内需に支えられ、20年1~3月期の造船受注量では韓国勢を上回り世界一となった。

韓中勢に比べて日本企業は一度に複数隻を受注できる体制が整っておらず、LNG船の大量発注の案件では劣勢になる。日本勢では川崎重工などが参戦したものの、受注を逃したもようだ。国内最大手の今治造船と三菱重工が設立したLNG船の共同事業会社も、ここ数年は受注がなく「形骸化している」(業界関係者)とされる。

発注総額が2兆円を超える今回の巨大案件は8割超を韓国、残りを中国が受注した格好だ。LNG船で後発の中国が韓国の「総取り」を阻んだともいえる。高い技術力が求められるLNG船の受注競争で日本勢は敗れ、世界首位の名を賭けた韓国勢と中国勢の頂上決戦が今後も続くことになる。

(ソウル=細川幸太郎、大連=渡辺伸、東京=西岡杏)

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