トランプ氏、力による鎮圧前面に 選挙へ保守層意識
強い指導者像を演出 政権内に懸念も

2020/6/2 17:24 (2020/6/3 5:14更新)
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全米に広がる抗議デモを受けてホワイトハウスで演説するトランプ米大統領(1日)=AP

全米に広がる抗議デモを受けてホワイトハウスで演説するトランプ米大統領(1日)=AP

【ワシントン=永沢毅】トランプ米大統領は1日、白人警官の暴行による黒人死亡事件を機に全米で拡大している抗議デモの鎮圧にあたって、自らの指揮下にある連邦軍の投入も辞さない方針を示した。大統領選をにらんで保守層の支持固めを意識し、「力」を用いて治安維持を最優先する姿勢を鮮明にした。ただ、強権的な手法は事態を悪化させ、選挙にマイナスともなりかねない。

1日夕にホワイトハウスで演説に臨んだトランプ氏は、一部のデモ参加者による放火や略奪行為を「国内テロ行為だ」と批判し、厳しく対処すると宣言した。演説の直前にはホワイトハウス前の広場に集まっていたデモ隊を警官隊が催涙ガスやゴム弾で強制排除した。首都ワシントンで出した午後7時以降の外出禁止令の順守を求める決意を行動で示した形だ。

トランプ氏は演説で、事態の沈静化に際してはまず、各地の州知事が管轄する州兵を出動させてデモ鎮圧にあたるよう要請した。そのうえで州知事の対応が不十分と判断すれば、連邦軍を投入すると説明した。

合衆国憲法では治安維持の任務は一義的には州政府にあると定める。ただ、1807年制定の暴動法は暴動鎮圧のために州知事の要請があれば、米大統領が連邦軍を派遣しての対処が可能と規定する。議会調査局によると過去には州の要請なしに連邦軍を派遣したケースもあるという。

同法の適用は白人警官による黒人男性への暴行が無罪となったのを受けた1992年のロサンゼルス暴動以来となる。当時のカリフォルニア州知事がブッシュ(父)大統領に連邦軍の出動を求めたケースがある。

トランプ氏が危機対処で強い指導者像を演出するのは、民主党のバイデン前副大統領との戦いで劣勢に立つ大統領選で挽回をはかりたいとの思惑が透ける。米紙ワシントン・ポストの最新の世論調査によると、トランプ氏の支持率は43%でバイデン氏の53%に水をあけられている。新型コロナウイルスの対処のまずさもあり、バイデン氏のリードは2カ月前の2ポイントから広がった。

演説後、トランプ氏はデモ隊がいなくなったホワイトハウス前の広場を通って前日夜に放火された教会を徒歩で訪れた。歴代大統領にもなじみ深い教会をわざわざ聖書を手に記念撮影したのは、支持基盤の保守層の中核をなすキリスト教保守派へのアピールにほかならない。

「参加者を逮捕し、刑務所に長く収容しないといけない」。米メディアによると、トランプ氏は演説に先立つ各州知事との電話会議でこう檄(げき)を飛ばした。中西部イリノイ州のプリツカー知事(民主党)は「国民に冷静になるよう呼びかけないといけないのに、ホワイトハウスから出てくる言葉遣いは事態を悪くしている」と苦言を呈した。

トランプ氏への懸念は政権内でもくすぶっている。米政治サイトのポリティコによると、同氏の娘婿クシュナー上級顧問は、演説で強権的なメッセージを送ることになれば大統領選を左右する穏健派の有権者を遠ざけかねないと主張していた。

「米国が必要なのは癒やしであり、決して憎しみではない」。トランプ氏は演説でこう国民に呼びかけたものの、治安維持への決意を示す挑発的な言辞に力点が置かれていたのは明らかだ。当初は国民の結束を訴え、事態の沈静化をはかる案も浮上していた。

ロス暴動に際して国民向けの演説に臨んだブッシュ(父)大統領は「私たちは分断ではなく、結束させるための多様性を認めないといけない」と呼びかけた。あえて分断をあおる選択をしたトランプ氏の異質さが浮き彫りになっている。

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