空き家「予備軍」早めに準備 信託活用、相続税対策も
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2020/6/4 2:00
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夜、筧家のダイニングでは、良男にかかってきた同僚からの電話をきっかけに「空き家談議」が続いています。恵は「7戸に1戸が空き家」という現状に驚いたようです。この分野にも詳しい幸子に質問を投げかけています。

筧(かけい)家の家族構成
筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。
筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。
筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。
筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

 空き家の数は今後どうなるのかしら。

幸子 水面下では「空き家予備軍」と呼べる家もかなり増えていると思うわ。日本の世帯総数は2023年をピークに減少すると予想されているの。人口だけでなく、世帯数も減り始めると、いよいよ本格的に家が余り始めるわ。取り壊しなどが適切に進まない場合、2030年代には4戸に1戸が空き家になるという予測もあるわね。

良男 空き家の負担を抱える人もそれだけ増えるわけだね。

幸子 そうね。今後、高齢者から子の世代に家が相続されていくなかで、空き家の負担に悩まされる人はさらに増える可能性があるわ。国の調査では、空き家の所有者の取得理由は「相続」が過半を占めるのよ。長寿化で親の老後資金が乏しくなってきているので、相続前の「予備軍」のうちから、家の修繕や維持費などを援助せざるを得ないこともあるでしょうね。

 何とか空き家になるのを防げないのかしら。

幸子 最も効率的なのは、まだ親が家に暮らしている間に、家族全員で話し合いを始めることね。相続人となる兄弟らで集まり、「相続後その家に住む人がいるか」「住む予定の人がいないなら家はどうするか」を議論するのよ。

良男 まとめるのが大変そうだ。

幸子 そうね。でも何の話し合いもしないまま親の死亡で空き家となると、子どもたちで共有する形になって、処分が一段と難しくなる場合が多いわ。それに万一、合意のない状態で親より前に子が亡くなってしまうと、親の兄弟らが突然、空き家の相続を迫られるなど、もっと広い範囲に影響が及びかねないわ。今は新型コロナウイルスの影響があるから難しいかもしれないけれど、本来、話し合いは早めに始めるほどいいわ。

良男 どうしてだい。

幸子 空き家予備軍の状態なら選択肢が広がるからよ。例えば、親子間で契約し、家を含む親の財産を子らが管理する「家族信託」も考えられるわ。契約内容によっては親が介護施設などへ移るとき、家を子の判断で売り入居費に充てることもできるわ。「成年後見制度」に比べて柔軟な使い方ができるのよ。親が存命中だからこそ、できる契約よ。ただ、親子間といっても弁護士などの専門家に手数料を払って契約の助言や支援を受けるのが普通よ。

 やっぱり何事も早めの準備が大切ね。

幸子 そうよ。それに最近は相続税がかかる人の範囲も広がっているから、親子で早めに話し合うことで税金対策を考える時間の余裕もできるわ。2015年の課税強化後は、親が都市部に家を持つ世帯は大きな金融資産を持たなくても相続税が課される例が増えているの。相続税がかかるなら、空き家対策の方法によって納める税額を変えられる可能性もあるわ。

良男 どういうこと?

幸子 相続した空き家のうち一定条件を満たす戸建てなら、今は売却時に最高3000万円の特別控除があると説明したわよね。でも、相続税がかかる場合は、もう一つ別に「取得費加算特例」という制度もあるの。相続した家を一定期間内に売ると、納めた相続税の一部を取得の費用として加算でき、その年の所得税を減らせるのよ。それぞれ適用条件は違うから、どちらが使えるのか確かめて、両方とも使える場合はどちらがいいのかを検討しておくといいわ。

 なるほど。

幸子 空き家を賃貸するときは想定される賃料を考えて慎重に判断すべきだけど、相続税がかかるなら別の視点もあるわ。相続前に賃貸に出すことで、相続財産としての評価が下がる場合があるからよ。評価を下げる仕組みには、親と同居していた子らが使える「小規模宅地の特例」もあるけど、そもそも同居できるなら相続後も空き家になりにくいわよね。だから、親が住まなくなった後、賃貸に出して相続税負担を抑えるのは一つの選択肢ではあるわ。ただ、賃貸期間が短いときや空室があった場合は想定通りの評価減とならないこともあるわね。

良男 結構、複雑だな。

幸子 そうね。だから早めに話し合って、家族間だけでなく税理士などにも相談しておく方が安心よ。もし相続税がかからない家族でも、議論を早めに始めておけば、相続後の遺産分割の話し合いがスムーズに進むことも期待できるわ。それと、現在は所有者がわからない空き家がこれ以上増えないように、国が相続登記の義務化も検討しているの。相続後に空き家をどう扱うのか家族間の話し合いが済んでいないと、この義務化に対応できない恐れもあるわ。

 話し合うことが多くて大変そう。

幸子 まずは今、その家に暮らしている親に理解してもらうことよ。誰でも我が家に愛着はあるものだから、突然「空き家の処分」などと話を切り出されたら反発するのは当然よ。時間をかけ、家族全員にとって最も良い方法を見つけるための話し合いだと粘り強く伝える姿勢が大切だと思うわ。

■税制特例、期限に注意
税理士 市川恭子さん
 相続した空き家の売却に際して「3000万円特別控除」と「取得費加算特例」の両方が使える場合、かなり相続税が高い場合を除けば、多くは特別控除の方が有利です。もし特別控除の対象外となるようなマンションや売却額が高額になる戸建ての空き家でも、取得費加算特例は使える可能性があります。自分の空き家の条件に照らして、適切な方法を確認しておきましょう。
 空き家の3000万円特別控除も取得費加算特例も適用を受けるには一定期限内の売却が必要です。相続前に決めておくのが望ましいですが、相続後に空き家の処分を巡る合意がなかなかできないような場合も、この期限があることを知っていれば、空き家の処分を含む遺産分割の交渉を前に進めるための手掛かりにできるのではないでしょうか。

(聞き手は堀大介)

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