米デモ、分断あおる大統領 全土で過激化 首都に傷痕

2020/6/1 16:00
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31日、米ホワイトハウス周辺でも大規模な抗議デモが起きた(ワシントン)

31日、米ホワイトハウス周辺でも大規模な抗議デモが起きた(ワシントン)

【ワシントン=中村亮】米国で白人警官の暴行による黒人死亡事件への抗議デモが全土に広がる中、トランプ大統領の言動が国内の分断に拍車を掛ける構図が強まっている。5月31日には極左集団がデモ暴徒化の背後にいると主張し、徹底的に捜査する方針を表明。民主党の州知事らのデモ対応への批判も繰り広げた。11月の大統領選に向けて米国の分断をあおり、保守層の支持を固める思惑がにじむ。

31日夜11時(日本時間6月1日正午)に夜間外出禁止令が出た首都ワシントン。夜9時を過ぎると市内のデモが激しさを増した。数千人規模の抗議者がホワイトハウス周辺に集まり、警官隊は大きな破裂音などをたてて参加者を威嚇。ペットボトルなどを警官隊に投げつけたデモ参加者が次々と拘束された。

伝統的に黒人比率が高いワシントン市内のハワード大に通うジェニファー・ハミルトンさん(22)は「平和的な抗議活動であるべきだ。ただ、ワシントンでは新型コロナウイルスの死者も黒人が大半で、職を失った人も多い。みな、我慢の限界に達している」と話す。

「黒人の命は大事だ」「正義が通らなければ平和はない」。5月31日昼にはホワイトハウス前でデモ隊が一斉にスローガンを叫んだ。「沈黙していれば新たな暴力を招く」「悲劇を何回繰り返せば気が済むのか」などのプラカードを持って街を練り歩いた。新型コロナ対策でマスクを着けた人が目立ち、現場の異様さを際立たせた。

医療機関に勤める60代の黒人女性ジャネル・ヒネスさんは「建国以来、黒人差別が社会システムに染みついている」と指摘。今回の事件について「政治家の怠慢がまた悲劇を招いた」と怒りを隠さなかった。人種差別撤廃を求める団体に所属するデカンさん(27)は「悲劇はこれで最後にしてほしい。我々の世代が立ち上がらないといけない」と強調した。

ホワイトハウスから徒歩数分の距離にある通りではデモで破壊されたとみられるレストランやオフィスビルの窓ガラスの破片が散乱。デモ隊に燃やされたとみられる車の残骸の一部も転がり、米国の首都とは思えない光景が広がった。

31日、子供たちもフロイドさんの死亡事件に抗議した(米メリーランド州)

31日、子供たちもフロイドさんの死亡事件に抗議した(米メリーランド州)

ニューヨークでも先週末から抗議活動が拡大している。競技場前や公園にプラカードなどを持った人が多く集まり、これまでの外出規制で閑散としていた街は騒然となった。パトカーが焼かれたり、警官が市民を力ずくで押さえつけたりする場面も多くみられた。

各地でデモ隊の一部が暴徒化し、略奪行為に及ぶ事例が相次いでおり、ニューヨークでも自衛する店舗が増えている。繁華街タイムズスクエアでは30日以降、突貫工事でショーウインドーに破壊を防ぐための板が取り付けられ、重苦しい雰囲気が街を包む。ニューヨーク市は6月に部分的に経済を再開すると決めたばかりだったが、新型コロナとは別の要因で先行きは一気に不透明になった。

南部フロリダ州マイアミでは1日に予定されていたビーチの再開は延期になった。全土で夜間の外出規制発令も相次ぐ。

大規模デモの発端は25日、中西部ミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官によって膝で首を押さえつけられ、その後に死亡した事件だ。フロイドさんは「息ができない」と繰り返し訴えており、この動画がSNS(交流サイト)を通じて拡散した。

12歳のころにソマリアから米国に移住し、左派に高い人気を誇るイルハン・オマル下院議員は31日、米メディアで「(フロイドさんが受けたような扱いを)黒人が日常的に経験しているからだ」と人々の怒りの理由を指摘した。

AP通信が2019年秋に実施した世論調査によると、黒人の72%が警察による暴力を「非常に深刻だ」と回答し、白人(26%)を大きく上回った。米国では黒人を暴行した白人警官が無罪となったことで起きた1992年のロサンゼルス暴動のほか、2014年には中西部ミズーリ州で黒人青年が白人警官に射殺された際も大規模デモが発生した。

法を執行する立場にある白人警官による黒人への過剰な暴力の行使は、過去の奴隷制や奴隷解放後も続いてきた迫害や差別という黒人社会にとって耐えがたい歴史を想起させる。

トランプ政権はデモ隊の暴徒化に関し、極左集団の関与を指摘する。トランプ氏は31日、反ファシズムを掲げるグループ「アンティーファ」をテロ組織に指定すると表明した。バー司法長官も同日の声明で「平和的な抗議デモが暴力的な過激派団体によってのっとられている」と非難した。米連邦捜査局(FBI)が犯罪組織の捜査を本格化させると説明した。

金融機関に勤める黒人男性のウエストリー・ホーグさん(29)は「暴力は差別撤廃を求める我々のメッセージを台無しにする」と懸念を示した。混乱に乗じて白人至上主義団体や薬物カルテル集団などが紛れ込んでいるとの情報もある。

一方、トランプ氏はデモ隊に対する挑発を続けており、人種による米社会の分断をいとわない構えだ。31日にはツイッターで、ミネソタ州知事らに対し「もっと強力に対処せよ。さもないと、連邦政府が介入し軍事力を行使して多数を逮捕する」との過去の投稿をリツイートした。デモが起きる州に対して「手遅れになる前に州兵を動員すべきだ」とも主張した。

米紙ワシントン・ポストが31日にまとめた世論調査によると、トランプ氏の支持率は43%。11月の大統領選の候補指名を固めた民主党のバイデン前副大統領(53%)を大きく下回る。

新型コロナ対策では不手際を指摘する声が多く、感染発生地である中国を痛烈に批判している面がある。今後、デモへの対応にも批判が続出すれば、トランプ氏が世論の関心をそらすために外交内政の両面で強硬策を繰り出す可能性がある。

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