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逆風を追い風に ポストコロナのシナリオ
スポーツコンサルタント 杉原海太

2020/6/2 3:00
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新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)にあえぐスポーツ界にとって、5月16日にブンデスリーガ(ドイツのプロサッカーリーグ)が再開したことは久しぶりの明るいニュースだった。ここから少しずつ良い方向に風向きが変わってくれたらと願う。

抑え込んだといえる状況には程遠いが、新型コロナとの付き合い方を学びながら徐々に次のフェーズに移行しつつある印象がある。ひと言で表すなら「人命最優先」から「命も経済も」というフェーズへの移行。それはそのままスポーツ界にも当てはまるようだ。

ドイツは5月16日にブンデスリーガが再開した=共同

ドイツは5月16日にブンデスリーガが再開した=共同

再開したブンデスも、これから再開を目指す英プレミアリーグやイタリア、スペインリーグも選手から「プレーするのは不安だ」という声は出ている。しかし、このままリーグを中止にすると大幅な減収となり、破綻するクラブが出てくることも明らか。このジレンマをどう解くかは世界各国のリーグ共通の悩みだろう。

新型コロナは、1984年ロサンゼルス五輪あたりから続いてきた放送権収入、チケット収入、スポンサー収入等を大きな柱とするビジネスモデルを根幹から揺るがしているように感じる。というのも、このモデル、あまりにも試合の価値に多くを依存しており、その試合を(疫病等で)止められたら一気に手詰まりになることが今回明らかになったからだ。そしてこの先、「ウィズコロナ」「ポストコロナ」の時代に合わせた新たなモデルが、いや応なく求められる気がするのである。

もちろん、放送権料の価値がただちに急落するとは考えにくい。同じ試合でも、観客が居ると居ないとでは価値に大きな違いが生じることが明らかになったが、日進月歩のテクノロジーはそれを埋める方法を編み出し、オンラインで見るバーチャルリアリティー的な観戦スタイルが今後さらに加速するかもしれない。

ウイルスの脅威が与える打撃はチケット収入の方が深刻なのだろう。無観客、あるいは入場制限によって客席を絞れば、それだけ希少性が高まり、チケットの単価を上げることはできるかもしれないが、それですべてをカバーできるわけではなさそうだ。

■新たな収入の柱を育てる必要

そもそも、オリンピックビジネスにしてもサッカービジネスにしても、このところの値動きについて私自身は「バブル」の気配を感じてきた。放送権料にしろ、スポンサー収入にしろ、露出価値に支えられた巨額の数字はすでに頭打ちの感があり、泡がはじけるタイミングが新型コロナの来襲によって早められただけという認識もある。既存の放送権、チケット、スポンサーシップ等以外の収入の柱を育てる必要があるのではないかと。

中断前のイングランド・プレミアリーグ。露出価値に支えられた巨額な数字は頭打ちの感があった=ロイター

中断前のイングランド・プレミアリーグ。露出価値に支えられた巨額な数字は頭打ちの感があった=ロイター

その新しい収入の柱とは何か。それはリーグやクラブがもっと社会との関わりを深めることではないかと考えている。

新型コロナは、明らかに多くの人々に対して広い意味でのウエルネスというか、心身が健康であることの大切さをあらためて知らしめたように思う。ちょっとでも体を動かせることがどれだけ重要か、気軽に人と接し、たわいもない話ができることが、どれだけ生活に彩りを添えるか、とうことを。

国民の健康を育み、守ることは国の重要な政策になるが、プロスポーツやプロリーグも人と人のつながりを促す上で、もっと多面的な価値を提供できるように思うのである。社会からのニーズ次第ではあるが、エンターテインメントが本業のプロリーグが公共政策に関わるようなことにも進出する。それをマネタイズして回せるようになれば、試合に大きく依存したモデルのリスクを多少なりとも軽減できるのではないだろうか。

松本山雅FCのGM(ゼネラルマネジャー)の加藤善之さんがよく口にする言葉に「クラブを地域の総合商社にしたい」というのがある。「地域の公共財」だと活動の範囲が狭められる印象があるが、総合商社なら、エンタメでもウエルネスでも何でもござれ、あらゆる面で地域になくてはならないハブという感じになる。これも「ポストコロナ」時代のクラブの一つの生き方ではないだろうか。

試合依存のモデルからの脱却を目指す動きはすでにある。リーグやクラブにスポンサー料を支払う企業は、単純な広告露出だけではなく、リーグやクラブを幅広い観点で活用するアクティベーションにも関心を強めている。これなどは、その兆しと、いえなくもない。

また、今回のコロナ禍を機に選手たちがオンラインでファンと交流する機会を増やしたが、選手の生の姿に触れられるとあってファン、サポーターの評判もいい。これなどもやり方次第で大きく育つ可能性を感じる。

マンチェスター・ユナイテッドで活躍したデービッド・ベッカム。Jリーグは1990年代後半に急速に進んだグローバル競争に後れを取った=ロイター

マンチェスター・ユナイテッドで活躍したデービッド・ベッカム。Jリーグは1990年代後半に急速に進んだグローバル競争に後れを取った=ロイター

Jリーグは1993年の発足以来、地域密着を合言葉に大きな発展を遂げてきた。が、90年代後半に急速に進んだサッカーのグローバル化とその進展に対しては、うまくキャッチアップできなかった。地域で足場を固めることに労力を割き、選手育成に関しても伸びを見せたが(それは日本代表の躍進を見れば一目瞭然だ)、経営面でのグローバル競争には後れを取った感は否めない。

一般の経済と同じで、グローバル化した世界では富がものをいう。国際間移籍が活発になると富のある側(欧州)にヒトは集まり、カネもそちらを中心に回るようになった。真のワールドスポーツであるサッカーの場合、富の集中の仕方は非常に偏ったものになる。ITの世界のGAFAと似た寡占状態というか。欧州のビッグリーグ、ビッグクラブが勝ち組になり、一度勝ち負けが決まると逆転は難しくなった。

■サッカー界の構図が変わるか

新型コロナの脅威は、そんな構図を一瞬でもリセットするかもしれない。収入が多いところは支出も多いから大変で、富める者も貧しき者も皆、同じ土俵に上がる感じになり、一から「ヨーイドン」が始まる。ひょっとすると、それはJリーグの加点になる可能性があるのではないか。そんな妄想をたくましくしてしまう。

経営戦略にシナリオプランニングという方法がある。不確実な未来に対して複数のシナリオを用意し、備えることだ。「変わる」「変わる」と言いながら、まったく変わらないことも、それほど変わらないことも多々あるので、シナリオが無駄になることもあるけれど、変わったときのシナリオを用意せずにチャンスをみすみす逃すのは何とも歯がゆい。

これまでのパラダイムでは英プレミアリーグとJリーグが争うのは不可能だった。これからも世界で一番リッチなリーグはプレミアリーグなのだろう。でも、もしかしたら、このコロナ禍を機にJリーグは世界で一番社会から愛されるリーグとして世界中から周知される可能性があるのではないか。

2019年、Jリーグを制した優勝の横浜F・マリノスイレブン。コロナ禍を機に世界で一番社会に愛されるリーグとしてJリーグは認知される可能性がある=共同

2019年、Jリーグを制した優勝の横浜F・マリノスイレブン。コロナ禍を機に世界で一番社会に愛されるリーグとしてJリーグは認知される可能性がある=共同

Jリーグは「スポーツで、もっと、幸せな国へ」を合言葉に、地域に密着しようという「動詞」を使ってきた世界でも希少なリーグだ。サッカーというエンタメを提供するのと同じくらい、「百年構想」という名の下で、地味ながら価値のある地域での活動をこつこつと続けてきた。それは頑固な店主が30年近く、ずっと同じ味を守り続けてきたことに通じるものがある。そこにウソはない。ピンチはチャンス。逆風が追い風になる可能性があるのなら、どんな苦境にあっても風をつかむ用意はしないといけない。

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