米製薬大手「エレベーター1人で利用」 新しい働き方

BP速報
2020/6/1 13:10
保存
共有
印刷
その他

エレベーターの利用は1人が基本とする製薬企業も(写真は中国)=ロイター

エレベーターの利用は1人が基本とする製薬企業も(写真は中国)=ロイター

日経バイオテク

政府の緊急事態宣言が5月25日、全面解除された。新型コロナウイルスと共生する「ウィズコロナ」の時代、これから私たちの働き方はどのように変わっていくのだろうか――。米カリフォルニア州では、一足先に厳格なロックダウン(都市封鎖)から段階的な緩和が始まっているが、それと並行して、新たな働き方が模索されている。

米国では、製薬企業やバイオ企業は緊急必要(エッセンシャル)ビジネスに分類されているため、ロックダウン中であっても、オンサイト(会社)で勤務することができた。

ただ、あるバイオ企業で働く友人は、「企業によって、あるいは部署によって、対応は様々だった」と明かす。ある部署では従前通りオンサイトで業務、研究を継続していたという。現在は、全従業員が出社予定をエクセルの表に記入。隣の席、隣のベンチ(実験台)の従業員と出社日が重ならないように調整しているそうだ。また、2日間の出社後は、2日間の自宅待機というような、ローテーションを組むバイオ企業もあるという。いずれにせよ、在宅ワークが中心なのが現状だ。

在宅中心では、当然予定していた実験の計画は遅れ、周りとの連携が必要となる新しい実験を立ち上げるとなると、さらに難しくなる。その半面、思わぬ収穫もあるという。在宅ワークの環境が整って充実してきたことにより、データの読み込みなど、一部の業務は在宅の方がはるかに効率が良いことが分かったという。「出社すると、マスクをつけて長時間働くのは疲れるし、周囲に人がいると会話で仕事が中断されるので、集中して進めたいデスクワークには在宅の方が圧倒的に良い」と友人は話す。

大手の製薬企業やバイオ企業では、さらに慎重な新型コロナ対策が講じられているという。そのきっかけはボストンで起きた米バイオ製薬大手のバイオジェンの集団感染だ。米国での感染拡大が深刻化する前、同社が2月下旬に開催したカンファレンスにおいて複数の従業員が感染する事態が起きたのだ。企業への信頼ががた落ちになる恐れがあることから、ヘルスケア系の企業で集団感染が起きるということは言語道断らしい。

というわけで、大手の製薬企業やバイオ企業では、それぞれの企業が独自の入念な対策を講じているようだ。

ある大手製薬企業では、基本的には、従業員をシフト制とし、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保して、誰がいつ社内にいるのか徹底的に管理しているという。従業員は出社時、入り口に常駐している看護師から問診、体温計測を受け、マスクをもらってからしか社内に入れない。社内のいたるところに消毒液や拭くためのワイプが設置され、ドアノブやエレベーターのボタンなどは常時拭かれている。しかも、エレベーターの利用は「1人が基本」という徹底ぶりだ。社内では食堂が営業していないので、ランチまで支給されているという。

研究部門では優先度、事業化の近さに応じて出勤する必要性を評価しているため、早期段階の研究を手がける研究者は、まだ研究を再開できていない。当然、出張の予定も入れられず、会議も常にオンラインという状況が続いており、「研究者同士のコミュニケーションが非常に取りにくくなっている」と、大手製薬企業に勤める友人は話していた。

また、現在もロックダウンが続いている地域の大手バイオ企業では、緊急必要ビジネスと認められる研究開発、製造以外の従業員は、基本的に在宅勤務を継続中だ。いつオンサイトでの勤務を再開できるかは未定だそう。その上、緊急必要ビジネスと認められる従業員であっても、出社には、上司の事前承認が必要で、承認後には、出社・退社時間、出社目的を記録しなければならない。

その大手バイオ企業でもやはり、出社時には、入り口で体温測定が行われ、マスクの着用が義務付けられ、常に6フィート(約1.8メートル)の距離を保つルールが課されている。当然、1室に集まる会議は開催されず、Zoomなどのオンライン会議システムを活用しているが、「今後も、会議はオンラインで十分事足りる」と、この企業に勤める友人は話す。

どうやら、会議がオンライン化されてから、参加者の一部が強引に議論に割り込んでくるといったケースが少なくなり、相手の話を聞こうという参加者の意識が高まって、よりスムーズな議論ができるようになったらしい。「オンライン会議を活用すれば、日本人も、海外とのコミュニケーションがしやすい環境がつくれるのでは」と指摘していた。

では、これまで対面を重んじてきた投資の世界の働き方はどうなっているのか――。バイオ業界のあるベンチャー投資家の友人は「実は今、非常に忙しい」と明かす。ロックダウン中、一時保留されていた投資案件が次々と動いたり、新規株式公開(IPO)にこぎつける企業が出てきたりと、これまで以上の忙しさだという。大型の資金調達に成功するスタートアップや、大規模に資金調達する投資ファンドも目立っている。

どうやら、投資の世界は現在、自粛とは別世界らしい。もしくは、新型コロナとの共生時代だからこそ、市場や世間からのバイオ業界への期待が高まっているのかもしれない。もっとも、そうした投資家も、基本的にほぼ在宅ワークで、毎日何件も電話会議を行い、Zoomで会議をこなし、投資を決めているという。

では、実際に一度も会わずに未知のスタートアップに投資をするのかというと、そういうわけでもないようだ。友人によれば、投資先の多くは、以前投資した企業の幹部が立ち上げた新しいスタートアップ、つまり、知り合いの人たちの会社、もしくは、よく知る人の紹介による会社だという。「全く知らない人たちの会社へ投資しないかという話も来るが、サイエンスやテクノロジーは興味深いものの、やはり未知の部分が大きく優先順位は低くなる」とその友人は明かす。

全体的に、米国の企業はかなり慎重に新型コロナ対策を講じているようだ。従業員の安全確保も相当入念にやっている。ちなみに、シリコンバレーでは、レストランは今でもテークアウトのみ。ショッピングモールは、一部を除いてほぼ休館が継続している。オンラインでオーダーして店舗に商品を取りに行く以外、あらゆる店舗がまだ休業している。ただ、新しい働き方が徐々に定着する中でも、新たなスタートアップは次々と走り出している。

(ライター 橋本千香)

[日経バイオテクオンライン 2020年5月29日掲載]

保存
共有
印刷
その他

日経BPの関連記事

電子版トップ



[PR]