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「ボクシング村」つくり感染回避 米で興行再開へ
スポーツライター 杉浦大介

2020/6/1 3:00
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米国にボクシング興行が戻ってくることが確実になった。5月27日、ネバダ州アスレチック・コミッション(NSAC)は、ラスベガスで計画されている格闘技興行を認可することを決定。これで米大手プロモーターのトップランクが6月9、11日に企画する無観客興行にゴーサインが出たことになる。

まだ正式発表はされていないが、9日のメインイベントでは世界ボクシング機構(WBO)世界フェザー級王者シャクール・スティーブンソン(米国)がノンタイトル戦を行う予定。以降も現・元世界王者たちをイベントの軸に据え、7月まで毎週火、木曜日に定期興行を開催していく方向という。これらの試合はすべてスポーツ専門局ESPN系列で生中継、生配信される。

緊密な連絡、万全の安全対策

全米を震撼(しんかん)させている新型コロナウイルス禍の中で、トップランクも3月以降は興行の中断を余儀なくされてきた。「6月上旬から再開」というプランに対し、一部から「早過ぎる」「無謀ではないか」という声も出ていただけに、陣営には「してやったり」との思いはあるだろう。

「数週間にわたり、舞台裏でボクシングの復活に尽力した私たちトップランクのメンバーをたたえたい。6月9日からESPNで生中継が始まることを人々は喜んでくれるでしょう」

NSACからの認可が下りた後、トップランクの大ベテランプロモーター、ボブ・アラム氏はそうツイートしていた。米全体が徐々に経済活動再開ムードであること、独占放映契約を結んでいるESPNからのプッシュといった追い風があったのは事実だとしても、NSACと緊密に連絡を取り、万全の安全対策を考慮したトップランク上層部の努力は称賛されてしかるべきだろう。

アラム氏の所属するトップランクが企画する6月のボクシング興行にゴーサインが出た=AP

アラム氏の所属するトップランクが企画する6月のボクシング興行にゴーサインが出た=AP

もっとも、ようやく再開が決まったとはいえ、多数の感染者を出せば存続はすぐに危うくなる。そんな事態を避けるため、当面はすべて無観客興行。観客を入れないという点以外にも、安全確保のための行動基準は以下のように詳細に定められている。

・試合会場はMGMグランド・ボールルーム・カンファレンスセンター

・選手たちは会場に到着直後、コロナの検査を受け、以降はホテルから外出禁止。試合前日の計量の際に再び検査を受ける

・セコンドに付けるのは2人まで

・6月の興行を通じ、ジェイコブ・デュラン、マイク・バゼールの2氏がシリーズの公式カットマン(止血の担当者)として全試合でセコンドに入る

・使用されたタオル、バンテージ、グローブは危険物扱いで廃棄される

・ジャッジ、オフィシャルは6フィートの距離を保って座る

試合会場はラスベガスのMGMグランドホテル内に設けられる=ロイター

試合会場はラスベガスのMGMグランドホテル内に設けられる=ロイター

「私たちはラスベガスのホテルに隔離されたエリアを設け、そこではすべてが殺菌されます。ジムなどの練習施設も準備され、選手たちはウイルスを持つ人間と接触することなくトレーニングができるのです」

5月上旬に電話取材した際、アラム氏はラスベガスでの興行再開プランをそう説明していた。そんな言葉通り、トップランクはMGMグランドの一部を隔離し、ジム、食事の施設をもうけ、いわゆる「ボクシング村」をつくるのだろう。その中から出ない限り、コロナ感染のリスクは低く抑えられるのは確かに違いない。

当初はメディアの出入り禁止

当初はメディアの施設内への出入りを禁止するのも、トップランクの再開計画の特徴といえる。記者たちは代わりにリモート取材を余儀なくされる。電話会見、試合後のコメント提供、状況に応じた電話、オンラインでの単独インタビューなどの機会が用意されるのだとか。

トップランク、ESPNにしても、非常事態下で挙行するイベントを地元メディアに大きく報道してほしいという思いはあるに違いない。ただ、まずは「ボクシング村」に入る人数を可能な限り減らし、リスクを軽減することが最優先。そんな事情は理解できるがゆえ、普段は口うるさい米メディアからも不平不満はほとんど出てきていない。

「現状では様々なことが流動的です。いずれメディアの立ち入りを緩和できることを願っていますが、今の時点では慎重にならざるを得ないのです」

トップランクの関係者がそう説明していた通り、まずは再開後のシステムを確立することが先決に違いない。

トップランクと契約を結ぶ井上尚(右)のリング登場も期待される=共同

トップランクと契約を結ぶ井上尚(右)のリング登場も期待される=共同

こうしてボクシング界がついに動き出し、特に6月上旬の再開興行は大きな注目を集めることだろう。主催者側のもくろみ通り、安全にイベントを遂行できるかどうか。まだ大リーグ、プロバスケットボールNBAといったメジャースポーツの再開めどが立っていない中で、どれだけのテレビ視聴率を集めるか。そして、遠からぬうちに、トップランクと契約を結ぶ井上尚弥(大橋)のリング登場もあるのか。

様々な不確定要素の中で、「パンデミック(世界的な大流行)下のシリーズ」はボクシングの歴史に刻まれるイベントとなっていくはずである。

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