VW、中国との蜜月深化 国有企業に50%出資

貿易摩擦
習政権
2020/5/29 23:30
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安徽江淮汽車集団の電気自動車のSUV

安徽江淮汽車集団の電気自動車のSUV

【北京=多部田俊輔、フランクフルト=深尾幸生】独フォルクスワーゲン(VW)は29日、中国国有自動車中堅の安徽江淮汽車集団(JAC)の親会社に50%出資することで基本合意したと発表した。投資額は10億ユーロ(約1200億円)。JACが本拠を置く安徽省は李克強(リー・クォーチャン)首相の出身地だ。中国市場でトップシェアを持つVWは政府との関係を深め、優位をいっそう強める狙いがある。

■1200億円を投資

「強力で信頼できるパートナーと一緒に中国での電動化の戦略を強化していく」。全国人民代表大会(全人代)が閉幕した翌朝の人民大会堂。JACとの合意に調印する式典に、VWのヘルベルト・ディース社長はこんなメッセージを送った。

VWは中国国有の安徽江淮汽車集団に出資する

VWは中国国有の安徽江淮汽車集団に出資する

JACの親会社で安徽省政府が全額を出資する安徽江淮汽車集団控股が12月末までに増資して、VWが引き受ける形で50%を出資する。さらにVWとJACが折半出資する電気自動車(EV)の合弁会社の出資比率を75%まで引き上げる。7月末までの最終合意を目指す。

JACの新車販売台数は19年実績で42万台だった。このうち商用車が約6割を占める。16年に全用途で64万台を売ったのをピークに右肩下がりとなっているため、VWの力を借りて巻き返す構想だ。自動車業界に詳しい関係者によると「JACは事実上、VWグループの傘下に入る可能性が高い」と指摘する。

VWの中国での乗用車販売は400万台を超え、約2割のシェアを握る最大手だ。ただ、近年はトヨタ自動車の猛追を受ける。英調査会社LMCオートモーティブによると、19年の乗用車販売でVWは前年比1%減にとどまったが、トヨタは10%増と大幅に伸びた。JACの取り込みで販売規模は1割ほど増える。

VWにとって中国は販売台数の約4割を占める最大の市場だ。ディース社長は利益率も最も高いと明かす。しかも中国は新型コロナウイルスからの回復が早く、工場稼働率が4割前後にとどまっている欧州とは対照的だ。

米モルガン・スタンレーによると中国は自動車の保有率がまだ25%にすぎない。80%を超える欧米に比べ成長余地は大きい。初めて車を買う地方の若者など、これまで取り込めていなかった層を狙う中国専用ブランドをVWは投入しており、JACと組むのもこの文脈上にありそうだ。

VWは29日、中国車載電池3位の国軒高科にも出資すると発表した。総投資額は10億ユーロ。持ち株比率は26%で筆頭株主になる。国軒高科は車載電池の19年の生産量で寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)に次ぐ。EV生産を拡大する基盤を固める。

■李克強首相が「仲人」

ただ、今回の出資は不振企業を抱え込む側面もある。それでも実施に踏み切った背景には、約5年前に端を発するいきさつがある。

2015年10月、李首相が故郷である安徽省の合肥市にメルケル首相を招待した。李首相は早朝にJACを視察し、メルケル首相にJACとVWの提携を打診した。伸び悩むJACの経営をてこ入れする狙いがあったとみられる。

17年にVWとJACはEV事業の合弁設立で合意した。当時、中国で外資の合弁相手は2社までと決められており、VWは上海汽車集団、中国第一汽車集団の2社と既に組んでいた。そのままでは実現しないため、対象がEVなら3社目も認めるよう、李首相の肝煎りで規則が変更された。

今回の出資も、自動車事業を手掛ける現地企業の本体の株を持つ点で極めて異例だ。中国に外資との合弁自動車メーカーは多いが、あくまで本体とは別会社だ。JACの幹部は「李首相はJACとVWとの提携の『仲人』だ。大きな政治力で今回の決定を後押ししたのだろう」と指摘する。

VWのような世界的大企業は国際関係と無縁ではいられない。習近平(シー・ジンピン)指導部はトランプ米政権と、貿易に加えハイテク分野の技術開発や香港を巡っても対立を激化させている。欧州で強い影響力を持つドイツの代表的な企業であるVWとの関係を深めることで、ドイツを自らの陣営に引き寄せる狙いもありそうだ。ただ、「新冷戦」とも呼ばれる米中関係のはざまでドイツが中国に対する姿勢を変える可能性もある。

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