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湘南や高尾の人気復活? コロナで変わる住まい選び

コロナの先の家計シナリオ 住宅ジャーナリスト 榊淳司

NIKKEI STYLE

新型コロナウイルスによって急速に広まった在宅勤務・テレワークは、私たちに「最適な住まいとは何か」を改めて問いかけています。住宅ジャーナリストの榊淳司さんは「交通の利便性よりも住環境や住まいの広さを優先する人が増えるはずだ」と予測します。

◇ ◇ ◇

コロナは私たちの生き方を大きく変えてしまったのかもしれません。とりわけ、働き方や住み方といった生活の基本となる営みの部分で、大きな変化が生まれたように思えます。そして、この変化は住まいと私たちの関係に大きく影響します。

社員ごとの専用デスク「平成時代の発想」

まず、テレワークの普及はオフィスのあり方を変えました。スタッフは違う場所にいても、打ち合わせや会議はできることが広く認識されました。しかも、会議や打ち合わせはインターネットで実施したほうが効率的であることさえ分かってしまったのです。

情報端末が普及したことによって、コロナの前からこういったことは技術的に可能だったはずです。先行する企業では、すでに実施していたでしょう。

毎日決まった時間に同じ場所に集まる必要がなければ、オフィスの床面積は以前ほどは必要なくなります。社員一人ひとりについて専用のデスクを設置するのは、そのうち「平成時代の古い発想」となってしまう可能性も濃厚です。

テレワークで今の住まいに「気づき」

一方、自宅にいながらテレワークをした人々の感覚にも変化が生まれたはずです。

そもそも、多くの職業人にとって自宅は仕事から帰ってくつろぎ、眠るところ。そこで業務をこなす、ということは前提になっていませんでした。

コロナによって、そういう場所で致し方なく仕事をすることになった多くの人は、改めて今の住まいについて様々なことに気付いたのではないでしょうか。

ここ20年ほど「東京一極集中」というワードがよく目につきました。かつては郊外に本社を移した企業も、いつの間にか都心に回帰していた例も多くあるようです。

コロナ以前は空前の人手不足で、若い人々に人気のある東京・渋谷では、オフィスの床面積が絶対的に不足していました。

コロナ以後、こういった流れや動きが変わるでしょうか? 私はかなり劇的に変わると思います。

オフィスの床面積、重要性は低くなる

まず、「人々が密集する」ことは何よりもリスクであるという感覚が広まったはずです。なぜなら、人々の健康を害する感染症は新型コロナだけではないからです。インフルエンザもあれば、我々のまだ知らない新たなウイルスだって発生しないとは限りません。

密閉空間に人々が密集して、密接な状態で時間を過ごすことは今後、その必要性の有無がシビアに判断されることになりそうです。そうなると、オフィスの床面積の重要性は必然的に低下します。

社会的な責任を求められる大企業であればあるほど、オフィス空間をいわゆる「3密」の状態から遠ざける努力が求められるはずです。

交通の利便性より住環境や住戸の広さ優先

一方、テレワークが定着すると、多くの職業人は家にいる時間が長くなります。それまでは、基本的に「寝に帰る」場所が新たな「仕事場」に変わるのです。

コロナ前はマンションの資産価値を測るいちばんの尺度は立地でした。平たくいえば、どの駅から何分か、ということです。都心に近く、アクセスが優れているほど高く評価されたのです。そのためには、住まいの広さを犠牲にする人々も多かったのです。

しかし、コロナ後には人々が住まいに求める要素が多様化するかもしれません。コロナ前よりも自宅で過ごす時間が長くなるので、交通の利便性よりも住環境や住戸の広さを優先する人が増えるはずです。

都心で単身者向けに盛んに供給されてきた20平方メートル台の狭小型マンションも、その需要が細ると供給が減るかもしれません。一方、居住スペースや収納空間が広い戸建てへの需要が高まりそうです。

首都圏なら神奈川の湘南や東京の高尾、関西なら兵庫の須磨や滋賀の琵琶湖畔など、自然が豊かでありながら何とか通勤も可能なエリアの人気が復活することも考えられます。

「コロナ以前には戻れない」が出発点に

コロナは、私たちの社会に情報機材やネットを利用した先進のコミュニケーションシステムを活用した、新たな生活様式を定着させるでしょう。それにより、日々の暮らし方から不動産の資産価値まで、幅広いフィールドで変化が起こります。

そのことに対し、あれこれと不満や不平を言い募っても仕方ありません。社会の変化は個人の好き嫌いや志向などでは、どうしようもないのです。

私たちにできることはまず、この変化の行方を見つめながら、自分にとっての最適な環境とは何かを導き出すことです。そして、その最適な環境を楽しく、心豊かなものへと築き上げることなのです。

私たちはもう、コロナ以前に戻れないことを肝に銘じるべきでしょう。それが、この変化に対応するための出発点になるのです。

榊淳司
住宅ジャーナリスト。榊マンション市場研究所を主宰。新築マンションの広告を企画・制作する会社を創業・経営した後、2009年から住宅関係のジャーナリズム活動を開始。最新の著書は「限界のタワーマンション(集英社新書)」。新聞・雑誌、ネットメディアへ執筆する傍らテレビ・ラジオへの出演も多数。

緊急事態宣言が解除され、「ニューノーマル」「新常態」とも呼ばれる新しい生活様式が広がりつつあります。コロナで一変した家計の収入や支出、それに伴うお金のやりくりをどうすればよいかも喫緊の課題です。連載「コロナの先の家計シナリオ」は専門家がコロナ後のお金にまつわる動向を先読みし、ヒントを与えます。

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