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テニス日本人審判なぜ少ない 語学・報酬・時間の壁

2020/5/31 3:00
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試合の流れ、生の情報をつかめるからこそ、審判には表にはみえない影響力がある=ロイター

試合の流れ、生の情報をつかめるからこそ、審判には表にはみえない影響力がある=ロイター

男子の錦織圭、女子の大坂なおみ(ともに日清食品)らを筆頭に、テニスの世界ランキングのトップ100位以内には複数の日本選手が入っている。一方で四大大会のテレビ中継を見ていて、日本人審判を見かけないことに気づいた人もいるのではないか。現在、日本人の国際審判は5人だけ、しかも平均年齢は55歳なのだ。「選手と審判の数のバランスがあまりに悪い」と指摘するのは、日本テニス協会(JTA)審判委員会委員長で、東京五輪・パラリンピック組織委競技運営部(テニス)テクニカルオペレーションマネジャーを務める岡村徳之さん。コロナ禍で一旦頓挫したものの、本格的な審判員育成に乗り出そうとしている。

■日本の国際審判は5人だけ、四大大会ゼロ

岡村さんが今春、早大大学院の平田竹男教授の下でまとめた論文「日本におけるテニス国際審判員育成の問題点と解決策」によると、2019年に世界ランキングを保持していた日本人選手は男女計約150人。米国、フランス、イタリア、ロシア、スペインに次ぐ数で、四大大会を開催する英国やオーストラリアよりも多く、南米の雄アルゼンチンをも上回る。一方、国際審判の数は2019年8月時点で32位タイ。1位の米国(50人)、2位の英国(39)、3位のイタリア、フランス(37)はもちろん、9位の中国(16)や10位タイのエジプト、15位タイのインドどころか、現在世界ランク保持選手は2人しかいないイラン(7)よりも少ない。

国際審判には「レフェリー(試合のコート割を決め、規則執行の責任者)」「チーフアンパイア(審判、ボールパーソンの割り当てを決める)」「チェアアンパイア(主審)」の3つがあり、それぞれ「ゴールド」と「シルバー」、チェアアンパイアだけはさらに「ブロンズ」で格付けされている。四大大会の2回戦以上の試合は「シルバー」格以上が配置される。日本の5人はチェアアンパイアのブロンズが2人、レフェリーのシルバーが2人で、ゴールドはチーフアンパイアの岡村さんだけだ。

個々の試合で自国審判の少なさは不利ではないが、審判不足のデメリットは少なくない。「国際大会を開く場合、自国に審判が少ないと海外から招へいしなければならないので、開催コストが膨らんでしまう」。日本で行われるツアー大会は男女計3大会だけ。これからトップ200、100へと駆け上がりたい選手が出たい大会が少ない理由はこんなところにもある。

■試合の現場を最もよく知るのが審判

「シルバー」のチェアアンパイアとしても四大大会など転戦してきた岡村さんがより危惧するのは、表からはみえない審判が持つ影響力だ。視聴率や集客を気にする大会主催者、「午前(あるいは午後に)試合をしたい」といった選手の要望も聞きつつ、コート上の出来事をとり仕切る審判は「試合現場を最もよく知り、生の情報を持っている人たち」だ。毎年変わるルールを理解し、かつ「この大会はあまり環境が良くなく、上位選手があまり出ないから、ポイントを稼ぐにはいい」「この大会のコートはこういうタイプに向いている」といったことを知っているのだ。

審判に対してどう声を上げるか。駆け引きを知ることは選手強化にもつながる=ロイター

審判に対してどう声を上げるか。駆け引きを知ることは選手強化にもつながる=ロイター

例えば、線審が「アウト」とコールしても主審が覆すことはよくある。が、「その前に選手と目が合い、あるいは指でアウトのジェスチャーなどをされたら、主審は踏み込めない。特に流れが変わりそうな場面では、主審にコールを覆させないよう、選手はアピールしたほうがいい」。コートの不具合、対戦相手の行動、集中を妨げかねない観客などを審判に指摘するのは試合の中の駆け引きの1つだ。ここぞ、という効果的なタイミングで声を上げることが大切だが、日本人はあまり得意ではない。その点では審判は試合の流れが見えており、また審判に響く呼吸も知っている。「こうした情報の有無が選手強化においても大きな差となる」

日本にもなり手はいる。国内だけで通用する審判資格の保有者は4000人ほどおり、岡村さんが論文のために行ったアンケートでも4割ほどが国際審判に興味があった。ただ、「語学」「金銭的負担」「時間的余裕」の3つの壁が立ちはだかる。

JTA審判委員会委員長の岡村徳之さん

JTA審判委員会委員長の岡村徳之さん

国際審判になるには、一定レベルの国際大会で30試合以上主審を務めてから、JTAの推薦で国際テニス連盟(ITF)の講習会、テストをパスして「ホワイト」資格をまず取得する。さらにATPチャレンジャーなどで60試合以上の主審経験を務めてから、再びITFの講習会・テストを経て、初めて国際審判になれる。

講習も試験も英語だ。時には、18年の全米オープン女子決勝、大坂対セリーナ・ウィリアムズ(米国)戦のような荒れる試合もある。いきり立つ選手をなだめ、スムーズに試合を運ばせるだけの英語力も求められる。一方で、報酬は日本国内の大会で主審を務めた場合、ブロンズ格で日当1万5000円。WTAやATPではもっと高水準とはいえ、審判員との兼業に理解のある職場が必要だ。

東京五輪に備え、海外からゴールド審判を招いて研修した結果、19年は20代の女性が一人、国際審判に合格した。「今後は楽天ジャパン・オープンなどでボールパーソンをする大学生らをスカウトし、少数精鋭で日本協会がサポートする体制が必要。最短2年半で取得できると思う。年間300万~400万円を投じるだけで、かなり変わる」と岡村さん。数年後、日本人チェアアンパイアが四大大会の審判台に座っている日はくるか。

(原真子)

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