年金改革法が成立 7つのポイントを解説
編集委員 田村正之

2020/5/29 2:00 (2020/5/29 11:45更新)

公的年金は繰り下げ受給開始時期の選択肢を拡大、私的年金では個人型確定拠出年金が拡充される

公的年金は繰り下げ受給開始時期の選択肢を拡大、私的年金では個人型確定拠出年金が拡充される

公的・私的年金の改正法案が29日の国会で成立した。公的年金では繰り下げ受給開始時期の選択肢拡大、私的年金では個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充など、長寿化の中で個人の老後資金に大きな影響を与える項目が目白押し。いつ変わるのか、施行時期を一覧にするとともに、ポイントを「7つのQ&A」にまとめた。

■公的年金編

Q1 年金受給の繰り下げ・繰り上げはどうなる?

A 原則65歳に受給開始である年金は現在70歳まで受給開始を繰り下げられるが、2022年4月以降、選択肢が75歳まで延びる。施行日時点で70歳未満の人が対象になる。

1カ月繰り下げるごとに0.7%増額されるのは現行通り。70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%増えた金額が終身で続く。繰り下げ期間中もらえなかった金額を受給開始後の増額で取り戻せる年齢は、何歳で受給開始した場合も受給開始後12年弱。つまり70歳受給開始なら82歳弱、75歳受給開始なら87歳弱だ。

増額になると税・社会保険料が増えるので、金額・地域にもよるが手取りの増額率は額面より縮みやすい。厚生年金を繰り下げれば年金版「家族手当」ともいえる加給年金がもらえないなどの注意点もある。事前に年金事務所などで確認したい。

繰り上げ受給は従来通り最大60歳までだが、減額率が現行の1カ月0.5%から0.4%に縮小する。つまり、60歳まで繰り上げた場合の減額率は現在の30%から24%になる。平均余命が伸びたため、減額率を下げても、65歳受給開始と比べた平均余命までの総受給額が変わらないようになったからだ。施行日以降に60歳になる人が対象。

減額は一生続く。早くもらい始めることによる減額が65歳以降にもらい始める人に逆転される年齢は、何歳で受給開始しても受給開始後21年弱。つまり60歳まで繰り上げると81歳弱で逆転される。

繰り下げ・繰り上げの選択に迷った場合、年金の本質は「長生きリスクに備える保険」であることを思い出したい。1960年生まれで65歳に達した人が90歳まで生きる確率は男性38%、女性64%。当面の資金に余裕があれば、繰り下げで増額した年金を終身受給できるようにすれば長寿の安心材料になる。

Q2 短時間労働者の厚生年金加入拡大は前向きに活用したほうがいい?

A 週20時間以上30時間未満の短時間労働者が一定条件下で厚生年金に加入するのは今は501人以上の企業だが、2022年10月に101人以上の会社に、24年10月に51人以上の会社に広がる。

厚生年金保険料は会社と折半。いま国民年金の第1号被保険者として会社で働いている短時間労働者は、国民年金保険料より折半負担の厚生年金保険料が安いので負担が減る一方、将来は国民年金に加えて厚生年金がもらえるようになる。単純に有利だ。

パートで働いている会社員の妻など第3号被保険者はいま年金保険料を負担していない。厚生年金加入になれば保険料負担が新たに発生するが、女性の場合、平均的な年齢まで生きれば将来の厚生年金の総受給額が保険料負担の合計を上回りやすい。目先の負担を避けるためだけに勤務時間を20時間未満に調整するのは必ずしも得策ではない。

Q3 22年4月からの「在職定時改定」って何?

A 厚生年金は長く加入するほど受給開始後の年金額も上がる。しかし現在は65歳以降、厚生年金をもらいながら働いている期間は厚生年金の額に変化がなく、退職するか70歳になった時点でまとめて計算して増額する仕組みになっている。

しかし改正後は年に1回、10月分以降、増額される仕組みに変わる。「働き続ければ年金が増える」ことをより実感しやすくなる。

Q4 在職老齢年金の基準緩和の効果は?

A 現在65歳未満(60~64歳)では、月収(ボーナス1カ月換算含む)と厚生年金の合計が28万円を超えると、超えた金額の半分が減額される。例えば月収30万円で厚生年金10万円の場合、28万円を超える12万円の半分の6万円が削られ、厚生年金は4万円になる。22年4月以降は基準が47万円になるため、この場合は減額されなくなる。

ただし60代前半に厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)が出るのは1961年4月1日生まれ以前の人だけ。これ以降の生年月日の人は無関係だ。

65歳以上は47万円超で減額が始まるのは現在と変わらない。65歳超の在職老齢年金対象者は受給権者の2%弱と少ない。

■私的年金編

Q5 イデコへの加入可能年齢が65歳まで延びる。対象は?

A 自分の運用次第で将来の年金が変わるのが確定拠出年金(DC)。会社が掛け金を出すのが企業型で、自分で掛け金を出す個人型がイデコだ。ともに運用時は非課税で増やせるほか、イデコは掛け金が税金の対象からはずれるのでその分節税になる。

イデコ加入は現在は60歳未満の人が対象だが22年5月から65歳未満に延びる。例えば22年5月時点で60歳を過ぎていても、65歳になるまでは加入できる。

ただし全員ではない。イデコは国民年金の加入者が上積みで使う仕組みだからだ。第1号や第3号被保険者が国民年金に加入できるのは60歳までだが、未納期間などがあれば65歳まで国民年金に任意加入でき、その間はイデコにも加入できる。

会社員は厚生年金に加入して働けば国民年金にも加入していることになり、イデコに65歳まで加入できる。

Q6 企業型DCとイデコが併用できるようになる?

A 現在企業型DCを導入する企業は掛け金の上限額を下げる規約変更をしないとイデコが併用できない。このため2つを併用できるのは企業型DCを導入する企業の4%にとどまる。

22年10月からは規約変更なしでイデコが併用できる。ただし会社掛け金とイデコの合計額が企業型DCの掛け金上限額の範囲内であることが条件だ。

企業年金が企業型DCだけの会社の掛け金上限額は月5万5000円だが、会社の掛け金は1万円以下の人が約半数を占める。会社の掛け金1万円なら枠が4万5000円余っていることを意味する。

イデコの掛け金上限額は企業年金の加入状況などによって異なるが、企業型DCだけの会社なら上限が月2万円。この場合、2万円を上限にイデコを上積みできる。仮に会社の掛け金が4万円の場合は、枠の残り1万5000円がイデコの上積みの上限額になる。

企業型DCを導入する企業の3割には、従業員が会社の掛け金に上積みできる「マッチング拠出」の仕組みがある。会社の選んだ運用商品が気に入らない場合などは、マッチングを選ばずイデコを選べるようになる。

Q7 今年10月から対象企業が広がる「イデコプラス」って何?

A イデコは自分で掛け金を出す仕組み。しかし事業主が一部上積みできるのがイデコプラスだ。現在は従業員100人以下の企業が対象だ。例えば従業員が月5000円を拠出、事業主が1万円を上積みするという具合だ。事業主の掛け金は税務上の損金になるうえ、事業主の掛け金の金額に対して従業員に税負担や社会保険料負担は発生しない。

中小企業では独自の企業年金をつくる余裕がないケースも多い。一方で従業員の老後資金形成も重要な課題。このため福利厚生のためにイデコプラスを導入するケースが増えていて、3月現在で1462社が活用している。法改正ではイデコプラスを使える企業が従業員300人以下に拡大する。

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