新型ウイルスの起源追跡 中国のコウモリ洞窟探る
日経サイエンス

コラム(テクノロジー)
2020/5/30 2:00
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今回の新型コロナウイルスはどこから来たのか? 中国・武漢ウイルス研究所の石正麗(シー・ジェンリー)氏らは、中国南部・雲南省のキクガシラコウモリで同チームが以前に発見していたコロナウイルスと新型ウイルスのゲノム配列が96%同じであることを突き止め、2月初めに学術誌に報告した。短期間で起源を特定できたのは、石らが長年にわたって動物が保有するウイルスを追跡してきたからだ。人間と野生動物が接触する機会が増え、アウトブレーク(集団感染)が起こりやすくなっている。

中国科学院武漢ウイルス研究所の実験室が入る建物=中国・武漢(共同)

中国科学院武漢ウイルス研究所の実験室が入る建物=中国・武漢(共同)

野生動物が自然の保有宿主となっているウイルスが変異し、人間に感染するケースが知られている。2002年に重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こしたコロナウイルスもコウモリが保有宿主だった。これを特定したのが、非営利研究機関エコヘルス・アライアンス(本部ニューヨーク)と石らの国際チームだ。石はウイルス学者だが、中国各地のコウモリ洞窟を調査してきたことから、研究仲間からは親しみを込めて「中国のバットウーマン」と呼ばれている。

保有宿主を突き止めるには野生動物の血液や糞を採集し、ウイルスの遺伝物質(RNAやDNA)が含まれているかどうかを解析する。人里離れたコウモリ洞窟を踏査してこれを実行するのはたいへんな作業だ。石らはSARSウイルスの起源を追跡するなかで注目した雲南省の洞窟を徹底的に調べ、遺伝的に非常に多様な数百種のコウモリ媒介ウイルスを発見した。大半は無害だが、数十種はSARSの病原体と同じグループのコロナウイルスだった。

こうした洞窟の多くでは異なるウイルスが常に混合し、危険な新病原体が出現する"ウイルスのるつぼ"となっている。その近くでは、野生動物をじかに取り扱っている人でなくても感染してしまう可能性がある。石のチームはかねて、コウモリ媒介コロナウイルスのアウトブレークが起こる危険を警告していた。

致死的な病原体が出現してから対応するのではなく、もっと踏み込んだ取り組みが必要だろうと多くの科学者はみている。最善の道は予防だ。動物起源の新興感染症の70%は野生動物に由来しているので、起源の特定と優れた診断キットの開発が最優先事項となる。変異して人間に感染する可能性のあるウイルスの存在を調べ上げて地図化したら、その後は保健当局が人々から集めた検体を解析することによって、実際に感染が起こっているかどうかを定期的にチェックできるようになるだろう。

(詳細は現在発売中の日経サイエンス7月号に掲載)

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