不動産は忘れた頃にやってくる(平山賢一)
東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長

プロのポートフォリオ
2020/5/30 2:00
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写真はイメージ=PIXTA

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2020年3月は、新型コロナショックにより、金融市場が混乱しました。株式市場や債券市場の変動が大きく、毎日、変化する価格に心穏やかでない個人投資家の皆さんも多かったのではないでしょうか。確定拠出年金や少額投資非課税制度(NISA)を活用して、金融資産を保有している個人投資家は、十年前とは比較にならないほど増えているため、一部の人だけの問題ではありません。

これら金融資産よりも注目すべき資産が、あまり触れられることのない不動産です。数千万円、もしかすると数億円という評価額の不動産を保有している家計も多く、預金や株式、債券といった金融資産と比べて、家計のポートフォリオ・保有資産総額の計算に大きな影響を与えるからです。

そのため、資産運用をする個人投資家は、資産の中でも大きな比率を占める不動産価格の変動にも注意を払うべきなのです。しかし、銀行や証券会社の店頭などでは、一部を除くと不動産価格の変動の話をすることがありません。不動産価格も、30年前の平成バブル崩壊により、株価と同様に大幅に下落したのですから、しっかりと目を光らせる必要がありそうです。

図表で示したように、1984年4月を100としたときに、日経平均株価は89年12月に354まで上昇し、上下動あるものの約20年後の2009年2月の69で底値をつけ、その後は上昇基調で推移しています。別荘を持っている人は別ですが、普通の家計が保有している戸建住宅(東京都)は、株価に遅れること10カ月後の90年10月に高値263をつけ、株価よりも少し遅れて2009年4月に98でボトムアウトし、上昇に転じています。興味深いことに、変化率は異なるものの、長期的な推移という観点からは、株価も不動産価格も同じような動きをしているのが確認できます。

取引所で取引されている株式などの金融資産は、評価値が瞬時に変化します。一方、不動産の場合には、日々売買が成立しているわけではなく、鑑定価格や実際に取引のあったときに明らかになる取引価格で評価するほかありません。換金できる価格水準がわかりにくく、このため不動産価格は緩やかに変化する特徴があり、株価に遅行することが多いようです。株式と比較しても、その変動率(月次変化率の年率換算標準偏差)は抑えられて、図表にある東京都の戸建住宅の場合には、日経平均の半分程度になっています。

ただし注意しなくてはいけないのは、同じ不動産を裏付けにしたJ-REIT(不動産投資信託)は、取引所に上場され、時々刻々とプライシングされているにもかかわらず、不動産そのものは、低頻度でしか価格情報を得ることができません。

そこで、開発されたのが日次不動産価格指数(Daily P.P.I. https://daily-ppi.japan-reit.com/)です。この指数は、実質的にオフィスビルやマンション、物流施設、商業施設、ホテル、ヘルスケア施設などへ投資しているJ-REITの価格推移から、そこに内包される不動産価格情報を抽出し、タイムリーかつ高頻度な不動産価格指数を求めたものです。

新型コロナショックにより、2020年1月末から3月までの2カ月間で、日経平均株価は18.5%下落しました。この間の東証REIT指数は、下落率28%になっています。J-REITの特徴である「借入によるレバレッジ(有利子負債比率45%程度)」を調整した日次不動産価格指数を活用すると、同期間の不動産価格は、東京のオフィスビルで21%程度、住宅で11%程度下落していたことが推計されます。一般的な不動産価格は、遅行して公表されるとともに、その評価額そのものも緩慢に推移するため、株式などと同列に比較するためには、このような指数を使うというのも一つの手かもしれません。この指数では、日次でタイムリーに不動産価格のめどを把握でき、後になって慌てることが避けられるからです。

不動産は、すぐに他の資産に入れ替えられない、もしくは売却に手間がかかるといった「非流動性資産」の一つです。思い立った時に、他の資産に入れ替えにくいからと言って、スピードの速い現代社会を生きる私たちは、その評価額の推移を無視してもよいというわけではないでしょう。不動産価格の転機は、金融資産よりも遅れて明らかになるだけに、「不動産は忘れたころにやってくる」という点は、意識しておきたいところです。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
平山賢一(ひらやま・けんいち)


1966年生まれ。横浜市大商卒、埼玉大大学院修了。博士(経済学)。学習院女子大・東洋大非常勤講師。30年にわたり内外株式や債券を運用。著書に「戦前・戦時期の金融市場」。

[日経ヴェリタス2020年5月31日付]

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