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立体視で衝突を避ける スバル「世界初」の両眼カメラ

特集 クルマ安全機能の最前線(4) スバルに聞く(前編)

「ぶつからないクルマ?」のキャッチコピーで話題となったスバルのアイサイトは、約10万円という低価格もあって衝突被害軽減ブレーキを国内で普及させるきっかけのひとつとなった

現在のクルマには事故を防ぐためのさまざまなシステムが搭載されている。ただ、それらの機能はメーカーによって異なる。自分の乗っているクルマの安全運転支援技術が、どんな意図で生まれたものか、どんな機能を持っているのかを知ることこそ、安全運転の重要な要素になる。

この特集ではメーカーの担当者に話を聞き、その取り組みや具体的な機能について話を聞く。今回、取材に訪れた自動車メーカーは、SUBARU(スバル)だ。「ぶつからないクルマ?」のキャッチコピーが話題となったスバル独自の先進安全運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」について、前編、後編の2回にわたり、入社以来開発に携わってきた技術者の丸山匡さんに、自動車ライターの大音安弘氏とNIKKEI STYLE編集部が話を聞いた。

幻となる可能性もあったアイサイト

アイサイトは、スバルが2008年に投入した先進安全運転支援システムの呼称である。最大の特徴は、人間の目の同様、並列に配置した2つのカメラの画像を組み合わせることで前方を立体的に捉え、認識するステレオカメラを用いることだ。このカメラによるセンシングだけで、衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制制御、全車速域追従機能付きクルーズコントロールといった先進安全装備を実現。さらに最新版では、自動車専用道路上でステアリング操作やアクセル、ブレーキ操作をアシストする自動運転レベル2相当の「ツーリングアシスト」も用意した。スバル独自の技術であるアイサイトは一体どのように生まれ、進化してきたのだろうか。

大音 アイサイトの開発がスタートしたのは、いつごろでしょうか。

丸山 コア技術であるステレオカメラの開発は、1989年から始まりました。元々はエンジン内部の燃焼を計測する装置として社内開発が始まり、それを安全技術に転用したという経緯があります。一からすべてを自社で開発してきたからこそ、世界で初めてステレオカメラのみで各種機能を実現した運転支援システムを実用化できたと思っています。

スバルの丸山匡氏。2003年の入社以来、アイサイト関連の仕事に携わってきた

大音 丸山さんご自身はいつからアイサイトに関わっているのですか。

丸山 2003年の入社以来、ずっとアイサイト関連の仕事に携わってきました。当時はステレオカメラにミリ波レーダーを組み合わせたシステムで、「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」という名称でした。価格は50万円程と高価だったこともあり、あまり売れませんでした。

編集部 オプションで50万円ですか!それは売れませんよね。

丸山 このため社内でも、ステレオカメラのプロジェクトは存続の危機にありました。それが2003年の、ちょうど私が配属された直後のことで(笑)。

大音 存続の危機にあった技術が、どのようにアイサイトへとつながっていったのでしょう。

丸山 安全快適を提供する機能ですから、たくさんのお客様に使っていただきたい。でも50万円ではまず購入していただくことが難しい。そこで価格を下げるためにステレオカメラをやめ、代わりにレーザーレーダーを使ったシステムを投入しました。

大音 売れ行きはどうでしたか。

丸山 価格を下げたことで一定数売ることができ、社内でも先進安全装備の必要性が理解されはじめました。そこで開発がストップしていたステレオカメラの開発も再開できたんです。

そして世に出たのが、2008年の「アイサイト(Ver.1)」です。ただ初代のアイサイトは、衝突を回避できない仕様でした。もちろん、衝突しそうになるとブレーキが作動するのですが、最後にコツンとぶつかって停車するのです。

大音 当時、完全停止させるべきか、議論になっていましたよね。

丸山 はい。ユーザーの過信を招いてはいけないという理由から「完全停止は不可」という考えがありました。その後、完全停止も認められるようになったため、2010年に発売した5代目レガシィには衝突回避もできる「アイサイト(Ver.2)」を搭載しました。これが「ぶつからないクルマ?」のキャッチコピーで話題となったアイサイトです。価格はぐっと抑え、約10万円としました。その結果、価格と性能が市場から評価され、アイサイトが世の中に、広く知られるきっかけとなりました。

アイサイトの認識イメージ。人間の目と同じように2つのカメラで前方を立体的に捉えられるため、目の前の物体が「衝突の可能性がある道路を横切る立体物」なのか「地面に描かれた(衝突の可能性がない)模様」なのかを判別できる。

ステレオカメラにこだわる理由

大音 他社には単眼カメラとレーダーを組み合わせたシステムもありますが、スバルがステレオカメラにこだわってきたのはなぜですか。

丸山 ステレオカメラは、人と同じ2つの目で見ることで、画像の識別と、視差による距離測定ができる優れたシステムなんです。「クルマは人が運転するのだから、目と同じ仕組みのステレオカメラでも運転ができるはずだ」という考えで開発してきました。

ただステレオカメラを量産化するには、高いハードルがあります。製造の精度が高くないと正確な距離が測れないからです。ここが非常に難しいのですが、それでもスバルがステレオカメラを続けられたのは、元々計測機として開発してきた経験も大きかったと思います。

編集部 センサーとして見ると、レーダーにもメリットはあるのではないですか。

丸山 もちろんです。例えば、粉雪が舞うようなドライバーの視界が悪い状況では、電波を使うレーダーのほうが先行車を捉えやすいという強みがあります。ただしレーダーも、カバーに雪が付着してしまうと使えません。一方、室内に設置されているステレオカメラは、フロントガラスの雪をワイパーで取り去ることが可能ですから、状況によってはステレオカメラのほうが雪に強いケースもあります。

ステレオカメラは正面から直射日光が当たる状況ではうまく作動できない場合もありますが、現在はこの点も大幅に改善されています。レーダーとステレオカメラはそれぞれ一長一短がありますが、総合的な評価では、ステレオカメラは悪環境にも強いほうだと思います。

編集部 スバルとしては弱点が少なく最も効率が良いものが、ステレオカメラだとお考えなのですね。

丸山 そうですね。もちろんセンサーを追加すればするほど精度は高まりますが、やはり買っていただける価格に抑え、お客様に使っていただくことが大切ですから。

編集部 現行車種ではどのくらいが装着しているのですか。

丸山 スバル製のほぼ全車種に標準搭載しています。設定がないのは、スポーツカーのBRZとOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けている車種だけです(※OEM元が提供する先進安全機能が設定されている)。

編集部 それは驚きですね。やはり先進の安全運転支援システムを気にする人は増えていますか?

丸山 クルマ選びにおいて優先順位の上位にあるのは、間違いありません。

後編ではアイサイトの強みや今後の方向性について、引き続き丸山氏に聞く。

フロントウインドー上部に設置されるアイサイトのカメラ部分。手前にあるスマートフォンと比べてもコンパクトに収まっていることが分かる
大音安弘
 1980年生まれ、埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在は自動車ライターとして、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材している。自動車の「今」を分かりやすく伝えられように心がける。

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