プロも愛用する「抗菌」調理道具 台所番長イチ推し
合羽橋の台所番長が料理道具を徹底比較

合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回は、ジメジメした日が続く梅雨時に求められる、衛生面での安全性を考慮した、高い抗菌性がある調理道具を紹介する。(価格はすべて税別)
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こんにちは、飯田結太です。今、生活スタイルが大きく変わろうとしていますね。飲食業界でもかつて経験したことがないほど、大きな変革を求められているようです。特にこれからジメジメした日が続く梅雨シーズンに突入することもあり、衛生面での安全性の確立は急務。そこで注目されているのが、抗菌能力が高い調理道具です。今飲食業界でヒットしている高抗菌・調理道具を検証します。
抗菌って何?
以前、スーパーマーケットの総菜売り場で発生した、腸管出血性大腸菌O157の食中毒感染をきっかけに、食材を取り分けるために用いるトングをはじめ、抗菌加工された調理道具が各メーカーから次々と登場しました。「抗菌」は今や誰もが知っている言葉ですが、どんなものなのか、抗菌と滅菌の違いなど、詳しく知らない……という人も多いのではないでしょうか。
調理道具に必要なのは、食中毒の原因となるような、O157などの大腸菌や黄色ブドウ球菌に対する効果です。抗菌は、「それらの雑菌の増殖を抑制する」もの。殺菌効果はありませんが、雑菌がすみづらい環境を整えたり、作ったりする作用があります。
一方、滅菌は「雑菌を殺菌する」こと。主に病院の器具や注射などに施されています。抗菌よりも滅菌のほうが菌に対する効果は高いといえます。
調理道具の抗菌加工の方法には2種類あります。ひとつは、抗菌性のある銀などの素材を練りこんだり、混ぜ合わせたり、素材自体が半永久的に抗菌作用があること。もうひとつは、フッ素樹脂加工のように、鉄やプラスチックなどの素材の上から抗菌性のある素材を塗布したもの。
塗布したものは、使っているうちに徐々に剥離してしまうこともあり、現在の主流は、半永久的に抗菌効果が続く銀や銅などを素材に練りこんで加工したものです。塗布されたものより価格は高くなりますが、効果が持続するほうが安心ですよね。また、チタンなど、半永久的にさびず、銀を含有していて、雑菌の増加も防げる素材が使われた調理道具も急増しています。
抗菌・耐熱性も高いトング

抗菌性のある調理道具のなかでも広く浸透しているのが、トングです。調理中に使用するのはもちろん、ビュッフェスタイルのレストランや総菜店など、不特定多数の人が使用する場所では必須アイテム。
田辺金具のトングは、ハンドル部分はステンレス、食品に触る先端部分のナイロンに抗菌材を練りこんで成型しています。さらに、270度まで対応するなど耐熱性も抜群。耐熱270度は、揚げ物にも使用できるということ。長い間高温の油の中に入れたり、熱いフライパンにジューッと押し付けたりすると溶けてしまうこともありますが、普通に使用していれば溶けることなく、半永久的に抗菌能力も持続します。
衛生面だけではなく、一般的なトングに比べて握りやすく、食材をつかみやすいことも大きな特徴。ずっとリピート買いしたくなるトングです。
キラキラ輝く、新素材の滅菌保存容器

一見、ごく普通の保存容器ですが、よく見ると、キラキラと輝いているのが分かります。キラキラと輝くのは純銀。「ミューファンウエアー」は、ポリエステルフィルムの間に純銀を挟んだ構造で、半永久的に銀イオンを放出します。純銀は、乳幼児でも飲める腹痛用の医薬品「宇津救命丸」などに使われている、人体に害のない、抗菌性を持つ天然資源。防臭効果、静電気を除電、熱を遮断する機能も持っている万能素材です。

メーカーの実験によると、容器に入れて食材を保存していると、大腸菌や黄色ブドウ球菌などの雑菌は、24時間後には99.9%滅菌されたのだそうです。
湿度の高いこれからの季節は、おかずの作り置きや下ごしらえ、お弁当などに活躍しそうです。
軽くて超硬質、抗菌作用が続く チタン製刃物

光に触れると抗菌性を発揮するといわれる金属、チタン。高価な素材ですが、抗菌性が高いうえに金属の中でもとびぬけて軽量ということもあり、家庭用の調理道具ではたびたび使われてきました。最近では業務用として購入する人も増えています。どうやって抗菌して、食中毒を出さないように営業をしていくかは飲食業界にとって死活問題だからです。
チタン包丁は、銀やダイヤモンド粒子の粉末を混ぜて成型したもの。硬くて摩耗に対する耐久性も高いので、ほとんど研ぐ必要がなく、切れ味が長続きするすぐれもの。金属アレルギーが起きにくい素材なので、大変注目されています。
スライサーとピーラーは、チタンやセラミック製品を得意とする会社、フォーエバーのもの。数あるスライサー、ピーラーのなかで、チタンの刃を採用しているのはほとんどありません。抗菌性はもちろん、どちらも軽くて使い勝手も上々。「10年間さびない」を保証とし、もしさびたら無料で交換してくれるサービスがあるメーカーの自信作。
材木店の社長夫人が開発した最上級青森ヒバのまな板

青森ヒバはヒノキの一種で、最も抗菌作用が高い自然由来の成分、ヒノキチオールを多く含んでいます。ヒノキチオールには、ほかに防虫、防臭、消臭、酸化防止作用などもある無敵の自然素材。昔から最高級のまな板として使われてきました。
こちらは、材木店の社長夫人が、日頃使用している木のまな板が梅雨時になるとなかなか乾かず、雑菌も気になり、どうにかしたいという悩みをきっかけに開発されたもの。「洗いやすく、乾きやすい」をテーマに作られたまな板は、側面を斜めにカットしたことで、立てかけるときに接地面が少なくなるので乾きやすくなりました。さらに、側面が斜めになっているので簡単に手で持てるのも大きな特徴。木材のメリット・デメリットを熟知した材木店だからこそできあがった調理道具です。木のまな板は雑菌が付きやすいから敬遠しているという人にお勧めしたい衛生的なまな板です。

乾燥時の雑菌をつきにくくしたユニークなスポンジ

食器用のスポンジは、使用後に雑菌が増殖しやすく、衛生面で心配と思っている人も多いと思います。亀の子束子西尾商店の「亀の子スポンジDo」は、使用後の乾燥中の雑菌対策を考えた製品。片面は食器洗い用に研磨効果があり、グリーンやオレンジの色のついた面には、抗菌作用を生み出す銅の微粒粉を使用しています。この面が水に触れることでイオン化した銅の抗菌効果が発揮されるのだそうです。
実際に私は自宅で使用しているのですが、使用しているうちに、それまでぬめりやすかった排水溝がぬめりにくくなったので驚きました。銅イオンが少しずつ流れて効果が出てきたのかなと考えています。ただし、食器を洗う時に洗浄効果を発揮するのは、研磨加工がされている片面だけ。抗菌効果を持続させるために、色のついた面は食器洗浄用には使用しないでくださいと注意書きが。ユニークですね。
急増中の新素材、抗菌ステンレスの調理道具

さびず、硬くて丈夫で、汚れも落としやすいことから、清潔に保てる素材として調理道具には欠かせないステンレス。ステンレス自体に抗菌性はありませんが、メリットが多い金属として多用されてきました。そこに登場したのが、銅を含有した抗菌性を持つステンレス(抗菌ステンレス)です。
調理過程で、下ごしらえや保存などで使用するバットやボウルは抗菌された道具をそろえたいもの。現在、厨房用品でも抗菌ステンレス製が急増中で、近い将来はあらゆるステンレス製品が抗菌ステンレスに変わっているかもしれません。衛生面を考えるなら、まずは調理の下ごしらえに使う道具からそろえていくのが安心ですね。
高い抗菌性を持つ調理道具は決して安価ではありませんが、今後はこれらが定番になっていくと思います。生活スタイルが変わり、外食が減っておうちごはんが増えていくこれからは、家庭の中でも衛生面で意識を高く持つことが求められる時代になっていきます。梅雨時の今こそ、楽しく衛生的に家庭での調理を楽しんでみてはいかがですか。(談)
(文 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)
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