米中対立、資本市場にも火種 中国 対抗の構え
米投資家の権利制約のリスク

米中衝突
習政権
2020/5/23 23:15
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アリババ集団もVIEの仕組みを利用し米国上場を果たした(2014年の上場セレモニー、ロイター)

アリババ集団もVIEの仕組みを利用し米国上場を果たした(2014年の上場セレモニー、ロイター)

【上海=張勇祥】米中対立が資本市場にも及ぶとの警戒感が市場で広がり出した。米国側は上院が中国企業を念頭に会計検査を拒んだ外国企業を上場廃止する法案を可決するなど、対中姿勢の硬化が鮮明だ。対抗して中国当局も米国投資家をリスクにさらす手段を打ち出すとの観測がくすぶる。中国企業が発行したドル建て債などについて、米投資家の利益を損なう制度見直しを通じ、米側を揺さぶるとの見方も浮上してきた。

中国側が米国への対抗策として利用するのではないかと投資家が懸念を募らせているのが「キープウェル」と呼ばれる条項だ。一般に、親会社が子会社の財務を良好な状態に保つことを約束する内容で、海外で社債を発行して資金調達する子会社を支援するために付けることが多い。

「キープウェルを付した債券は(支援の対象として)検討しない」。5月上旬。経営再建中の国有企業、北大方正集団の表明が伝わると債券市場に動揺が走った。

北大方正は子会社が発行したドル建て社債17億ドル(1830億円)にキープウェルを付与しているが、償還が危ぶまれている。同社は過去の野放図な投資や買収がたたり、日本の会社更生手続きにあたる「重整」を進めている。裁判所の判断次第では「キープウェルが無効になる可能性がある」(上海天尚弁護士事務所の郝燦弁護士)。

もともとキープウェル条項は親会社と債権者の契約ではなく、債権者は債券の元利払いを親会社に求めることはできない。「重整」手続き中とはいえ北京大学にルーツを持つ名門企業である同社の社債でキープウェルが機能しなければ、なし崩しに同条項を軽視する動きが広がりかねない。

キープウェルが機能しなくなると、子会社の資金繰りへの懸念から社債の価格が下落するなど、特に米投資家が影響を被るリスクがある。格付け会社大手のフィッチ・レーティングスは、同条項がつく中国企業の社債は960億ドル(10兆円強)にのぼると指摘する。

さらに米国で上場する中国企業の株式では、中国の法規制を回避するため使われる「VIE(変動持ち分事業体)」と呼ばれる仕組みに不確実性があるとされる。おおざっぱにいえば企業を2つの部分に分けて、1つが中国事業を手掛け、もう1つが海外上場などを果たす枠組みだ。

VIEはアリババ集団や百度など、米国に上場する中国企業に幅広く採用されている。海外投資家は企業の株式を直接保有するのではなく、様々な契約を通じて同等の権利を確保する。

だが、現時点では中国の法律にはあいまいな部分が残り、今後の動向によっては海外投資家が権利の制約を受けかねない。14年に米上場を果たしたアリババも、目論見書に、VIEが外資規制に抵触すると中国政府が判断した場合に、投資家が損失を被る可能性を記載している。

実際に中国当局が海外投資家の権利を損ねる動きを本格化させれば、中国側も企業の資金調達が難しくなるという返り血を浴びる。対米けん制手段として取り沙汰されることが多い、中国政府が保有する米国債の売却と同様に「抜かずの宝刀」に近い。

それでも、トランプ米政権が中国企業への圧力を強めるなか、米側にくぎを刺す一連の動きのなかにキープウェルやVIEが浮上する可能性は否定できない。中国当局が可能性に言及するなどの動きが出てくれば、市場の波乱要因になる懸念がある。米中摩擦が激しさを増す中で不確実性は高まっている。

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