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社長になろうとしないが社長の近道 自分の仕事に全力

セコマ 丸谷智保会長(下)

セコマ会長 丸谷智保氏

北海道で消費者から大きな信頼を得ているコンビニエンスストアのセイコーマート。運営会社セコマの丸谷智保会長は「お客さん目線を徹底しているのが強み」と自己分析する。さらに地域からの信頼を得続けるために、リーダーとして「お客さんに必要とされることが大切だと、従業員に教育することが重要」と考えている。

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――リーダーとして成功した体験を教えてください。

「セイコーマート(現セコマ)に入社して、私が最初から手がけた輸入ワインシリーズがあります。10年以上かけて、シリーズ全体で年間100万本売れる商品に育て上げました。輸入を始めた当初は好調に売れていたのですが、あるときビンの口が欠けている問題が生じて20万本くらい返品する騒ぎがありました。普通の小売業だと、それだけ損失がでたら取り扱いをやめるでしょう。それでも、私は『いい商品は育てるべきだ』と考えて、品質管理の専門家を連れて現地に出向いて自ら買い付けるなどして、その商品をしつこく追いかけました」

「今では独占販売権を持っていて、代理店として他の小売りにも販売するなど当社の柱の商品の一つに成長しました。いい商品というのは、年に何回も出てくるわけではないのです。商品を大事に育てる、苦労してこそなし遂げられることがある、と実感できた大きな成功体験でした」

――失敗したけれど、糧になった経験はありますか。

「2018年の北海道胆振東部地震の時です。セイコーマートは約1カ月で店を再開して、地域のお客さんの生活を支えることができたと自負しています。それでも地震直後は自社の倉庫や物流が止まって、とにかく商品が入ってこない状態でした。そこで本州の稼働していたメーカーの社長に直接頼みこんで、フェリーで商品を運びました。苫小牧と函館の港に陸揚げしたのですが、調達した量が多すぎたのです。結果的に欠品を避けることができたのでよかったのですが、商品をすべて売り切るのには相当な時間がかかったようです。小売業としてはお客さんの役に立ったので、差し引きしたらプラスでしょう。でも、経営的にはちょっと失敗したかな、と反省しました」

地盤を大切にして困難を乗り越える

――人材育成はどう考えていますか。

「セコマは食品製造から物流、小売りまで、サプライチェーン全体をグループでカバーしているので、それぞれの事業のプロフェッショナルが必要になります。そこでもっとも大切なのが教育です。例えば、食品メーカーの機能を持つ製造営業の業務は専門性が強く、とても大変です。商品の知識も豊富でなくてはいけないし、厳格な品質管理も求められます。そこは丁寧に教育することで対応しています。食品工場の工場長には、外部の研修をたくさん受けさせています。品質を管理する会議を開いて、事例研究で成功例を共有しています」

「お客さんと直接接する小売部門では、パートタイマーの従業員は約1万7千人在籍していて、全員を教育しています。ワークショップ形式での教育に加えて、入店時のトレーニングも内容を充実させています。店舗スタッフに求められるのは、レジの打ち方だけではありません。お客さんがうれしいと感じていること、いやだと思っていることを知っていなければ、良い接客はできません。スタッフを率いる店長も同じです。毎日のように来てくれる地域の固定客にどう応対するのか、そうした接し方も学ぶ必要があります。特に地震などの非常時に、こうした教育の成果がお客さんからの信頼感につながるのです。お客さんに必要とされているから店を開ける、という考え方を従業員全員に強く根付かせること。これが小売業のリーダーの大切な仕事だと考えています」

――金融業界で働いていたときに得た経験は現在生きていますか。

「大学を出て北海道拓殖銀行に入ったのですが、後に破綻しました。その時に得た一番の教訓は『企業は潰れてはだめだ』ということです。いくら社会の役に立つ企業でも、潰れてしまっては意味がない、と心の底から思いました。会社を継続させる上で大切なのは、地盤を持つということです。どんなに苦しいときでも、しっかりとした地盤を持っていれば困難を乗り越えることができます。足元のグリップ力。今、北海道という地盤になる地域を大切にしているのにはそういった経験が生きていると思います」

「その後、シティバンク、エヌ・エイに移ったのですが、シティは営業停止の制裁を受けたことがありました。私はちょうど、札幌支店長から本部の営業統括になった時期でしたが、一度落ち込んだ業績を戻すのに丸々1年かかりました。今、新型コロナウイルスの影響で売り上げを落としている小売業は多いと思いますが、回復には時間がかかると覚悟しています」

地域を大切にすることが店や会社を支えることにつながると信じている(2019年、北海道池田町での新店開業イベント)

――金融から小売りへ転職した時、壁を感じませんでしたか。

「外から見ると全くの別業種ですが、私はあまりハードルがあると感じませんでした。私は銀行では、個人金融部門などの担当をしていました。これは紛れもなくリテールです。お客さんからみれば、業種で店舗を区別するような意識はあまりないでしょう。ドラッグストアであろうが、コンビニであろうが、『小売りは小売り』でしかないのです。金融でも小売りでも、結局は『人』を相手にする仕事です。お客さん、ユーザーが必要としているものが何かを考えて、それをどう効率的にシステムにのせて提供できるか。金融も小売りも、何も違いはありません。金融から転職してきた時、『セコマはすごい会社だな』と思いました。どこまでもお客さん目線で商品を提供しよう、と取り組み続けているからです。それと、前にいた会社と比較しないよう気をつけています。新しい会社にいったら、良いところを見つけてその会社を好きになることが大切ですから」

泣く父の姿でリーダーの大変さ学ぶ

――リーダーとして気をつけていることは何ですか。

「法令順守、そしてウソをつかない、ということです。意図的に隠蔽するようなことがあっては絶対にならない。これをきちんとできているリーダーは意外と少ないのではないか、と感じることがあります。真面目に正々堂々と、当たり前のことを粛々と実行していくことが大切です。リーダーはこの点を間違えてはいけません。組織を明るい方向に持って行くためには不可欠なことです」

「私は読書も好きで、時代小説や戦国史をよく読んでいます。その中でも、真田昌幸など自分の信じる道を『正しく貫いた』リーダーが好きですね。戦いが強いとかでなく、そこに住む人々の幸福を願って戦ったリーダーが好きなのです。私も常に地域のために、真摯に取り組むということを忘れずにいたいです」

自宅の庭で野菜を栽培するのが趣味だという。独立した子どもたちも呼んで、庭でバーベキューをするのも好きだが「コロナの影響もあって、当分はできないでしょう」と語る。「毎年、妻と旅行に行くのも楽しみなのですが、これも難しそうですね」

――幼少期にリーダーについて考えたことはありますか。

「子供のころは表に立つことが、あまり好きではありませんでした。父の丸谷金保は北海道池田町の町長でした。小さいころから『田舎町のトップの息子』として見られていたのが重圧だったのです。生徒会長や部活動のリーダーとかも務めましたが、期待されることが多くて、参ってしまうと感じていたのが本心です」

「父は工場を町に誘致しようと取り組んでいましたが、競争で隣町に負けて泣いていたのを見たことがあります。町長として苦労する父の姿を見ていましたから、リーダーというのは本当に大変な立場だと感じました。ただ、社会人になってからは、どんな仕事も楽しくて夢中になりました。リーダーの仕事の面白さも分かってきました。そういえば、新入社員を面接した際に『どうやったら社長になれますか』と、面白いことを聞いてきた学生がいました。私は『社長になろうとしないことだ』と答えました。地位や肩書でなく、自分に与えられた仕事を一生懸命にやるということが大切なんだ、という当たり前のことを伝えたかったのです」

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丸谷智保
 1954年北海道生まれ。79年慶応義塾大法卒、北海道拓殖銀行入行。98年シティバンク、エヌ・エイ入行、顧客・人材開発本部本部長などを経て、07年セイコーマート(現セコマ)に入社。専務、副社長の後、09年に社長、20年から現職。北海道経済同友会副代表幹事、北海道経済連合会常任理事なども務める。

(久保田皓貴)

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