アルゼンチン債務危機、コロナで拍車 新興国で連鎖も

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2020/5/23 7:32 (2020/5/23 13:55更新)
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「債務返済にノー」と書かれたポスターの前を歩くブエノスアイレス市民(2月22日)=ロイター

「債務返済にノー」と書かれたポスターの前を歩くブエノスアイレス市民(2月22日)=ロイター

【ニューヨーク=宮本岳則、サンパウロ=外山尚之】アルゼンチン政府は22日、同日が支払期限だった5億ドル(約540億円)の国債の利払いを見送り、形式上は同国の9度目のデフォルト(債務不履行)が確定した。民間債権者の欧米投資家とは債務再編協議の継続で合意したが、政府側は強硬姿勢を崩さず、投資家側は不信感を募らせる。新型コロナウイルスによる景気の落ち込みが混乱に拍車をかけており、市場では新興国債務への不安が高まりそうだ。

■投資家側に募る不信感

「言葉よりも行動で示してほしい」。米大手運用会社ブラックロックや同ティー・ロウ・プライスなどで構成する米欧債権者団は22日の声明で、アルゼンチン政府の姿勢をこう批判した。政府は4月22日に一部債券の利払いを実施せず、30日間の猶予期間を利用して、債務再編案をまとめようとした。表向きは協調をうたいながらも、一方的に譲歩を迫る政府の姿勢に、投資家側はいらだちを募らせている。

22日に支払猶予期間が終わったことで、2014年以来、9度目となるアルゼンチン政府のデフォルトが決まった。外貨準備高は約430億ドルあり、当面の利払い能力に問題はないため、形式的な「テクニカルデフォルト」とみる向きもある。

ただし、今回の債務不履行が14年と異なるのは、アルゼンチン政府自らの判断で、利払いを止めたことだ。14年のデフォルトはヘッジファンドとの係争で米国の裁判所に支払停止を命じられた結果であり、政府側には利払いを予定通り実施する意志はあった。今回は「中長期にわたって債務返済を続けられなくなった」と宣言し、大幅な減免を求めている。

6月2日までの協議延長で合意したものの、先行きは予断を許さない。債務再編の対象になるのは主に05年に発行された国債や16年以降にドル建てで発行された国債で、合計で660億ドルにのぼる。

政府が提示した再編案は、利払い総額を6割減らした上で、3年間は支払いを「ゼロ」にする内容だ。投資家側は「正当化できない不均衡な損失を押しつけられる」として反発する。ブラックロックなどが出した対案は支払猶予を1年しか認めていない。

■アルゼンチン政府は強気の交渉姿勢

米欧投資家は左派フェルナンデス政権への不信感が強く、支払い猶予期間で折り合えない一因になっている。同政権は財政拡張的な政策を掲げている。3年間の「利払いなし」で財政規律が失われ、再びデフォルト危機に陥ることを懸念する。

一方、政権側は着実な財政再建には長めの猶予期間が必要との立場で、両者の主張の隔たりは大きい。国債は1年前に比べて5割超低い価格で取引されており、交渉の決裂と妥結の可能性を「両にらみした水準」(米証券アマースト・ピアポント)という。

もっとも投資家側のほうが劣勢にみえる。国際通貨基金(IMF)が2月に発表した声明で、アルゼンチンの対外債務1千億ドルは「返済不可能」と判断し、投資家側に債務減免を求めた。アルゼンチンのグスマン経済相に近いノーベル賞経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏も「大幅な債務減免が必要」などと発言した。こうした「援護射撃」がアルゼンチン政府側を強気にさせているとの見方もある。

実際、アルゼンチン経済の状況は刻々と悪化している。通貨下落と高インフレで19年まで2年連続のマイナス成長で、20年は新型コロナが追い打ちをかける。製造業や商業は壊滅的な状況でIMFは20年成長率をマイナス5.7%と予測する。シェールガス開発で「双子の赤字」解消を目指していたが、原油価格の下落で目算が狂った。もはや大幅な債務減免以外に経済再建の道がない。アルゼンチン側が交渉決裂も辞さない瀬戸際戦略をとるゆえんだ。

■新興国「デフォルト予備軍」に警戒感

アルゼンチン債務再編交渉を巡る混乱は、新興国投資のリスクを市場に再認識させた。ここ数年は世界的な低金利を追い風に、新興国は積極的に米ドルによる資金調達を行った。

ところが新型コロナは世界の経済活動に悪影響を及ぼし、新興国からは資金流出が目立った。足元では感染拡大の中心が新興国に移り、各国とも財政出動や金融緩和を迫られている。財政赤字体質で債務残高の大きい国は急速に財務が悪化しかねない。

IMFには100カ国以上がコロナ対応で緊急融資を求めている。支援要請に満額で応えられない場合、その「しわ寄せ」は民間債権者である投資家側にくる。20年に入ってデフォルト状態に陥ったのは中東レバノン、南米エクアドルとアルゼンチンの3カ国だ。いずれも国際金融市場への直接的な影響は小さいが、「デフォルト連鎖」が投資家の間で意識されれば、新興国の資金流出を招く恐れがある。

市場は「デフォルト予備軍」に警戒を強めている。その一つが中東の産油国バーレーンだ。債務不履行(デフォルト)の確率を取引する金融派生商品、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、同国のCDS保証料率が4.8%まで上昇した。トムソン・ロイターによると保証料率から計算したデフォルト確率は3割に達する。格付け大手フィッチ・レーティングスは今年、国債のデフォルトが最多になると予想している。

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