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コロナ収束見据える ヘルスケア企業が対応すべき変化

日経バイオテク

新型コロナウイルス感染症の収束に向けて、様々な対応が取られている。今後、製薬企業をはじめとするヘルスケア企業に求められる対応を、研究開発、調達・製造などの領域ごとに分析する。

中核機能の再定義が求められる研究開発

ヘルスケア企業の利益の源となるのは、言うまでもなく研究開発である。だが新型コロナウイルスの感染拡大により、その研究開発業務が大きく影響を受けている。化合物の合成や動物実験、成分分析など実際に手を動かさないと行えない研究が多数あり、出勤自粛により研究活動を止めざるを得ないケースが増えているためだ。

また、臨床試験については、臨床研究システム開発の米メディデータによれば2020年4月前半の日本における新規患者登録数が前年同期比で57%減少しており、患者の登録が難航している。

国内では、武田薬品工業アステラス製薬をはじめとする主要企業が、新規介入試験の立ち上げを休止するなどの影響が出ている。医療機器でも同様に、治験の実施施設である病院において新型コロナウイルス感染症への対応に追われ、治験が後回しになって遅延が発生している。

今後、新型コロナウイルス感染症が長期化することを考慮すると、研究開発業務のうちリモート対応が可能なものは急速にリモート化が進展すると考えらえる。代表的なものが臨床試験のバーチャル化だろう。オンラインで患者のフォローアップが可能なバーチャル臨床試験のプラットフォームが出現してきており、長期化により急速に普及が進むと考えられる。

臨床試験の実施地域についても変化が起こる可能性がある。薬剤に関する英国の学術誌によると、感染拡大を制御している中国では、臨床研究体制がパンデミック(世界的な大流行)前と同じ水準に戻りつつあるという意見がある。一方、感染が制御できていない欧米では、臨床研究の体制立て直しに3~6カ月必要との意見や、見通し不可能との意見がある。

つまり感染制御の程度によって臨床研究体制の地域間格差が生まれている。これを考慮すると、今後開始される臨床試験は感染制御を達成した地域を中心に患者登録がされ、治験戦略も従来とは異なってくると考えられる。

一方で、研究業務は分散化社会への対応が難しい。研究業務は実験操作が煩雑でありロボットによる作業代替も部分的にとどまっており、全業務をリモートで対応することは現時点では困難である。そのため、いずれかの段階で個人間の接触をできる限り避ける対策を施し、研究活動を再開する必要があるだろう。

これを機に、コンピューターを活用し実験量を削減する「インシリコ・シミュレーション」や自動化システムによる省人化の重要性が増すだろう。中長期的には、競争力の源泉となる研究機能を定義し、そうでない部分は外部への委託や連携を活発化させることも求められるだろう。

柔軟かつ頑健な供給体制に

では調達・製造についてはどうだろうか。ヘルスケア業界に限らず、今まではグローバル社会を前提としてサプライチェーン(供給網)が構築されてきた。しかし新型コロナウイルス感染症により、これを見直す必要が出てきた。

調達を1つの国に依存してしまうと、その国で長期的な都市封鎖(ロックダウン)が起きた際に調達が停滞する懸念が出てくる。また、海外からの調達の依存度が高くなると、国家間での物流が停滞したときに致命的となりかねない。特に、自国における医療資源確保のために輸出制限を行うような国は、調達・製造に対するリスクが高くなってくる。

例として、ジェネリック(後発)医薬品供給の約20%を担うインドでは、感染を制御できずロックダウンが長期化する様相を呈している。医薬品原料の供給拠点である中国では、ウイルス発生源としてのリスクが再燃しており、これらの国における供給リスクが懸念される。そのため、供給リスク回避のためのデュアルソース(分散調達)化、供給リスクが少ない国や自国への移行などのサプライチェーンの見直しが必要となるだろう。

製造における考え方も今後大きく変化することが予想される。感染者が多ければ緊急性の低い疾患の治療行為は後回しにされ、落ち着けば治療が再開される。そのため、それらの治療に使われる医薬品・医療機器の需要も、感染症の動向によって変わると考えられる。

感染症の流行が予測できない以上は、需要に対してフレキシブルに対応可能なシステムが求められる。近年医薬品の製造において、需要変化に対応可能な連続生産システムの導入が盛んになってきており、今回の流行を機に一気に普及する可能性があるだろう。

販売・マーケティングではリモート化が加速

対人業務が多かった販売・マーケティングもリモートに移行すると考えらえる。医療機器や医薬品の販売業務では、医師とのコネクション構築に加え、アフターサービスや情報収集のために訪問を頻繁に行っていた。しかし、新型コロナウイルス感染症によって訪問を伴わない営業活動が浸透していくと考えられる。今後、オンラインなどIT(情報技術)を駆使した抜本的改革が急ピッチで進展することになるだろう。

販売・マーケティングのオンライン化は生産性向上にも寄与する。今まで対面営業のため移動により労働時間が消化されていた。しかしオンライン化により移動時間が無くなるため、1日何件も面談が可能となるだろう。

さらに、営業のデジタル化が進むことでログが残るようになるため、データを活用した新たな戦術が生まれ、人工知能(AI)などを用いることで最適な営業ルートを提案できるようになると考えられる。個人のノウハウや人的ネットワークに依存していた営業・マーケティングが、「データを活用したPDCA(計画・実行・評価・改善)の反復」を行うことで、より組織だったものに競争の源泉が移行する。その際に必要な営業・マーケティング機能の再定義が進むだろう。

ウィズコロナ時代のニーズに即したサービスが勃興

ウィズコロナ時代の新規ニーズに即したサービスの登場も考えられる。初診患者のオンライン診療が解禁されることで、患者は自宅から離れた診療所でも受診が可能となるため、その診療をサポートするための健康状態管理デバイスが普及する可能性がある。また、新型コロナウイルス感染症拡大により変化した院内オペレーションをサポートするために、自動化や機械化が進展することが予想される。

さらに、地方分散化した社会における地域医療の重要性は増加するため、地域医療活性化に即したサービス・ソリューションも出現するだろう。感染症に限らず地域内での医療サービスを効率的に提供するために、病院間連携を加速させるためのデジタル化が強く求められよう。

ヘルスケア関連分野でも新規ソリューションの出現・需要拡大が考えられる。食料品においては、免疫機能強化をうたった商品の人気が拡大することが予想される。また、ウイルスフリー空間の価値が向上するため、ウイルスを除去するような商品や設備の新たな機会が生まれると考えられる。ただし、このような分野ではエビデンス(科学的根拠)が無い製品が登場しやすく、注意が必要であろう。

訪れる変化を予見し、いち早く対応を

人々の価値観・ニーズは既に大きく変化してきており、今後さらにダイナミックな変化が訪れるだろう。そのため、各業界におけるビジネススキームも大きな変化を迫られることになる。この時代で企業が勝ち抜くには、ウィズコロナ時代におけるニーズ・社会課題を見極めなければならない。ニーズ・社会課題にいち早く対応しウィズコロナ時代にビジネスの基盤を築いた企業が、収束後のポストコロナ時代における成功企業となるだろう。

ただし収束する前に医療崩壊・経済崩壊が起きてしまうと、その後の経済回復が望めなくなる。そのため産官学一体となり英知を集結させ、感染を収束へ向かわせることが最重要であることは疑いようがない。短期的には新型コロナウイルス感染症の収束に向けて注力し、中長期的には新たなニーズ・社会課題を見据えた戦略立案を行うことが、ウィズコロナ・ポストコロナ時代での成功要因となるだろう。

(アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル 花村遼、同コンサルタント 田原健太朗)

[日経バイオテクオンライン 2020年5月22日掲載]

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