米、軍縮後退一段と 領空開放条約離脱へ
対中強硬論で拍車、新START延長に影

2020/5/22 7:26 (2020/5/22 7:38更新)
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米ロは2019年8月にINF廃棄条約も失効させている=ロイター

米ロは2019年8月にINF廃棄条約も失効させている=ロイター

【ワシントン=中村亮】トランプ米政権が21日、批准国の軍事施設を上空から相互に監視できる領空開放条約(オープンスカイ条約)から離脱する方針を決めた。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約に続く軍縮条約の破棄となり、冷戦後の安全保障の秩序が揺らぐ。米国では中国に対する強硬論が高まり軍縮の機運が後退している面も大きく、米中ロの軍拡競争に拍車がかかる恐れが強まってきた。

「残念ながらロシアは軍縮の義務や約束をことごとく破ってきた」。ポンペオ米国務長官は21日の声明でこう力説した。オープンスカイ条約に関してもロシアがポーランドとリトアニアに挟まれた軍事的な要衝カリーニングラードなどの査察を制限していると非難。「条約に残ることがもはや米国の国益ではない」と断じ、22日に離脱を批准国に通告するとした。米国は11月下旬に正式に離脱することになる。

ロシアは米国の主張に反発した。タス通信によると、外務省のエルマコフ不拡散・軍備管理局長は21日に「根拠がない」と反論した。米国がロシアの違反を口実に軍備管理条約からの離脱を正当化しようとしてきたと主張。「プランBがある」と米国の離脱に対抗策を講じる用意があると示唆した。

欧州当局者によると米ロや英独仏などは4月にロシアの条約違反の疑いを協議する対話の場を設けた。だが実際に協議が行われたのは1回だけで、同当局者は「大きな進展をするにはあまりにも時間がなかった」と指摘。このタイミングでの米国の離脱決定を嘆いた。トランプ政権は2019年秋に欧州諸国に対し、ロシアが違反を是正しない限り条約から離脱する方針を伝えていた。

オープンスカイ条約は冷戦で深まった米ロの相互不信を払拭する狙いで交渉が始まり、関係国が1992年に署名した。ブッシュ(父)政権のベーカー元国務長官は同条約を「偶発的戦争のリスクの減少に最も直結する措置だ」と意義を語った。米国は高度な人工衛星技術を保有しており査察飛行の意義が薄れたとみている節があるが、欧州の小国ほど同様の技術を持たず条約が欧州安保に寄与するとみている。

トランプ政権はこれまでも冷戦後の国際秩序を形成してきた軍縮条約に懐疑的な見方をしてきた。1988年に発効したINF廃棄条約を2019年8月に失効させた。米ロは地上配備型の中距離ミサイルの開発に着手し、軍拡競争が加速している。国連が1996年に採択した包括的核実験禁止条約(CTBT)についても米国はロシアが超低出力核実験を行い、条約に違反していると断じている。

トランプ政権が軍縮に消極的なのは軍拡を進める中国に対抗する意味合いも大きい。トランプ政権で軍縮問題を担当するマーシャル・ビリングズリー氏は21日、オンラインで講演し「軍縮は冷戦期にあった(米ロの)2カ国の対話であってはならない」と強調。「中国が超大国として扱われたいのであれば核戦力に関しても秘匿性を下げるべきだ」と訴えた。

今後の軍縮の試金石となるのが2021年2月に期限切れを迎える米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の行方だ。米政府は中国が今後10年間で核弾頭を少なくても倍増させると主張し、米中ロによる新たな核軍縮条約が必要だと訴える。ビリングズリー氏はロシアと新STARTの延長交渉を近く本格化させると説明したうえで「ロシアは中国に軍縮交渉に参加するよう働きかけるべきだ」との見方を示した。

だが中国はこれまで一貫して核軍縮への参加を拒否している。世界の核弾頭の9割を米ロが保有し、中国を圧倒しているからだ。トランプ政権は核弾頭数を中国の保有数まで減らすのか、それとも中国に米国の保有数まで増やすことを認めるのか方針が固まっていない。トランプ氏は18年から3カ国の軍縮条約を提唱したが具体案を示しておらず、中国に対する軍縮参加要求は新STARTを破棄するための方便との見方も目立つ。

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