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コロナ薬を拙速に承認すべきでない 有識者の真意は?

抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」は2000人以上の新型コロナウイルス感染症患者に投与されている
日経バイオテク

日本医師会のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)有識者会議は治療薬開発について、「エビデンス(科学的根拠)が十分でない候補薬を拙速に承認すべきでない」とする緊急提言を18日、発表した。緊急提言では具体的な薬剤名には言及していないものの、20日の記者会見では富士フイルム富山化学の「アビガン」(一般名ファビピラビル)などへの国民の過剰な期待が背景にあることを示唆した。

日本医師会には全国の約17万人の医師が加入している。同有識者会議は新型コロナウイルス感染症への対応を学術的な面から支援する目的で4月に発足した。座長は自治医科大学の永井良三学長、副座長は早稲田大学の笠貫宏特命教授(元東京女子医科大学学長)が務めている。

今回発表した緊急提言は、新型コロナウイルス感染症の治療薬開発についての独自の見解をまとめたもの。緊急提言で同有識者会議は、「医療崩壊も危惧される有事であるため、新薬承認を早めるための事務手続き的な特例処置は誰しも理解するところである。しかし有事だからエビデンスが不十分でもよい、ということには断じてならない」との見解を表明。

治療薬の開発に向けては、試験方法が適切に設計され、治療効果を比較するための対照群を置いたランダム化比較試験を実施すべきとした上で、「新型コロナウイルス感染症のように、重症化の一方で自然軽快もある未知の疾患を対象とする場合には、症例数の規模がある程度大きな臨床試験が必要となる。さらに、観察研究だけでは有意義な結果を得ることは難しい」と指摘している。

さらに、「エビデンスが十分でない候補薬、特に既存薬については拙速に特例的な承認を行うことなく、十分なエビデンスが得られるまで、臨床試験や(保険対象外の疾患に投与する)適応外使用の枠組みで安全性に留意した投与を継続すべき」とクギを刺している。

結果を真摯に待たなければならない

アビガンについては、国内では、倫理審査委員会の承認、医師の判断、患者の同意を条件として、観察研究の枠組みで適応外使用することが可能になっている。その結果、4月末までに、アビガンは1100カ所の医療機関で2194人に投与されている。

それと並行して、藤田医科大学の主導により、無症状または軽症の新型コロナウイルス感染症患者86人を対象に、アビガンを投与する臨床研究(第2段階にあたる第2相臨床試験に相当)が実施されている。

さらに富士フイルム富山化学は、重篤ではない肺炎を合併した新型コロナウイルス感染症患者96人(当初の目標)を対象に、アビガンまたはプラセボ(偽薬)を投与する、最終段階にあたる第3相臨床試験(治験)を行っている。

こうした中、政府は治験に限らず、前述した観察研究や臨床研究などで有効性が認められれば、5月中にもアビガンを新型コロナウイルス感染症に対しても承認する方針を示している。

笠貫副座長は記者会見で、「アビガンには国民の期待が大きくなっているが、感染拡大が抑えられてきて患者数が減っていく中で、科学的な根拠に基づき、『有効で安全だ』と言える結果がいつ得られるかは現時点では分からない。どういう結果が出るのか、いつ出るのかは真摯に待たなければならない、というのが今回の提言の趣旨だ」と説明し、緊急提言の背景に、アビガンへの過剰な期待があることを示唆した。

笠貫副座長によれば、緊急提言に向けて検討を始めたのは、「1週間と少し前のこと」。ただ同有識者会議が、アビガンの観察研究や藤田医科大による臨床研究、富士フイルム富山化学の治験などについて、最新情報を得ているわけではないという。20日には藤田医科大による臨床研究の中間解析で、「有効性の判断には時期尚早」との見解が示されたとの一部報道もあったが、緊急提言は、そうした中間解析の結果を受けたものでもないとした。

日本医師会の横倉義武会長は、「笠貫先生がおっしゃったことが全て」と今回の緊急提言に賛同する考えを表明。横倉会長は以前から、新型コロナウイルス感染症で重症化しやすい高齢者や基礎疾患のある患者に対して、アビガンをはじめとした抗ウイルス薬の早期投与が重要だと訴えている。その点につい問われた横倉会長は、「プロセスを踏み、観察研究で適応外使用で使うべきだと考えている」とコメントし、現段階で承認を要望しているわけではないことを示唆した。

もっとも、「新型コロナウイルス感染症患者を治療する医療機関が限られる中、観察研究で相当数の医療機関がアビガンを投与できるようになっている」とある業界関係者は指摘する。観察研究や臨床研究で劇的な有効性が認められれば別だが、そうでなければ、ランダム化比較試験である治験の結果を待つ必要がある。しかし、患者数が減少傾向にある中で、「プラセボを投与される可能性もある治験の患者登録がどこまで進むか」と懸念する声も出ている。

世界的にエビデンスに基づいて有効性だと確認された治療薬が求められる中、国内では「アビガンを観察研究で投与できる仕組み」によって、「アビガンのエビデンスの蓄積」に時間がかかる事態になっているとも言えそうだ。

(日経バイオテク 久保田文)

[日経バイオテクオンライン 2020年5月21日掲載]

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