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コロナ、ドーピング検査直撃 リモート採取の試みも

新型コロナウイルスの感染拡大が禁止薬物使用を取り締まるアンチ・ドーピング活動を直撃している。世界中で都市封鎖(ロックダウン)や移動制限措置が取られ、検査員がアスリートの自宅などを訪問する「抜き打ち検査」も困難な状況だ。完全な終息時期が見通せないなか、リモート検査のようなコロナ後のニューノーマル(新常態)を見据えた試みも出てきている。

WADAのバンカ委員長は「アンチ・ドーピング活動に求められるのはさらなるイノベーションだ」と検査手法の研究を急ぐ=ロイター

「人と人との接触を避けるように言われているなかで、検査員が選手の自宅を訪問するのはかなりハードルが高い」。日本のアンチ・ドーピング関係者は苦しげにこう話す。

ドーピング検査は各大会で競技終了後に行う場合と、選手の練習場所や自宅で行われる場合がある。世界中で大会や試合が中止・延期となっているうえ、競技外の抜き打ち検査も極めて難しい。世界中で検査数はかなり減っているもようだ。カナダの反ドーピング機関は感染リスクを考慮し、検査の一時停止を公表した。

不正行為が広がりかねない状況下で、世界反ドーピング機関(WADA)も何とかスポーツ界の秩序を維持しようと努める。選手には通常通りの居場所情報の提出を義務付けており、5月6日には各国でスポーツ活動が再開に動き出すのを見越して検査の指針を公表した。

検査員の負担を減らす狙いで血液検体より尿検体の採取を推奨。検査員と選手双方がマスクを着用することを勧めるほか、通常は検査員だけの手袋着用を希望する選手にも認め、除菌スプレーや消毒剤の調達も勧める。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の浅川伸専務理事も「かなりプラクティカル(実用的)な内容が示された。指針を丁寧にフォローしていく」と検査へ準備を急ぐ。

近年のアンチ・ドーピング活動は、大会本番の検査よりも違反者の参加自体を食い止める水際対策に主眼が置かれ、内部告発など情報収集にも力を入れる。来夏の東京五輪・パラリンピックを考えた場合、違反者を多く出す競技や疑いのある選手を徹底追跡するためにも、本番までの検査を停滞させるわけにいかない。ただ、秋以降に感染の第2波が来るとの予測もあるなかで、従来通りの検査方法では機能不全に陥る可能性も捨てきれない。

そんな中、米国反ドーピング機関(USADA)の「実験」が注目を集めた。検査員が選手のもとを訪ねることなく、オンラインで指示・監視をして行う遠隔検査だ。

米ニューヨーク・タイムズ紙によると、まず事前に検体採取のキットが選手のもとへ郵送される。その後、選手に連絡が入り、ビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」などのアプリを使い、採尿場所に他の人がいないことを確認。採尿中は撮影しなくていい代わりに、いま採取した検体であることを証明するために温度を測って見せる。あとは瓶の封をして送り返すだけだ。

米反ドーピング機関のリモート検査を伝えるツイッターの投稿。競泳男子選手の元に郵送された箱には、検査キットが入っていた

あくまでトライアルの位置づけだが、競泳女子のケイティ・レデッキーや陸上女子のアリソン・フェリックスら五輪金メダリストを含む20人近い選手が検査に協力した。ニューヨーク・タイムズ紙によると、レデッキーは「快適だった」と好意的に受け止める。米国でも感染が拡大し始めていた3月初旬に2度、自宅で抜き打ち検査を受けた際は「検査員が帰った後に部屋内をくまなく拭いた」という。人同士の接触を避けられる点では、選手と検査員の双方にメリットがある。

事前に採取・保存した検体とすり替えられるなどの可能性は完全には排除できない。ただ、手をこまぬいているわけにもいかない。JADAの浅川氏によると各国の関係者の関心も高く、「(電話会議で)USADAの人間にレクチャーを受ける機会もあった」という。「アンチ・ドーピング活動の停滞をどう乗り越えていくかという課題意識をみんなが共有している。もしかしたら、デファクトスタンダード(事実上の標準)になっていかないとも限らない」と浅川氏は話す。

WADAのウィトルド・バンカ委員長も「このパンデミック(世界的な大流行)が示したのは、アンチ・ドーピングに求められる、さらなるイノベーションだ」と語る。具体的には、指先などから少量の血液を採取するだけで済む乾燥血液スポット(DBS)検査の導入などを急ぐ考えだ。ロシアによる国ぐるみの不正に続き、いま再びスポーツの公平性を揺るがす事態と向き合っている。

(山口大介)

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