新型コロナ、各国で異なる「出口戦略」 4つの方向性

BP速報
2020/5/21 12:25
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ロックダウン中にパトロールする警官(イタリア、4月)=ロイター

ロックダウン中にパトロールする警官(イタリア、4月)=ロイター

日経バイオテク

新型コロナウイルス感染症の拡大に対し、各国が様々な対策を講じている。その方策は大きく4つの方向性に分けられ、それぞれの国で「出口戦略」が異なる。また、新型コロナウイルス感染症の影響が長引けば、アジア経済圏が台頭する可能性もあり得る。

■個人の徹底監視体制を敷く中国、韓国

まず1つ目の方向性として、「IT(情報技術)を駆使した個人の徹底監視による封じ込め」が挙げられる。代表的なのは中国や韓国である。

新型コロナウイルス感染症の収束に向けた各国の出口戦略の方向性(アーサー・ディ・リトル・ジャパン作成)

新型コロナウイルス感染症の収束に向けた各国の出口戦略の方向性(アーサー・ディ・リトル・ジャパン作成)

中国では、各自治体が利用者の健康状態を表示する「健康コード」というサービスを開始している。詳細なアルゴリズムは開示されていないが、行動履歴や家族構成などから感染リスクを割り出し、健康状態を緑・黄・赤の3段階で表示するシステムとなっている。「赤」「黄」判定となった人は、交通機関の利用や入店が制限され、自宅での自主隔離が求められるようになる。健康コードは、IT大手のアリババ集団傘下の電子決済サービス「アリペイ」のミニアプリなどから閲覧できる。

韓国でもITを駆使した行動監視による感染拡大防止を推進している。クレジットカードなどの利用履歴を追跡することによる行動監視に加え、携帯電話の位置情報・監視カメラから各個人の行動履歴を追跡し、感染疑いのある人物の追跡・隔離を実施している。これにより、韓国における感染拡大の第一波が迅速に抑えられたといっても過言ではないだろう。

シンガポールでは政府が提供するモバイルアプリ「TraceTogether(トレース・トゥギャザー)」による濃厚接触者の割り出しを3月20日から導入したが、インストールが任意であるため導入率が3割程度と低く、効力を発揮する7割程度には及んでいないようだ。

欧米でも近距離無線通信「Bluetooth(ブルートゥース)」を駆使した濃厚接触者の割り出しが可能なモバイルアプリを米アップルと米グーグルが共同で開発している。しかし個人情報保護の観点をクリアする必要があり、上記の国と比較すると実用化には時間がかかることが予想される。

■都市封鎖と緩和を取る国が大半

2つ目の方向性として、「都市封鎖と緩和」が挙げられる。これは欧米各国をはじめとして大半の国・地域で実施されている方策である。これらの方策を取ったところは、感染の制御に成功しているところと、うまく制御ができずに医療資源が逼迫しているところに分けられる。

感染制御で成功している国・地域として挙げられるのはニュージーランドだ。ニュージーランドは都市封鎖(ロックダウン)や入国規制を世界的でもかなり早期に行った国の一つだ。世界保健機関(WHO)によるパンデミック(世界的な大流行)の宣言直後から対応を行ったことで感染者数増加を抑制することに成功し、4月末から段階的にロックダウンを緩和している。

また、ドイツも感染の制御に成功しているといえるだろう。ドイツの感染者数は増加しているが致死率は1%未満であり、2%を超える他の欧米諸国と比較してもかなり低い。ドイツは検査による感染トラッキングに加え、早期の外出制限、豊富な医療資源により、感染者数が増えても治療を行える体制を整えていることが低い致死率につながっている。

その他にも早期のロックダウンを行うことで感染者数増加を抑制したタイやベトナムなども成功している国といえる。また、WHOなどが感染拡大を懸念しているアフリカ各国も、過去の感染症の経験から早期のロックダウンを実施し、感染者数の増加を抑制している。ただしアフリカは各国で貧富の差が激しく、特に貧困国では正確な感染者数の把握ができていない懸念も残っている。

これらの国では(1)早期のロックダウン(2)感染者の追跡(3)潤沢な医療資源──のいずれかによって、医療崩壊を起こさないレベルでうまく感染を制御し、結果的に被害を最小限に食い止められているといえる。

一方、感染制御ができていない国・地域としてはイタリア・スペインに代表される西欧各国が挙げられる。これらの国は感染者が急増することでロックダウンを余儀なくされた国々だ。スペインは感染拡大が始まった後もスポーツ観戦や大規模なデモ活動が継続しており、そこでメガクラスター(大規模な感染者集団)が発生してしまった。医療関係者の感染者も増加してしまい、結果的に医療資源が逼迫しロックダウンに追い込まれてしまった。

インドネシアも初めはロックダウンを行っていなかったが、感染が制御できなくなり後手の対応でロックダウンに追い込まれた。

■緩やかな規制と啓発の日本、豪州

3つ目の方向性として、「緩い規制と啓発」が挙げられる。日本やオーストラリアが実施しているもので、緩やかな移動規制を掛けつつ、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保に対する啓発を行うことが主体である。

日本では4月8日の緊急事態宣言により、外出自粛要請が出された。これは外出を規制するものではなく、あくまで「要請」であるため外出している人を取り締まることはできない。また、店舗に対する休業も「要請」に留まっているため、法的拘束力はなく弱い規制に留まる。

オーストラリアも日本と同様の「緩い規制と啓発」によって感染拡大を抑制できている好例だろう。公共の場での集会は2人までにするなどソーシャルディスタンスの確保を徹底した一方で、企業活動の継続、飲食店の持ち帰り販売実施など経済活動を維持することを視野に入れた政策を取っている。

これによりオーストラリアは経済活動の停滞を最小限に抑えつつ、厳しい移動規制を実施しているニュージーランドとほぼ同等の水準で感染者数を抑えることに成功している。

■自主性尊重のスウェーデン、ブラジル

4つ目の方向性として、「自主性の尊重(ほぼ対策なし)」が挙げられる。スウェーデンやブラジルが該当し、個人の自由を尊重して特に移動規制を実施しないというものである。

スウェーデンでは、法律で禁止しているのは「50人以上の集会」「高齢者施設への訪問」の2点のみだ。不要不急の旅行休止などについては行政指導に留まり、バーやナイトクラブでは着席スタイルでの営業が続けられている。リモートワークは推奨されているものの、他国のように厳しいロックダウンを実施しておらず、散歩などの外出は推奨されている。

こうして特段の移動規制を実施しないことで経済活動を維持し、それによる副次的な効果として「集団免疫の早期獲得」を目指している。ただし、高齢者施設におけるクラスター(感染者集団)発生などにより死者数は増加傾向にあり、国内外からの批判も出てきている状況だ。そのため、今後医療資源の逼迫によりロックダウンへと舵を切る可能性も考えられるだろう。

また、ブラジルも国家としては同様の方向性を目指していると言える。国家方針として個人の選択の自由を尊重しており、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大でもその方針は変えていない。そのため、個人の活動の自由を制限するようなロックダウンを是とせず、重症化リスクの高い高齢者などに限定して社会活動を制限する措置をとるように指示をしている。

一方でブラジル国内ではこれとは異なった動きもみられる。巨大な経済都市であるサンパウロ市が位置するサンパウロ州では、急速に感染者数が増加した。そのため、生活に必要な店舗・企業を除き強制的に閉鎖するロックダウン措置を実施した。これに対して大統領が批判し規制緩和を求めており、国内における対立が起こっている。今後の感染者数の動向やそれに対する国家・各州の対応は注視する必要があるだろう。

■台頭するアジア経済圏と強まる中国批判

では今後グローバル経済でどのような国が台頭し、グローバルのパワーバランスにどういった変化がみられるだろうか。まず考えられるのが、経済活動をいち早く再開できた国・地域の台頭が考えられる。韓国や台湾ではテクノロジーを駆使し、ニュージーランドやオーストラリアでもロックダウンやソーシャルディスタンスにより感染制御を達成し、一定の経済活動を再開している。

そこで考えられるのが、これらの感染リスクが低い国・地域間でのグリーンゾーン経済圏の確立だ。実際にニュージーランドはオーストラリアとの移動制限の撤廃に向けた動きが出ている一方、その他の国・地域に対しては引き続き移動を制限する方向で動いている。仮に他の国で感染制御ができず感染が長引く場合、一定の経済活動ができる国と経済活動が制限される国との間で経済格差が生じる可能性がある。

特に、経済発展が著しい東南アジア各国や経済大国になりつつある韓国や台湾などは、いち早くコロナ危機を乗り越え経済活動を再開しており、さらなる経済発展が見込まれる。欧米諸国の経済回復が長引くようであれば、アジア経済圏が世界経済の中で相対的にプレゼンスを強める可能性は高い。

では、感染者数の制御に成功したといわれている中国はどうだろうか。中国は初動の遅れは目立ったものの、強制的なロックダウンや監視社会などの全体主義的対策によって感染を制御できた。これにより世界各国に対して「マスク外交」などを通じた影響力強化を目論んでいるが、「ウィズコロナ・ポストコロナ時代」において中国が覇権を取る可能性は低いと考えられる。

なぜなら欧米諸国では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを誘発した原因は、中国による初期の隠蔽にあるとの見方が強い。さらに、隠蔽中に中国が海外から医療物資を買い集めたとの報道もなされており、新型コロナウイルスの出自が武漢の研究所という情報の真偽にかかわらず、中国批判が日に日に強まっている。

そのため、中国が下手に影響力を強めれば、国際社会から孤立する可能性が高まる。また、中国国内の医療資源確保のためにマスクなどの輸出制限を行っていたこともあり、中国での製造に懸念を感じた企業も少なからずあったと思われる。それにより、今後は先進国における製造への回帰が加速し、「世界の工場」である中国の立場が揺らぐ可能性があるだろう。

こうしたことから中国はそこまでプレゼンスを発揮できず、米中のパワーバランスは大きく変わらないと考えられる。また、地理的に中国と距離が近い東アジア地域でも親中的な国はそこまで多くないため、東アジア地域での中国の影響力も大きく変わらないだろう。

(アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル 花村遼、同コンサルタント 田原健太朗)

[日経バイオテクオンライン 2020年5月20日掲載]

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