米ゴールドジム破綻、問われる筋肉質経営
グロービス経営大学院教授が「サービスマネジメント」で解説

ビジネススキルを学ぶ
2020/5/22 2:00
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ゴールドジムは新型コロナの感染拡大で営業中止を迫られた(4月26日、米ジョージア州オーガスタ)=ロイター

ゴールドジムは新型コロナの感染拡大で営業中止を迫られた(4月26日、米ジョージア州オーガスタ)=ロイター

米国の老舗フィットネスジム「ゴールドジム」を運営するGGIホールディングスが連邦破産法11条を申請しました。確かに新型コロナウイルスの影響は多方面に及んでいるとはいえ、その中でなぜゴールドジムは早々に破産してしまったのでしょうか? グロービス経営大学院の嶋田毅教授が、ビジネススクールで学ぶ「サービスマネジメント」などの観点から解説します。

【解説ポイント】
・サービス業はオンライン対応で明暗
・専門的な設備と人材が重荷に

【関連記事】
・米フィットネス「ゴールドジム」破綻 営業続ける意向

■サービス業に4つの特性

近年、第3次産業といわれるサービス業が経済に占める割合が増えています。そこで注目を浴びているのがサービスマネジメントと呼ばれる経営学の分野です。これは、サービスという商材の特性を意識しつつ、ビジネスの成果を最大限にしようとするとする知恵やセオリーを教えるものです。

さて、サービスには多くの種類がありますが、モノ(有形)の要素とサービス(無形)の要素が占める比率によって、図のように分類することが可能です。概ねこの中心より右側にあるビジネスがサービス業と呼ばれます。フィットネスジムについていえば、プロテインなどの物品の販売もあるものの、提供価値のほとんどは目に見えないサービスが占めていますから、極めて右側に近い、「サービス業中のサービス業」ということができるでしょう。

一般にサービス業には、図に示した4つの特徴があります。どれも非常に重要な要素であり、サービス業をうまく運営するうえでの課題でもありました。特に人や場所などでばらつきが生じる「変動性」はビジネスを規模化するうえでの大きな課題であり、これをクリアできるかどうかが、中小企業のまま留まるか、大企業に脱皮できるかの分水嶺となってきました。

ホテル業であれば、この変動性を克服すべく、マニュアルを作ったり、従業員の教育をしっかり行い、なるべく均一のサービスを提供することに心血を注いできたのです。我々グロービスが提供している経営教育というサービスも、放っておくと講師によるバラツキが非常に大きくなってしまい、サービスマネジメントにおいて非常に重要な意味を持つ顧客満足度に好ましくない影響を与えます。そのため、ティーチングの基本スライドを共有するなど、サービスの均一化に大きな時間的投資を行っています。

■フィットネスはオンライン化しにくい

ただ、今回のコロナ禍はサービスの別の要素に大きく影響することになりました。それは「同時性」と「消滅性」です。端的にいえば、「在庫できない」というサービスの特性が大きくクローズアップされることになったのです。宿泊業や運送業の世界では次のような言い習わしがあります。「今日売りそこなった空き部屋(空き席)は未来永劫売れない」。製造業であれば「在庫」というものを介して調整できるタイムラグが、新型コロナによる休業には転用できなかったことが、決定的な要因となったのです。

サービス業の中でも比較的業績を維持しているマクドナルドなどはその点大きく異なりました。マクドナルドは最初の図に示したように、モノの占める比率が大です。それゆえ、長期間の在庫などはできないまでも、テイクアウトという販売方法を用いることで、いきなりキャッシュ(現金)が入ってこなくなるということはなかったのです。

もう1つフィットネスジムにとって痛かったのは、フィットネスジムというものが本質的に不要不急のもので(つまり社会全体にとっての必要度が低く)、かつサービス部分のオンラインでの代替可能性が低かった(動画や遠隔のコミュニケーションでの置き換えが難しかった)点です。

まず不要不急の度合いですが、世の中にどうしても必要な(=不要不急度が低い)医療や介護などは、オンライン化が難しくても、コロナ対策をすることで事業が継続されました。比較的安価な生活必需品(食品や医薬品、衛生用品など)も、一部はEコマースに流れましたが、リアル店舗での販売が継続されました。

一方、不要不急度の高いものについては、オンライン化できるかどうかが明暗を分けます。英会話などは、もともとオンラインとの相性は良かったのですが、リアルの場での教育を中心にしていた企業でも、オンライン比率を高める企業が多く見られました。図からもわかるように、知識や知的活動が重要なビジネスは比較的オンラインでの代替可能性が高めになります。我々グロービスでも経営大学院の講義はいち早くすべてオンライン授業に切り替えました。

一方で、身体的(フィジカルな)な要素が強いサービスや、ライブハウスや演劇のように、まさに「ライブ」であることの情緒的価値の比重が高いビジネスでは、その置き換えが容易ではありません。フィットネスジムはその典型です。

■ゴールドジムは合理的に決断か

今回の主役であるゴールドジムは、マッチョな筋肉を作り上げる特別なトレーニング設備が充実している点に特徴があります。ちょっとした軽めのフィットネスジムであれば、オンラインを通じて軽いエクササイズの指導を行うなどの対応もある程度は可能だったかもしれません。しかしゴールドジムの場合、顧客個人が専門性の高い設備を揃えることはできません。しかも不要不急のサービスですから、店を休業せざるを得ないと、もうどうしようもないのです。

ゴールドジムはそうした設備を豊富にそろえていることもあり、広いスペースも特徴でした。また、マッチョを志す人を集めやすいように、比較的都市部に多くの店がありました。必然的に賃借料は上がります。これは、コンパクトなスペース(シャワー設備がないなど)と、住宅街に比較的近い場所に出店することを特徴とするカーブスなどとは大きく異なる点といえるでしょう。専門スタッフも多くいますので、通常のフィットネスジムに比べても固定費負担は大きく、キャッシュが入ってこなければ、キャッシュアウトしていくスピードは速かったものと思われます。

GGIホールディングスは非公開企業なので正確な財務情報は不明ですが、おそらく、早い段階でキャッシュが尽きることを見越し、いち早く連邦破産法11条の申請に踏み切ったものと思われます。

ところで「破産」と聞くとマイナスのイメージが強いものですが、今回申請した破産法11条は日本でいえば会社更生法ではなく、民事再生法に近いものです。会社更生法は、会社の財産の処分等はすべて管財人に委ねられ、経営陣も一掃されます。

一方、民事再生法は会社主導の再生であり、経営陣もそのまま残ることが少なくありません。今回のゴールドジムも、経営陣は基本的にそのままで、負債の圧縮などを行った後、早ければ年内にもほぼ元の形に戻ることを志向しているようです。これは、ゴールドジムの経営陣がファンドからの派遣であり、極めて経済合理的に考えた末のシナリオともいえるのです。

今回のようなケースは数十年に一度の稀なケースかもしれませんが、自社のビジネスモデルが、考えられる災害や突発的事象にどのくらいの耐性がある筋肉質の経営なのか、あるいは社会にとって本質的に必要とされているものなのかを前広に考えておくことは、これからの経営者にとっては必須の要件といえるのかもしれません。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「サービスマネジメント」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/db7ed843(グロービス学び放題のサイトに飛びます)

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