ロケット、低コスト競争激化 三菱重H2Bが次世代機へ

科学&新技術
2020/5/21 11:42
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三菱重工業が21日未明、基幹ロケット「H2B」の最終機の打ち上げに成功した。主力ロケット2機種のうち1つが退役となり、打ち上げコストを下げて幅広い需要を取り込む次世代機「H3」に役目を引き継ぐことになる。ロケット打ち上げ事業は欧米中などとの競争が激化している。三菱重工が宇宙ビジネスを拡大するには、安定的な打ち上げという信頼性と低コストをどう両立させるかも課題となる。

同日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の無人補給機「こうのとり」を搭載したロケットを種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げた。新型コロナウイルスの影響で、現地では通常より現地スタッフを減らして対応した。

打ち上げ後の記者会見で、三菱重工の阿部直彦防衛・宇宙セグメント長は「積み上げてきた結果として打ち上げ成功率100%となりほっとしている。(次世代ロケットの)『H3』に引き継いでいきたい」と語った。

ロケットは顧客の人工衛星などを搭載し、宇宙に送り届ける役割を持つ。三菱重工は現在「H2B」「H2A」の2機種のロケットを運用。H2BはH2Aの約2倍の約8トンの衛星打ち上げ能力を持つ日本最大のロケットだ。

2009年から国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶこうのとりの専用ロケットとして運用され、今回の9号機が最後の打ち上げとなった。同じく最終号機となるこうのとりもラストランを終えれば、後継機の「HTV-X」に引き継がれる。

今回の打ち上げ成功でH2Bの打ち上げ成功率は100%になった。H2Aと合わせた成功率は98%となり、95%の世界水準を上回る。H2Aも数年内に退役となる予定で、現行の2機種をH3に集約する。

H3はH2BとH2Aの中間程度の衛星打ち上げ能力を持つ。運搬する物資の量に応じてエンジン数を調整できるなど柔軟性が高い。目指すのは、国家プロジェクトだけでなく通信会社の衛星など幅広い民需を取り込むための低コスト化だ。汎用部品の活用に加え、現状はH2AとH2Bの合計で年3~5機程度だった打ち上げ回数を年6~10機と2倍に増やすことでコストを下げる。

1回当たりの打ち上げコストが100億円前後とされるH2Aに比べ、H3は打ち上げコストを半減し、50億円前後に抑えるもよう。民間向けとしては22年以降に打ち上げる英衛星通信サービス大手、インマルサットからの受注が決まっており、今後も営業活動を強化する。

民間主導の宇宙ビジネスで先行してきた米国に比べて日本は国主導のプロジェクトの比重が高く、低コスト化が遅れてきた。米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が率いるスペースXの「ファルコン9」などは月1回ほどの頻度で打ち上げている。1回当たりのコストも4900万~6200万ドル(約53億~67億円)と10年以降、世界に先駆けて価格を抑えたロケットを提供してきた。

商業衛星打ち上げで世界最大手の仏アリアンスペースもブランド力を生かしながら、従来より4割程度低コストな次世代機「アリアン6」の20年の初号機打ち上げを目指す。

単純比較はできないものの、H3やアリアン6などは「打ち上げ能力あたりの価格で比べればファルコン9に十分競争できる」(業界関係者)との指摘もある。一方、19年にロケットの打ち上げ数が最多となった中国勢に加え、インドなども能力の高い小型ロケットの打ち上げ成功が続けば、受注獲得のための低コスト競争が激しくなりそうだ。

H3ロケットのイメージ(JAXA・三菱重工)

H3ロケットのイメージ(JAXA・三菱重工)

三菱重工にとって今後の課題は品質の維持だ。三菱重工はロケットを期日通りにきちんと打ち上げる「オンタイム(定時)打ち上げ」にも定評がある。だが、19年9月の前回のH2B打ち上げでは直前の火災で発射を2週間ほど延期した。H3で低コスト化を進めた場合、打ち上げ成功率や定時打ち上げの確度が下がり、顧客からの信頼が低下するリスクもささやかれる。

信頼性を担保するためのインフラも必要だ。日本最大の発射場である種子島宇宙センターはJAXAが保有するが、50年以上が経過して老朽化が指摘される。三菱重工は今年1月、発射台の配管などの老朽化が原因でH2Aの発射を延期した。宇宙開発は民間主導の流れが広がっているとはいえ、インフラの更新など国の支援も引き続き重要になりそうだ。

    (西岡杏)

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