競馬実況アナ日記

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実況者が語る アナウンサー泣かせの接戦とは

2020/5/23 3:00
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3日の天皇賞・春ではフィエールマンとスティッフェリオが競り合い、その2週前の皐月賞ではコントレイルとサリオスが一騎打ち。この春のG1は、見ごたえのある接戦が目立つ。そこで今回は、ラジオNIKKEIの現役実況アナウンサーに、「接戦」という言葉から思い浮かぶレースについてアンケート調査をしてみた。回答には、実況を担当したからこそ感じた苦労、後悔、反省がつづられていた。同じ実況アナウンサーとして共感した部分も多かった。今回はその中から、実況アナウンサーによる特に印象に残った4つのレースを紹介しよう。ぜひ、実際のレース映像を確認しながら文章を読むことをお勧めしたい。

■2020年高松宮記念

中央競馬発足以来初の無観客G1だった今年の高松宮記念は大接戦となった。逃げたモズスーパーフレアをクリノガウディーが捉えに出て、ダイアトニックは両馬の間を割ろうとし、最後には外からグランアレグリアが一気に迫ってきて4頭の混戦に。しかも、うち3頭が内柵沿いの狭いスペースに殺到したことで、実況の難易度が上がった。結果的に1位入線のクリノガウディーが4着に降着となり、モズスーパーフレアが繰り上がりで優勝となったこのレースを担当した山本直アナウンサーは、ゴール前50メートルで「ああ、これはミスが出る。撮り直し(万一、実況で馬名などの重大な誤りがあった場合、事後にやり直す)になるかもしれない」と弱気になったそうだ。

初の無観客G1となった高松宮記念は大接戦の末、モズスーパーフレア(右端)が制した=共同

初の無観客G1となった高松宮記念は大接戦の末、モズスーパーフレア(右端)が制した=共同

■08年天皇賞(秋)

言わずと知れた歴史に残る名勝負である。ウオッカとダイワスカーレットという同年齢のライバル関係にあった歴代級の牝馬2頭が激闘を繰り広げた。写真判定が長引き、推定約2センチ差でウオッカが勝っていた。余談だが、筆者はこのレースを現場のウイナーズサークル付近で見ていて感動し、この瞬間、競馬に携わる仕事をしたいと思った。

実況を担当した小林雅巳アナウンサーいわく、「最後の直線ではダイワスカーレットがいっぱいになって(失速して)、ウオッカが抜けるだろうと決めつけて実況したが、ダイワスカーレットは粘るし、外にディープスカイが食い下がり、エアシェイディに加えて最後はカンパニーまで来て、かなりテンパった実況になってしまった。『競馬史上に残る名勝負』なのに、大失敗した思いがある」とのこと。語り継がれる「名勝負」だからこそ、担当した実況アナウンサーにとっては、反省が残るのかもしれない。

■01年エリザベス女王杯

大接戦となったG1という点では、ぜひこのレースも挙げておきたい。トゥザヴィクトリーとテイエムオーシャンの争いに内からレディパステル、間からティコティコタックと4頭がもつれ、そして最後に外からローズバドが強襲。こうして文章で説明するだけでも混戦模様が伝わってくるが、着差も鼻、鼻、首、首の決着となり、トゥザヴィクトリーが僅かに制した。

中央競馬のほとんどの競馬場では、我々が実況する場所は、ゴールにかなり近いところに置かれているが、京都競馬場だけは放送席がゴールのかなり手前にある。そのため、ゴールの瞬間は背中から各馬を見る格好になり、外の馬が有利にみえやすく、ただでさえ判別が難しい。そのうえ、プレッシャーがかかるG1レースでこうした接戦になっても的確に捉え、描写した広瀬伸一アナウンサー(故人)の実況には、神業との声も聞かれた。

■15年京成杯オータムハンデキャップ

「大接戦」という言葉がまさにふさわしいレースである。先行したアルビアーノに内からエキストラエンドが迫り、間からはグランシルク、外からはショウナンアチーヴ、ヤングマンパワー、シャイニープリンス、そして隠れるようにフラアンジェリコが追い込んだ。上位7着まで、鼻、鼻、頭、鼻、首、頭差の大接戦。レース映像をぱっと見ただけでは、どの馬が勝ったか分からないほどだったが、単勝13番人気の伏兵フラアンジェリコが制していた。ちなみに2着エキストラエンドは11番人気、3着ヤングマンパワーは7番人気で、3連単は222万円を超える大波乱ともなった。

実況する側には恐ろしいほどの接戦を担当した小塚歩アナウンサーは「残り100メートルでもどの馬が勝つのか勢いの判断がつかず、無我夢中に伸びてきそうな馬の名前を呼んでいたらゴールしていた。ゴール後にフラアンジェリコがわずかに前に出ているのがわかり、フラアンジェリコの名前をちゃんと実況できていたか、急に不安になった。結果的に最後の最後に名前を出していたので事なきを得て、ホッと胸をなでおろした。そのぐらいテンパっていた」そうだ。

京成杯オータムハンデキャップは接戦の末、13番人気のフラアンジェリコが制する大波乱のレースだった

京成杯オータムハンデキャップは接戦の末、13番人気のフラアンジェリコが制する大波乱のレースだった

■接戦に縁のあるアナウンサー

晴れ男、雨男という言葉があるように、「接戦男」がいるとしたらどのアナウンサーか? 今回、そんな質問も投げかけてみた。結果は、2人のアナウンサーに票が集まった。小塚歩アナウンサーと檜川彰人アナウンサーである。小塚アナウンサーは前記の京成杯オータムハンデキャップも担当していたが、他にも大接戦にぶつかったケースは枚挙にいとまがない。最近のレースで筆者の印象に残っているのは、小塚アナウンサーと共に出張した4月12日の福島競馬第8レース、若手騎手競走だった。細かい説明は省略するが、ゴール前で10頭ほどが横並びでゴールになだれ込む際どい決着だった。まさに、「接戦男」と呼ぶにふさわしい。

そんな小塚アナウンサーと同じくらい票を集めた檜川アナウンサーと言えば、ゴールの瞬間に飛び出す「全く並んでゴールイン」というフレーズである。ジェンティルドンナとヴィルシーナの12年の秋華賞、ジュエラーとシンハライトの16年桜花賞、そしてフィエールマンとスティッフェリオの今年の天皇賞(春)でも、このフレーズが使われた。檜川アナウンサーは、高くて響くシャウトだけに耳に残り、熱狂的なファンも多い。G1レースでの一騎打ちも多いことから、「接戦男」のイメージがついたのかもしれない。

どのアナウンサーを「接戦男」と見るかは人それぞれだが、今後、接戦のレースを目にしたときは、ぜひ実況しているアナウンサーにも注目してほしい。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 小屋敷彰吾)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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