コロナ禍で異例な決算 株価を分ける企業の対話姿勢
決算を投資に生かす(下)

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2020/5/21 2:00
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さわやかな風の吹く5月の休日。「ステイホーム」生活を送る筧家のダイニングでは引き続き決算談議に花が咲いています。今年は新型コロナウイルスの影響で、発表延期が相次ぐなど例年とは異なる様相です。満の次の関心は決算発表後の株価の動きにあるようです。

筧(かけい)家の家族構成
筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。
筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。
筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。
筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

 決算書は企業にとって「成績表」のようなものなんだよね。決算発表で利益が伸びて財務が健全なことが分かった企業は株価も上がるのかな?

幸子 多くの投資家が今後の投資方針を決めるため、決算に注目しているのは間違いないわ。発表をきっかけに株価が上げ下げするニュースも耳にするわね。ただ前年度の業績が好調だったからといって株価が上がるわけではないみたい。金融機関で資産を運用するプロの投資家が注目するポイントはいくつかあるそうよ。

良男 増収増益だったら株価上昇というわけではないの?

幸子 決算書に載っている売上高や利益は、終わった期の結果の数字よね。3月期決算企業なら2019年4月1日から20年3月31日までに稼いだ金額。財務は3月期末時点の状況で、いわば「過去の数字」なの。ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「投資家は企業の将来性に期待して投資する。大事なのは未来の数字だ」と話しているわ。

良男 未来の数字?

幸子 まずは決算書の「顔」とも言える決算短信の1ページ目を見てみましょう(図)。損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)の概要がまとめてあるわ。前年同期との比較も記載されているので推移が見られるわね。続いて配当や業績予想が書かれているわ。

良男 業績予想は未来の数字だな。

幸子 その通り。企業は決算発表時に今期の見通しを発表するの。足元の経営や経済状況などを総合して考えて、この1年でどのような結果を出せそうかを計画したものなの。

 配当も予想があるんだ。

幸子 これも未来の数字ね。配当は株主にどれだけ還元できるかを表すもの。しっかり計画を出せる企業は余力を持っている証しにもなるわ。投資家の注目ポイントの1つよ。

 それなら、利益が増えて配当も増やせば株価も上がるんだよね。

幸子 そうとも言えないのよ。「市場の期待」を上回ることも大事よ。企業分析を専門とするアナリストたちは決算資料などを基に独自で企業の業績見通しを作っているわ。アナリストの予想の平均を「コンセンサス」といって、一般にこの数字と企業が出した見通しに大きな差があると株価が大きく動く要因になるのよ。

良男 うちの会社もそうだけれど、今期は新型コロナの影響があって先行きを見通すのは難しいだろうな。

幸子 実際、感染拡大が経済や経営に与える影響を測りきれず、業績予想の発表を見送った企業が大半よ。予想を立てづらいのはアナリストも同じ。SMBC日興証券の伊藤桂一チーフクオンツアナリストは「今は約6割の企業が業績予想を出せない異常事態。アナリストもコロナ禍以前の見通しをそのままにしているケースもある。コンセンサスが機能しているとは言えない」と指摘しているわ。

 だとすると今後がどうなるか分からないよ。

幸子 混乱の中でも予想をしっかり出した企業もあるわ。国内で新型コロナの新規感染者が急増していた4月6日に2月期決算を発表したニトリホールディングスもその1社よ。

良男 新型コロナの影響が少なかったのかな。

幸子 在宅が売り上げにつながるとの見方もあるけれど、店舗の休業や営業時間短縮で業績への影響は少なくないはずよ。それでも「上期中(8月まで)は新型コロナの影響がある前提。収束時期などによって変動する可能性がある」という条件付きで予想を出したの。

 決算発表の翌日から株価が上がっているね。

幸子 株価が上がった理由は一つだけではないけれど、多くの投資家にとっては今後をどう判断していいか一つの指標が得られ、安心感が広がったようね。海外企業では今後の経済状況などの予想シナリオを3パターンくらい用意して、それぞれに沿った業績予想を提示するといったやり方もあるそうよ。

良男 決算発表の日程を延期する企業もたくさんあるみたいだね。

幸子 決算発表には「決算期末から45日以内」というルールがあるの。特別な理由なく遅れることは許されないわ。通常、日程の延期は不祥事が発覚したり事故などで巨額の損失が発生したりといったネガティブな理由が多いの。急に日程延期が発表されたら投資家に動揺が広がることも少なくないわ。

 今回も株価に影響が出るのかな。

幸子 そうはならなそう。新型コロナの影響で経営の見通しが立たないだけでなく、社内の経理作業や監査法人の業務にも支障が出ていて、東京証券取引所は45日より決算発表を遅らせてもいいとの方針を示したの。金融庁も企業が決算を精査し作成する「有価証券報告書」の提出期限を3カ月延ばせるとしたわ。企業には日程を遅らせても状況を整理してしっかりした数字を出してほしいわね。

■企業の「対話姿勢」表れる
ニッセイ基礎研究所 チーフ株式ストラテジスト 井出真吾さん
4月後半から5月中旬は例年、3月期決算の発表が集中します。今回は発表前から業績予想の修正や日程延期が相次ぐなど混乱した様相でした。この混乱期の決算だからこそ、企業の姿勢が如実に表れていると感じています。
 決算書は企業と投資家の対話ツールの一つです。「感染拡大の収束の見通しが立たないのに業績予想なんて出せない」という企業の事情も分かります。しかし決算でしか内情を知り得ない投資家には判断材料がありません。条件付きで予想を公表したり公表時期を明示したりする企業は、不確実ながらも投資家にメッセージを送っているのです。経済の混乱期は株式投資を始める好機とも言えます。まずは決算書に目を通し、企業が投資家にどんなメッセージを出しているかを感じてみてはいかがでしょうか。

(聞き手は岡田真知子)

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