国連の観光部門・UNWTO、なぜ奈良に?
とことん調査隊

関西タイムライン
2020/5/19 2:01
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JR奈良駅。改札には格天井(ごうてんじょう)が張り巡らされ木製の円柱が立ち並ぶ。そんな古代寺院のような改札とつながるモダンな赤レンガのビルに入ると、「UNWTO」の巨大な青い看板が目に飛び込んできた。国際連合(UN)の観光部門の駐日事務所だという。国連の出先機関の多くは東京にあるはずだがなぜ奈良に……。新型コロナウイルスで観光が大打撃を受ける中、どんな仕事をしているのか。

WTOはWorld Tourism Organizationの略。国連専門機関、世界観光機関だ。同じWTOの世界貿易機関との混同を避け、UNWTOの略称を使う。本部はスペインのマドリードで166カ国・地域が加盟する。事務局長はジョージアの元経済開発大臣ズラブ・ポロリカシュヴィリ氏だ。駐日事務所は1995年、アジア太平洋(現29カ国2地域)支援のため、初の地域事務所として設立された。

日本には国連の出先機関が30近くあるが奈良は異例だ。経緯には少々因縁がある。90年代前半、UNWTOが地域事務所をつくろうとしたとき、日本とインドネシアが立候補した。この時、国内外の調整に奔走したのが当時運輸省(現国土交通省)観光部長だった奈良県の荒井正吾知事だ。日本は誘致競争に勝ち、事務所は観光地が多い関西の中心、大阪に置かれた。ところが2012年、橋下徹市長が駐日事務所の支援団体への補助金をやり玉に挙げ支出をゼロに。これを見た荒井知事がすかさず「誘致したい」と手を挙げたというわけだ。

結局、奈良県は12年から駐日事務所の支援団体への補助金を大幅に増額し誘致に成功した。職員は全部で11人(東京事務所の2人を含む)で国連職員は2人。後は日本で採用した人材と出向組だ。奈良県は現役1人、OB1人を送り込んでいる。他は国交省、JTBなどからの出向だ。

では一体どんな役割を担っているのか。仕事は主に4つ。まず「情報発信と調査研究」だ。マドリードの本部は新型コロナを受け、4月末までに19回の声明や呼びかけを発表した。駐日事務所はこの趣旨をアジア太平洋各国・地域に伝え、国内に和訳版を発信した。声明の一つに「起業家やイノベーターに解決策を求める」とあり、協力の申し出があれば本部に紹介する。

統計やガイドの発行も行う。最新統計によると、19年の国際観光客到着数見通しは前年比3.8%増の14億6100万人と10年連続で伸びたが、20年は大幅な減少が避けられない。特定のテーマに沿った調査研究も進めている。

国際会議を開催し交流を進める「観光交流の促進支援」も重要な仕事だ。19年の国際会議はSDGs(持続可能な開発目標)が大きなテーマとなり「オーバーツーリズム」や「観光公害」が議題に。地域の食材を味わいつつ観光する「ガストロノミーツーリズム」の会議も目立った。鈴木宏子副代表は「今年はソーシャルディスタンスとホスピタリティーをどう両立するかなど新しい観光のあり方がテーマになる」と指摘する。

「人材育成」「広報宣伝」も大事な役割だ。人材育成では中高生、大学生、国際団体職員などに特別授業や講演会を実施している。昨夏には奈良県教育委員会、奈良県立国際高校と連携協定を締結。グローバル人材の教育で指導や助言をしていくという。

「新型コロナを観光客の過度な集中への深刻な警告の一つととらえ、観光と地域社会や住民との関係を問い直す機会と考える」というのは初代観光庁長官で駐日事務所代表の本保芳明氏だ。「危機管理を持続可能な観光推進の重要な柱として位置づけ、国際的な協調を図りつつ新たな処方箋を構築したい」と話す。

1300年前、シルクロードの終着点だった奈良。今度は奈良からアジア太平洋へ、国際観光復興の出発点になろうとしている。

(浜部貴司)

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