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コロナ抗体検査、厚労省の評価結果に疑問相次ぐ

日経バイオテク

厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染歴の有無を調べる「抗体検査」のキットや試薬の性能を評価した研究結果を15日に公表した。しかし、今回の研究に対して、複数の業界関係者から「そもそも研究のデザイン(実施方法)からしておかしいのでは」「抗体検査の性能が評価されていない」「献血者の血液を用いるのは適切ではないのでは」と根本的な指摘がいくつも出ている。

性能は一概に判断できない

今回の結果は、日本医療研究開発機構(AMED)の研究班が日本赤十字社の協力を得てとりまとめたもの。

厚労省が公表した結果によれば、5社の検査キットや検査試薬について調べている。うち4社はインフルエンザなどの迅速診断に使われる「イムノクロマト法(ICA法)」を使って、新型コロナウイルスに対する抗体の有無を調べるキット。1社は「化学発光免疫測定法(CLIA法)」と呼ばれる方法で、抗体の有無を調べる試薬だった。いずれも、社名は開示されていない。

研究に用いた血液は、2020年4月に献血に訪れた東京都内の500人と東北6県の500人のもの。それぞれの献血時に検査に回した残りの血液を用いて抗体検査を実施した。また、感染していないことが確実な陰性の検体(対照群)として、新型コロナウイルスが出現する前の19年1月から3月に献血に訪れた、関東甲信越の500人の残りの血液を用いた抗体検査も行われた。

計1500人を対象に抗体検査を実施したのはC社とE社の2社のみ。残りのA社、B社、D社の3社は東京都内の献血者のうち45人、東北6県の献血者のうち45人、計90人について抗体検査を行った。

その結果、C社は東京都内の500人のうち2人、東北6県の500人のうち1人、19年の500人のうち1人が陽性となった(表における検体番号のaとa'、a"には関係はない)。同じく計1500人を対象としたE社は、東京都内の500人のうち2人、東北6県の500人のうち1人、19年の500人のうち2人が陽性となった。また、計90人が対象のA社、B社は、東京都内の45人のうち1人のみが陽性になった。D社は陽性が出なかった。

今回の結果について、厚労省は東京都内では最大3人の0.6%(検体番号のaとbとcを陽性と捉える)が、東北6県では最大2人の0.4%が陽性であったと説明。その上で、新型コロナウイルスが存在しなかった19年の検体から出た陽性は、誤って陽性と判定した「偽陽性」であることから、20年の結果にも偽陽性が含まれる可能性が高いとしている。取材に対して、厚労省健康局結核感染症課の担当者は「性能については、なかなか一概には判断できないことが分かった」と話した。

言い換えれば、抗体検査キットの性能評価を行った結果、「性能には課題があると分かった」というところだろうか。ただ、今回の研究については、複数の業界関係者から「そもそも研究のデザインからしておかしいのでは」といった指摘が幾つも出ている。

陽性と判定できるかの「感度」評価せず

1点目は、「性能評価といいながら、抗体検査の性能が評価されていない」という指摘だ。

抗体検査の性能の評価指標には、陽性のものを正しく陽性と判定できるかをみる「感度」と、陰性のものを正しく陰性と判定できるかをみる「特異度」がある。

現状では、抗体検査の感度は陽性(だと考えられる)検体、具体的には、直近にPCR検査で確定診断され、新型コロナウイルスに感染したことが明確な患者の発症後の血液を用いて、「陽性」だと判定できるかで評価されている。一方、抗体検査の特異度は、新型コロナウイルスが流行する前など感染していないことが明確な人の血液を用いて「陰性」だと判定できるかで評価されている。

しかし、今回の研究で用いられた抗体検査については、理由は不明だが、患者の発症後の血液などを用いた感度の評価は行われていない(特異度の評価は、19年の検体を用いて可能)。厚労省健康局結核感染症課の担当者も、「それぞれの企業が収集した感度や特異度のデータが、製品情報などに掲載されている」として、公表された結果が全てであり、別途感度の評価などは行っていないと認めている。

つまり、「今回の研究は性能評価と言いながら感度を評価しておらず、抗体検査キットの性能を評価するデザインになっていない」(ある業界関係者)ということだ。

献血者では結果に偏り

2点目は、「抗体検査の検体に献血者の血液を用いるのは適切ではないのでは」という指摘だ。

今回の研究結果から、「東京都で0.6%、東北6県で0.4%が陽性と判定された」といった一部報道もみられた。しかし、「献血に行こうという人は日頃から健康に気を使っている。なので、仮に感度や特異度が認められた抗体検査を用いて、陽性者が数%と出たところで、それは、東京都内の市中感染の状況を表しているとは言えない」(ある業界関係者)。別の業界関係者も、「そもそも抗体検査の対象は、一定の地域から無作為抽出しないとバイアス(偏り)がかかって意味が無い」と指摘する。

結局、今回の研究結果からは、「(献血者が対象ではあるが)思っている以上に、抗体保有率が低そうだということが示唆されたので、より大規模な検体が必要だということになった」(厚労省健康局結核感染症課の担当者)という。

厚労省は、20年6月にも東京、大阪、宮城などで1万例を対象に抗体検査を実施する方針だ。ただ、その際に、どの抗体検査を使うのかについて、現時点では未定。対象者の選び方など、研究デザインも明らかになっていない。業界関係者からは「性能が認められた抗体検査を用いて、一定の地域から無作為抽出するなどして対象者を選別して実施すべきだろう」という意見が出ている。

(日経バイオテク 久保田文)

[日経バイオテクオンライン 2020年5月18日掲載]

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