コロナと闘う作業衣 吉村大阪府知事の「気概」のぞく
コラムニスト いで あつし

有事に問われる リーダーの服装
やはり指導力と外見は一致する。頼もしいリーダーとは服装のセンスも良く、見ている人たちに不安と不快感を与えない、有事においてもふさわしい格好をしているのだ。「STAY HOME」でずっと家で毎日ニュースを見ていて、つくづくそう思った。
いい例が、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏だ。
毎日生中継で行われる記者会見では、あらゆるデータを公開し、丁寧に説明して対策の方針を示す、実に透明性に長(た)けたスタイルだ。そして「私が全責任をとる」「私以外にこの決定に責任を持つ人物はいない」「苦情や非難は私にしてほしい」と、きっぱりと言い切るリーダーとしての絶大なる自信。

その半面、CNNキャスターである弟がコロナに感染してしまったことを公表したり、リーダーとして責務に苦しむ姿などを時折見せたりする人間味もあって、クオモ知事は、コロナで未曽有の危機的状況下にあるニューヨーカーたちから圧倒的な支持と人気を得ている。
なによりクオモ氏の、まるで映画やドラマに出てくるアメリカの大統領のようなエスタブリッシュな雰囲気を持った端正な顔立ちがいいではないか。実際のアメリカ大統領とはえらい違いである。
記者会見でのボタンダウンシャツをノータイで着た格好や白いポロシャツ姿など、有事における服装の着こなしのセンスは、ニューヨーク生活が長かった服飾評論家のケン青木氏や、服飾史家の中野香織氏らも絶賛している。
日本にだって、クオモニューヨーク州知事にも負けず劣らず指導力と外見が一致した、頼もしい若きリーダーがいる。
そうです、大阪府の吉村洋文知事であります。
政府が緊急事態宣言を発令して以来、ずっと出口の見えないコロナ禍に対して、独自の「大阪モデル」を提案していち早く実施。大阪城、通天閣、太陽の塔といった大阪のランドマークを、解除基準を満たせば緑色、基準値を超えたら黄色、各指標の数値が2倍に達したら赤色にライトアップして、コロナ禍の状況を"見える化"したアイデアなど、吉村知事のその行動力は、いつも見ていてスカッとさせてくれる。

紺のジャンパー、トレードマークに
プロンプターに映し出された作文を棒読みするどこぞの国のリーダーと違って、誠意のある自分の言葉でしっかりと信念を語る記者会見も、大阪府民から絶大な人気と信頼を得ているのだ。
行動力だけではない。あのイケメンなフェイスも吉村知事の支持率を押し上げる人気の理由だ。さらに、記者会見やテレビに出演する時の格好も人気の理由なのだ。
吉村知事は、いつも胸に「EXPO 2025」と書かれた2025年大阪万博のロゴが入っている紺色の作業衣ジャンパーを着ている。
作業衣姿で災害地に赴くというパフォーマンスは、政治家がイメージアップのためにやる戦略としてよく使う手だが、こと吉村知事に限っていえば、そんなセコい考えは一切ないだろう。
関西のテレビ番組に出演した時にこう語っていた。

「いつも作業着です。(コロナ危機の)前から着てました」「昨年の夏はポロシャツにマークを入れたものがあって、それを着ていました」「万博の宣伝ではなくて、スーツが嫌いなんです」
司会の辛坊治郎氏が「もともと、ファッションセンスが基本的にない人なので」と紹介すると、吉村知事もうなずいて、会場を爆笑させたそうだ。
いやいや、筆者に言わせれば、むしろスーツではなく作業衣だからこそ、いつでもすぐに現場に駆けつけるというリーダーとしての気概が語らずとも伝わってくるし、トップとして常に最前線に立って指揮をとっているという姿勢が伝わってくるではありませんか。
また辛坊氏はファッションセンスがないと言っていたが、そんなこたぁ決してない。
作業衣からチラリと見えるシャツは、いつもパリっとした白いレギュラーカラーシャツ。どこぞの政治家のように、クールビズで、妙ちくりんなステッチの入ったドゥエボットゥーニ(懐っ!)のボタンダウンシャツなんぞは絶対に着ていない。ちなみにドゥエボットゥーニとは、襟が高く、このため第一ボタンが2つ付いているシャツのことね。
「おしゃれ化」で高まる作業衣人気
たまに締めているタイも基本はシンプルな無地のブルー一択、時々赤の無地になるくらいで、これまたどこぞの政治家やニュースキャスターみたいに、有事の際でも派手なレジメンタルタイなんぞを締めたりしていませんからね。
ちなみに、大阪モデルによる休業要請の解除について記者会見をした時には、すっかりトレードマークになった作業衣を脱いで白いシャツ姿になり、サッと腕まくりして意気込みを見せて、「シャツを腕まくりした姿がカッコいい!」とこれまたネットで大騒ぎになった。やはりイケメン知事は何をやってもサマになるのだ。

実はファッショントレンド的にも、いま作業衣ブランドがブームである。
例えば、かつては安い作業衣専門メーカーだったワークマンが立ち上げた新ブランド「ワークマンプラス」。LLビーンのビーンブーツのようなレインシューズや、ザ・ノース・フェイスのようなシェルジャケット、ストレッチパンツなど、安くて高品質でお洒落(しゃれ)なデザインのワークウエアが大人気で、今や「ユニクロ」に迫る勢いである。
また、その名もズバリ「WWS(ワークウェアスーツ)」は、なんと水道工事会社が立ち上げたワークウエアのブランドだ。はっ水性とストレッチ性に富んだスーツはそのまま作業衣としても着られるお洒落なワークウエアとして話題になっている。
ぜひとも何を着てもサマになる吉村知事に、今どきのお洒落なワークウエアブランドの服を着て、記者会見をしていただきたいものである。その時は「コロナは終息いたしました!」と声高らかに発表されることを、心から願っております。

1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN'S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。
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