NBA再開なお難し ラスベガスなどで集中開催か
スポーツライター 杉浦大介
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスによるパンデミックの中でも、米プロバスケットボールNBAは再開への道を模索している。
米国内のロックダウンは地域によって解除され始め、5月8日にはクリーブランド・キャバリアーズ、ポートランド・トレイルブレイザーズといった規制緩和地域にあるチームが練習施設を再オープンした。以降、他のチームの選手も徐々に個人練習が可能になり、再開に向けて前進したように見える。
ただ、実際にはまだ制約も多い。「練習場を使えるのは1度に4人まで」「ロッカールーム、シャワーは使用不可」「ボールは自分のものだけを使用」「アシスタントコーチはマスク、手袋を着用し、ソーシャルディスタンスを維持」といったような制限が課せられれば、できることは限られてくる。通い慣れた練習場で汗を流せるのがうれしいのは確かでも、まだチーム練習ができる段階ではなく、選手たちもシーズン再開は遠いと改めて感じたのではないか。
■中止なら放映権料9億ドルがフイに
「私たちの人生にとって最大の試練になるかもしれない」
8日、NBAと選手会が電話会議を行った際には、アダム・シルバー・コミッショナーがそう語ったと伝えられている。
スポーツ関連ウェブサイト「The Athletic」によると、このままシーズン中止となればプレーオフの放映権料だけでもリーグ全体で9億ドルの損害になるという。そんな事態を避けるための努力は今後も続けられていくはずだが、いばらの道が待ち受けているに違いない。
前述した電話会議の中でシルバー・コミッショナーが提示したシーズン再開プランと今後の見通しは、以下のようにまとめられる。
・1、2カ所に全チームを集めての集中開催。
・ラスベガスとオーランドが候補地。
・無観客試合。
・プレーオフは従来通りの7戦シリーズを希望。シーズンが短縮された分、出場チームを選定するための予備トーナメントの開催も考慮する。
・今季の再開の可否にかかわらず、来季の開始は12月にずれこむ可能性がある。
・今季の莫大なリーグ収入減により、将来のサラリーキャップにも影響がある。
現状では観客を動員してのゲーム開催は考えられない中で、ここで挙げられているリーグのプランはそれぞれ理にかなった提案に思える。ラスベガスは言わずと知れたカジノタウンで、オーランドはディズニーワールドのお膝元。どちらもホテルが豊富にある上に、NBAのサマーリーグを開催した経験もあるだけに、開催地としては適切だろう。
■どうなるプレーオフ圏外チーム
これから開幕する大リーグ(MLB)や米プロフットボール(NFL)とは違い、NBAは中断時点でシーズン終盤だっただけに、再開後に残りのシーズン&プレーオフを1~2カ月程度で終わらせることが可能なのも大きい。選手、関係者の集団隔離は大変な作業だが、無観客、無移動の短期開催であればハードルも多少は低くなる。
ただ、それでも疑問点、課題は少なからずある。再開できたとしても、プレーオフ圏外にいるチームの試合数はごくわずかになりそうだが、そのために数週間にわたって全チームを準備させるのか。感染者が出た場合でもその選手を隔離した上でシーズン続行の方向とされるが、優勝争いに大きな影響を及ぼすスーパースターが抜けてもプレーオフは継続されるのか。

これはNBAに限った話ではないが、全米ですでに9万人近い死者が出て、依然として自粛ムードの中で、スポーツの復旧に全力を挙げることはモラル的に正しいのかという疑問もある。莫大な失業者と医療の不足が依然として問題視されている状況で、NBAが強引に再開を目指せば反発は避けられない。そんな背景を十分に理解しているシルバー・コミッショナーは、可能な限り慎重に話を進めている印象がある。
「まず検査能力を拡大する必要があるのはわかっている。NBAプレーヤー、スポーツ選手たちの話をする前に、まずは最前線で働く人たちのことが考慮されなければいけない」
4月17日に行った電話会見の際、シルバー氏はそう述べていた。NBAの財力があれば感染症に対する必要な検査を行きわたらせることはできるが、そのために医療処置を必要とする人々からその機会を奪ってはならない。そういった基盤となる考え方は、もちろん現時点でも変わっていないはずだ。
5月12日のオーナー陣との電話会議の際、同コミッショナーは「再開の可否に関して2~4週間で結論を出したい」と話したと伝えられている。シーズン中断からすでに2カ月以上が経過したことを考えれば、6月に準備開始、7月に再開といったタイムラインがリミットか。その時までに、米国は再開に向かえるだけの状況になっているかどうか。これから数週間の間に、NBAの方向性はかなりはっきりと見えてくることだろう。