TSMC、「第2の故郷」に錦 米工場の建設発表

2020/5/15 19:05
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半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)は15日、米アリゾナ州に半導体工場を建設すると発表した。米国はTSMCの実質創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏が30年間を過ごして受託生産の事業構想を練った第2の故郷でもある。アップルなど米ハイテク産業を黒子として支えてきた台湾企業。TSMCの米国進出は「米台IT連合」の深化の証しと言えそうだ。

TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は米TIで25年間勤務した経験がある=ロイター

売上高3兆8000億円、営業利益1兆3000億円、時価総額は28兆円。米インテル、韓国サムスン電子と並ぶ「半導体3強」の一角を成すTSMCを一代で築いたのが、米テキサス・インスツルメンツ(TI)で副社長まで上り詰めた張氏だ。2018年に86歳で引退するまで約30年間、半導体の受託生産という自身が築いた事業モデルを磨き続けてきた。

張氏は1931年中国浙江省生まれ。第2次世界大戦後の共産党と国民党の内戦のさなか、単身渡米しマサチューセッツ工科大学(MIT)で機械工学を学び、スタンフォード大で電機工学を修めた。半導体産業の黎明(れいめい)期にTIに入社し、半導体が社会を変える光景を目の当たりにした。TI時代の部下は「先見性に優れ、強力に周囲を引っ張る指導力があった」と評する。

転機は85年。米国で受託生産の事業モデルを温めていた矢先に台湾の官営機関、工業技術研究院から「半導体産業の先導役を担ってくれないか」との誘いが舞い込んだ。

半導体産業の設計と生産の分離――。張氏は生産工程開発や生産設備の費用が膨れ上がるのを見て、将来的には設計と生産の分業が一般的になるとみた。ただし「当時はこのビジネスモデルの有効性を理解できる人がいなかった」と張氏自身が振り返っているように、半導体の盟主インテルも受託生産モデルには否定的だったとされる。

TSMC設立から30年がたち、今ではスマートフォンやパソコンに限らず家電、自動車など多くの工業製品にはTSMCが生産した半導体が組み込まれている。張氏が30年以上前に思い描いたとおり、TSMCの存在が現代社会になくてはならないものとなった。台湾産業界の受託生産モデルの先導役ともなった。

近年の米中貿易摩擦を背景として台湾当局は米国政府との距離を縮めている。中国企業とも取引のあるグローバル企業のTSMCも、これらの政治対立と無関係ではいられない。米工場建設の裏には米政府の要求も強く働いたもようだ。

一方で、TSMCの顧客第一主義が背中を押した面もある。張氏は「製造業であると同時にサービス業でなければならない」と、顧客満足度を重視してきた。現在の顧客の顔ぶれを見るとアップルはじめクアルコム、エヌビディア、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)など米国企業が上位に並ぶ。

さらにグーグルやフェイスブックなど自ら半導体開発に乗り出すIT大手も増えており、技術革新の中心地であり続ける米国西海岸に試作・量産の拠点を持つメリットも大きい。顧客に寄り添う"サービス業"ゆえの判断も少なからず働いたもようだ。

(細川幸太郎、伊原健作)

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