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「3密」で価値剥落 都心の大規模オフィスやタワマン

「働く場所」だった都心はエンターテインメント色が強くなる
日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスの感染拡大は、人々に活動の「場所」を提供する不動産会社に大きな変革を迫ることとなりそうだ。人の移動や集まること自体がリスクとなる中、好まれるライフスタイルは大きく変わる。駅近の大規模オフィスやタワーマンションといった、利便性を売りにした不動産業の発想、セールスポイントも、もろとも変わる可能性があると言えるだろう。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏に、これからの不動産市場について聞いた。

――新型コロナウイルスは、不動産業界にどのようなインパクトを与えると思いますか。

牧野知弘氏 東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、ガーデンホールズ(現三井不動産ホテルマネジメント)に出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人(現ユナイテッド・アーバン投資法人)執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。2009年オフィス・牧野設立およびオラガHSCを設立、代表取締役に就任。2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任する

「オフィスや住宅の賃料や価格が上がるか下がるかを語る前に、新型コロナウイルスは今までの危機とは種類がだいぶ違うものであることを認識する必要があります。コロナは不動産デベロッパーに非常に厳しい課題を与えました。不動産会社というのは、『住む』『働く』『買い物する』『泊まる』という人間の活動の場所を提供するのを生業としています。しかし、今や人々の移動は制限され、集まることもできなくなってしまいました」

「しかもその影響はワクチンができるまで少なくとも1年は続くという見方も出始めている。となると、不動産という『箱』をつくって利益を出すビジネスモデルの前提自体を見直さなければならなくなってきます。不動産会社はマインドを変えていく必要があるでしょう」

「例えば、今までは交通の便が良い、都心の一等地に大きなオフィスを借りることが大企業の常識でした。大きなビルの1階から10数階まで、すべての部署が入る大きなオフィスが好まれました。『1つのビルにまとまって入れないから近くのビルを間借りする』ということの方が格好悪かったわけです」

「しかし今はどうでしょう。『3密』を避けるために、1カ所に固まることの方がリスクになり始めています。私の知り合いの企業経営者の中でも、オフィスを東京だけでなく、埼玉や千葉など、首都圏近郊に分散させようとしている人がすでに出始めています。こうした『複数拠点志向』はますます高まっていくでしょう」

「オフィスの複数分散は、従業員の通勤の観点からも理にかなっています。現在、多くの人が在宅勤務をしていると思いますが、コロナ終息後に再び毎日通勤電車に揺られて都心に行くかと言われれば、多くの人はイエスと答えないでしょうね。今回のコロナで半ば強制的にテレワークに移行した会社員の多くは『もう戻れない』と思っているのではないでしょうか。テレワークでは対応しきれない作業もありますが、大抵の業務は自宅でもできてしまうことが分かったのですから。毎日オフィスに行かなくても、週3回在宅勤務、2日だけオフィスに行くといった働き方も十分オプションとして浮上してきます。しかも、2日行くオフィスですら、自宅から近い場所を選ぶようになる。こんな動きが出てくるのではないでしょうか」

「そうなると、1坪6~8万円もする一等地のオフィスを数百平米も借りる必要がなくなってきます。賃料は、人件費に次ぐ大きな固定費だけに、企業にとっても削るメリットが大きい。オフィスの更新時期は2年に1回なので、影響はまだ見えていません。でも半年くらいたてば、オフィス賃料の下落、空室増といった動きが確実に目立ち始めると思います」

――住まいの面では、どのような変化が出ると思いますか。

「実際にテレワークをしている方に話を聞くと、皆が異口同音に『小さくてもいいから書斎が欲しい』と言います。とりわけ共働き夫婦は1人が書斎で仕事をして、1人がダイニングテーブルで仕事、というケースも珍しくありません。広いリビング・ダイニングはいらないから、書斎のもう1つある家が欲しい、あるいはもっと広い家に住みたい。こうしたニーズは当然出てくるでしょうね。毎日会社に行く必要もなくなりますので、遠くてもいいから広い場所に住もうという選択肢も出てきます。利便性で好まれていた『都心』の価値は、相対的に低くなっていくでしょうね」

「1つの場所に住み、働き、遊ぶ。そんな流れも出てくると思います。米西海岸で起こったのと同様の動きが日本でも出ると言えるでしょう。GAFAをはじめとする米IT企業の多くが本社をロサンゼルスやサンフランシスコのど真ん中ではなく、郊外に構えています。従業員はその街に住み、教育や商業施設も充実している。日本でも似たような街が出てくるのではないでしょうか」

「例えば神奈川県の逗子市。昔は逗子から都内まで一生懸命電車に乗って通ったお父さんもいましたが、現在は都内の通勤圏から外れています。でも逗子は、海が近くて自然が豊か。商店街や大型スーパーもあり、住環境としても整備されています。住む場所として見直されてもおかしくはない場所です。朝サーフィンをしてから家でテレワークする。そんなのんびりした生活も悪くありません」

都心は「遊ぶ場所」に

――都心は前ほど人が集まらなくなるのでしょうか。

「都心はこれまで『働く場所』でしたが、エンターテインメント色が強くなり『遊ぶ場所」になるのではと思っています。ここでなければ手に入らないモノや、芸術、文化が集積する場所に変わっていくのではないでしょうか。今まで平日の人口の方が多かった都心は今後、休日の人口の方が増えそうです」

――マンションなどの住宅価格はどうなっていくと思いますか。

「金融機関の信用収縮に端を発したリーマン・ショックでは、財務基盤の弱い多くのマンションデベロッパーが廃業を余儀なくされました。現在のデベロッパーは、リーマン後に参入した新興業者を除けば皆、財務基盤がしっかりしています。リーマンのときのような派手な倒産や価格の暴落は起こりにくいと考えています」

「とはいえ、総合デベロッパーですら、普通に考えれば商業施設の長期休業や、企業業績の悪化によるオフィスの空室増加、賃料減額でダメージを受けることが予想されます。これまでは、マンション在庫を抱えていても乗り切れると思われていたようなところでも、価格の引き下げや損切りが起こりそうです」

「とりわけ、湾岸エリアにたくさん建てられたタワーマンションは悲惨でしょうね。言うまでもなく、1つの場所に数百、数千に上る住居が『密接』『密集』しているのですから。多くの共用部分やエレベーターには窓がありませんから『密閉」。実際に、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際は、香港のマンションで集団感染が発生しました。3密の条件をすべて兼ね備えていると言っても過言ではないタワマンの価値がこれからどうなるか、容易に想像がつくと思います」

(日経ビジネス 武田安恵)

[日経ビジネス電子版 2020年5月15日の記事を再構成]

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