教化と笑い にじむ葛藤(書評)
「国策落語はこうして作られ消えた」柏木新著

関西タイムライン
2020/5/15 2:00
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柏木新著 本の泉社 2000円(税別)

柏木新著 本の泉社 2000円(税別)

日中戦争や太平洋戦争のさなか、国民の戦意を高揚し世論を形成するため、映画や文芸、音楽など様々な分野で国策に沿った新たな作品が生み出された。本書は、庶民の娯楽である落語がどのように戦争に協力を求められたか、当時の落語の演目をもとに記したものだ。

落語の戦争協力としてよく知られるのは「禁演落語」だ。遊郭が舞台となったものなど53の演目が風紀を乱すとして上演自粛になった。一方、戦意高揚を図る目的で盛んに作られたのが「国策落語」だ。当時高座で演じられたほか、雑誌やレコード、ラジオ放送にもなったという。

国策落語とはどのようなものだったか。著者は具体例を挙げながら内容を13種類に分類する。出征する軍人をたたえる「出征祝」や、戦費確保のため貯蓄や債券の購入を促す「債券万歳」、アジアへの侵略を正義の戦争として正当化する「南方みやげ」……。それぞれ当時の国策を綿密に反映しており、国民は楽しみながら知らず知らずのうちに教化されてしまう。

国策を主軸にしながらどう笑いを誘うかには、落語家や落語作家のプロとしての苦心の跡がにじむ。終戦が近づくほど主張は露骨になり、落語の魅力である軽妙さや闊達さ、自由さが失われてゆくのは文字で見ているだけでも痛々しい。

一方、昭和恐慌以降、客足が遠のきがちだった落語界にも「古典落語だけでは時世の動きについていけない」との危機感があった。それぞれの演目には、当時の落語家の微妙な迷いや葛藤が潜む。長らく忘れられたかのように思われた国策落語だが、2016年に二代目林家三平が「出征祝」を演じるなど歴史を振り返る動きも出始めた。国策落語がどのように時局に追随したかを学び直すとともに、落語として客観的に評価する契機として本書を位置づけたい。(山本紗世)

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