米エコノミスト「世界経済の回復、政府の景気刺激がカギ」
ディシジョン・エコノミクス社長 アレン・サイナイ氏に聞く

2020/5/16 2:00

FRBのパウエル議長は資金供給などの対策について「弾丸が尽きることはない」と述べた=ロイター

FRBのパウエル議長は資金供給などの対策について「弾丸が尽きることはない」と述べた=ロイター

新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の急減速が懸念されるなか、米連邦準備理事会(FRB)が、過去最大となる資金供給を続けている。レーガン・クリントン政権など米共和・民主党双方の政策助言に携わった著名エコノミスト、アレン・サイナイ氏は日本経済新聞の取材に答え、FRBの総資産は資金供給の拡大で「米国内総生産(GDP)の6割以上に達する可能性もある」と指摘。米国では今後数年、ゼロ金利政策が続くとの見通しを示した。一方で、世界経済の回復には「政府による景気刺激が必要だ」と強調した。

■FRB、経済全体の「最後の貸し手」に

米ディシジョン・エコノミクス社長 アレン・サイナイ氏

米ディシジョン・エコノミクス社長 アレン・サイナイ氏

──コロナ危機への世界の中央銀行の対応をどう評価しますか。

「主要な中銀は金融市場、銀行など貸し手、経済に対するコロナショックを和らげるために適切な緩和政策をとっている。もっとも、各国で違いはある。中でも目立つのは、政策金利のゼロ%への引き下げやQE(量的緩和)を超えたFRBの政策だ」

「FRBは家計や企業などへの資金供給を進め、地方債の購入を通じて州政府への『貸し付け』にも乗り出した。これらは2008~09年のリーマン・ショックの時よりもはるかに迅速で、範囲も幅広く、より効果的だ。今やFRBは銀行などにとってだけでなく、経済全体の『最後の貸し手』と言えるだろう。米財務省と設立した『メインストリート融資プログラム』などを活用することで、FRBは事実上、既存銀行を通さずに資金供給するユニバーサルバンクとなった。一連の対策には、リーマン後の長期不況から学んだ教訓が生かされている」

――コロナ危機が長引いた場合、中銀はどんな追加策を打ち出すでしょうか。

「理論的には、証券などの購入について中銀のバランスシート拡大には制限はない。現在、FRBのバランスシートは5兆~6兆ドル(約540兆~650兆円)で米国のGDPの2~3割だが、市場や借り手への資金供給のために5~6割への引き上げ、さらにそれ以上にも拡大し得る。法人への直接の資金供給や、収入支援などに乗り出すことも可能だろう」

「欧州中央銀行(ECB)や日銀にも同じ事が言える。緩和策によって株や住宅などの資産価格が恩恵を受けるが、経済や雇用にも効果がある。それをバブルと呼ぶ必要はない」

■インフラ投資など政府の財政拡大が不可欠

――中銀による緩和や資金供給で危機への対策は万全なのでしょうか。

「低金利やマイナス金利は、中銀の資金供給の拡大と同様に役立つものの、それらは必要条件であって、必ずしも経済回復に向けた新たな勢いを生み出すわけではない。財政ファイナンスの議論はあるが、(中銀による政策の)効果を最大化するためには、政府による景気刺激が必要だ」

「具体的には、減税や中央政府の支出拡大、家計への所得支援といった財政政策が規模の面も含めて求められる。経済活動を上向かせ、生産と価格を押し上げ、経済の下方スパイラルを逆回転させるには、貸し手や融資だけでなく、『借り手』が必要となる。中央政府や州政府による消費者や企業支出を刺激するための収入支援は、経済回復にとって不可欠な要素だ」

「問題は、需要を回復させる必要があるという点だ。需要回復には、インフラ投資や新規ビジネスへの助成金や各種支援、既存企業からの財やサービスの購入など、中央政府による支出拡大が求められる」

──経済の回復はいつごろになると考えていますか。

「ワクチンがいつごろ普及するかなど次第だが、経済的には5月以降、経済回復が始まるとみている。米国では3~4月に消費や雇用の大きな落ち込みがみられた。4~6月期のGDPの伸び率はマイナスになるだろうが、経済活動が再開することで、5月以降、夏にかけて持ち直すだろう」

──コロナ収束後、中銀はどのように行動すべきでしょうか。

「インフレの進行度合いによるだろう。制限のない中銀のバランスシート拡大には物価上昇のリスクも伴うが、現在の規模なら、それほどリスクは大きくない。コロナ収束後も物価上昇が鈍いままなら緩和を続けるべきだ。我々の予測では、米国の物価上昇率は2023年までは2%の目標に届かず、政策金利もゼロ%に据え置かれるだろう」

(聞き手は安西明秀)

Allen Sinai 米大手証券のリーマン・ブラザーズでチーフ・グローバル・エコノミストを務めた後、96年に米調査会社ディシジョン・エコノミクスを設立し、社長に就任。共和・民主両政権で政策助言に携わった。81歳。

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