タイ航空、再建阻む「甘え」 公的支援条件に労組ら反発

東南アジア
アジアBiz
2020/5/12 22:10
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タイ航空は5月末まで全便を運休する(4月17日、バンコクのスワンナプーム空港)=小高顕撮影

タイ航空は5月末まで全便を運休する(4月17日、バンコクのスワンナプーム空港)=小高顕撮影

【バンコク=村松洋兵】タイ国際航空の再建計画が、新型コロナウイルスを受けた経営危機の局面でもまとまりを欠いている。政府は約1800億円に上る公的支援の条件として、最大8千人の人員削減を柱としたリストラを迫った。これに労働組合や利権を持つ政治家や軍関係者が反発し、調整は難航する。国営企業特有の「甘え」体質が、今回も着地点を見いだせないでいる。

「再建に5年を与えたが、今回がラストチャンスだ」。プラユット首相は5日の記者会見でクギを刺した。再建計画は同日の閣議で決めるはずだったが、調整の遅れから提案すらなかった。首相は「生きるか死ぬかの問題だ」と計画策定を急ぐよう強く求めたが、12日の閣議でも結局、決まらなかった。

■3期連続赤字

タイ航空は過去10年の決算で最終赤字が7回に上る。このうち2019年12月期までは3期連続で計上し、赤字額の合計は257億バーツ(約850億円)。国営企業にありがちな高コスト体質が染みつくなか、格安航空会社(LCC)との厳しい競争で中国人の観光需要も利益につなげられなかった。

もともと経営が苦しいなかで、新型コロナが追い打ちをかけた。タイの入国制限で3月下旬から全便運休となり、収入がストップ。タイ航空は債務返済や航空機リース費の支払いにも窮し、頼みの政府に助けを求めた。

政府は財務省が債務保証して1800億円規模のつなぎ融資を実施する方針。タイ航空は財務省が株式の51%を保有し、タイ資本で唯一、長距離国際線を運航する「ナショナルフラッグキャリアー」だ。オーストラリアでは4月にヴァージン・オーストラリアが破綻したが、同国にはカンタス航空がまだある。それだけに、タイ政府は経済的合理性だけでは破綻させにくい事情がある。

にもかかわらず、4月中にまとまるはずだった金融支援はいまだに実行されていない。背後にあるのは、タイ航空の利害関係者による政府のリストラ要求への抵抗だ。

政府内では経営効率化を目的に、人員削減や分社化を検討課題として挙げている。約2万人いる従業員のうち「3~4割の削減が必要」(政府関係者)。旅客や貨物といった各部門も分社化し、人員数や給与水準の適正化を狙う。一部は民営化するとの観測も出る。

■政治家・軍も反発

だがこうした方針が伝わると、労働組合はすぐさま反対を表明した。労組のナレス委員長は8日「政府に協力する意思はあるが、従業員の福利厚生は守るべきだ」との声明を公表。「単一組織の国営企業でなければならない」と分社・民営化にも強く反発した。

労組だけではない。水面下では政治家や軍関係者も再建案の骨抜きに動く。

タイ航空の8人の取締役のうち、空軍と財務省、運輸省の出身者が5人を占める。他の幹部も天下りが多いとされ、経営が合理化されれば、ポストが削減されかねないことを危惧する。

また、航空券販売を直販に切り替える案に対しても抵抗が強い。現在は航空券の約8割を代理店経由で販売するが、代金の3割以上が代理店の販売手数料になるケースもある。この手数料の一部が政治家や軍関係者に還流しているとされ、このままでは「甘い汁」が吸えなくなるとの危機感が頭をもたげる。

タイ航空は過去に何度も経営改革に乗り出したが、労組などの反発でことごとく失敗してきた。外部から招かれた経営トップは社内基盤が弱く、過去3代の社長は就任1~2年でいずれも辞任。スメート前社長が3月に辞意表明した後は現在もトップ不在のままだ。再建案がまとまらないことに嫌気がさし、株価は年初から25%下落した。

タイ金融大手パトラ・キャピタルのバヨン会長は、政府の金融支援は必要としつつ「政府主導で破産手続きをしたうえで再生を目指すべきだ」とする。破産法のもとで政府が利害関係者と交渉に当たらなければ、改革は実現できないとみる。

新型コロナの影響でアジア各国のフラッグキャリアーが苦境に陥っているが、各国に共通するのは政治家や労組の影響力が強いことだ。経営再建の方向性が定まらないタイ航空の行方は、他の航空会社にとっても対岸の火事ではない。

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