コロナ薬候補 北里大「イベルメクチン」治験の詳細

科学&新技術
BP速報
2020/5/12 16:35
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新型コロナウイルスの3次元モデル(提供:米国立アレルギー感染症研究所)

新型コロナウイルスの3次元モデル(提供:米国立アレルギー感染症研究所)

日経バイオテク

北里大学は、抗寄生虫薬「ストロメクトール」(一般名イベルメクチン)の新型コロナウイルス感染症に対する効果を確かめる治験(臨床試験)を近く開始する。北里大学大村智記念研究所感染制御研究センターの花木秀明センター長は取材に対し、「我々は、イン・ビトロ(試験管内などの人工的な環境下)の実験で新型コロナウイルスに対する有効性を確認した。臨床での有効性を科学的に検証する必要があると考え、医師主導治験の開始を決めた」と答えた。

イベルメクチンは、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大の大村智特別栄誉教授と製薬大手の米メルクの共同研究で創製された抗寄生虫薬だ。大村特別栄誉教授は1974年に、土壌中に生息する放線菌が産生する化合物のエバーメクチンが、抗寄生虫作用を持つことを発見した。その後、メルクがそれを改良しイベルメクチンを作り出した。

イベルメクチンは家畜動物の寄生虫駆除に用いられるほか、人に対しては熱帯地域などで問題となる「河川盲目症(オンコセルカ症)」の治療などに用いられてきた。河川盲目症は回旋糸状虫という線虫の一種による感染症。眼のかゆみ、発疹、瘢痕(はんこん)などを生じ、失明することもある。

メルクは81年にイベルメクチンを動物医薬品として発売。その後87年からは人用医薬品として河川盲目症の流行する地域に無償提供している。国内では2002年に「腸管糞(ふん)線虫症」の薬として承認され、06年に「疥癬(かいせん)」が追加された。

花木センター長によると、「イベルメクチンに関しては12年以降、様々なウイルスの増殖(複製)を抑制することが報告されてきた」という。「それらの報告を基に、オーストラリアの研究チームは、20年4月にイベルメクチンが新型コロナウイルスの増殖を抑制することをイン・ビトロの実験で確認した。北里大学の大村智記念研究所でも同様の結果を確認済みだ」(花木センター長)

また、米ユタ大学の研究チームは4月19日に、新型コロナウイルス感染症に対するイベルメクチンの論文を発表した。これは、20年1月1日から3月31日までに新型コロナウイルス感染症と診断された患者データを解析したもの。米国、欧州、アジアなどの計169病院からのデータを基に、イベルメクチンを投与したグループと投与していないグループで死亡率を比較した(それぞれ704人)。解析の結果、死亡率が投与していないグループの8.5%に対し、投与したグループは1.4%であり、明確に低かった。

この結果に対し、花木センター長は、「ユタ大の研究結果は極めて重要な情報だ。ただし、この研究で利用したのは観察研究のデータであり、情報量も極めて限られている。この研究結果だけでイベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に有効かどうかを判断することはできない」と指摘。そこで北里大は、「医師主導治験によって、患者にとってイベルメクチンが本当に有益であるかどうか検証する」(花木センター長)。

では、もし仮にイベルメクチンが新型コロナウイルスに有効であるとしたら、どのような作用機序が考えられるのか。花木センター長は「コンピューターを利用したシミュレーションでは、イベルメクチンは、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼに対する結合親和性が報告されている。メインプロテアーゼは、ウイルスのゲノムから翻訳された蛋白質を切断し、機能させる酵素。そのため、イベルメクチンがメインプロテアーゼを阻害することでウイルスの複製を抑制できると考えられる」と説明する。

また、「イベルメクチンは、インポーチンという宿主細胞内のたんぱく質を阻害することも分かっている。インポーチンは、種々のたんぱく質を(細胞の)核内に輸送する機能を持つたんぱく質だ。新型コロナウイルスは、インポーチンを介して宿主細胞の核内に侵入して複製される。そのため、インポーチンにイベルメクチンが結合し、不活化することで、ウイルスの核内への侵入を阻害するのではないかと考えられる」と続ける。

花木センター長は、医師主導治験の詳細について、「試験デザインなどの詳細は規制当局と相談中」としている。また、「治験薬の確保などに関しては、同薬の販売元であるマルホ(大阪市)に相談をしている。医師主導治験によって有効性が確認された場合、同薬の製造販売元である(米メルクの日本法人)MSDが承認申請することになるため、MSDとも連絡を取っている」と説明している。

イベルメクチンは20年5月に入って急速に治療薬候補として注目されるようになった。北里研究所の広報担当者は、「5月6日に西村康稔経済財政・再生相が本学を視察した際に、西村大臣から『安倍首相もイベルメクチンに期待を示している』という趣旨がメディアに向けて伝えられた。またイベルメクチンは、大村特別栄誉教授がノーベル賞を受賞した契機となった医薬品であることも影響し、注目されるようになったのではないか」と話している。

いずれにしても、イベルメクチンの新型コロナウイルス感染症に対する有効性に関して、十分なエビデンス(科学的根拠)は今のところ確立していない。

(日経バイオテク 三井勇唯)

[日経バイオテクオンライン 2020年5月12日掲載]

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