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韓国Kリーグ開幕 久々の試合に感じた喜びと懸念
サッカージャーナリスト 大住良之

2020/5/14 3:00
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久々の「ライブサッカー」だ。5月8日、韓国プロサッカー「Kリーグ」の開幕戦、全北現代モーターズvs水原三星ブルーウイングスを動画共有サイト「ユーチューブ」で見た。

やはりライブは違う。冷静に見ればつまらない展開であっても、「一瞬先」がわからないライブには、「次はどうなる?」という期待感と緊張感がある。

「握手しない」「つば吐き禁止」

2015年の中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)の経験を生かした防疫対策が功を奏して新型コロナウイルスを抑えられた韓国。5月5日のプロ野球に続き、世界に先駆けてのプロサッカーリーグの試合開催は大きな注目を集めた。国外でのテレビ放送は、英国など新規の10カ国との契約を含めて36カ国になったという。

開幕に先立ってリーグの全選手と全スタッフら1100人のPCR検査を行って陰性であることを確認、「握手はしない」「つば吐き禁止」「得点後の大げさな喜びは禁止」「ベンチでは全員マスク着用」など、感染防止の対策が取られた。試合当日には、スタジアムの入り口で全選手の体温がチェックされた。

もちろん、当面は無観客である。通常ホームのサポーターが入る北側スタンドにはサポーターのフラッグやバナーが並べられ、アウェーサポーター席に当たる南側スタンドはホームクラブの全北の親会社である自動車会社の巨大広告で覆われた。そしてバックスタンド全面には巨大な「# C_U_SOON,STAY STRONG(強く生きましょう。また近いうちに)」の文字。一部座席を黄色などのシートで覆って描き出した文字は、全世界のファンへのメッセージだった。

無観客のスタンドには「STAY STRONG」などのメッセージが描かれた=AP

無観客のスタンドには「STAY STRONG」などのメッセージが描かれた=AP

韓国南西部の全州市の「全州ワールドカップ・スタジアム」。この日は日中の気温が23度になったが、キックオフの午後7時を迎えるころには20度を切っていた。

試合の始まり方は非常に奇妙だった。接触プレーを恐れたのか、激しい当たり合いがない。相手がパスを回すのを遠くから眺めているだけで、守備側がボールを奪おうとするときには、「体を入れる」プレーよりもスライディングでボールをかき出すプレーが多い。レフェリーも同じ調子で、ちょっとした接触でも笛を吹き、試合を止めてしまう。

試合が始まって1分後、突然サポーターの歌声が流れ始めた。全北のサポーターの声を録音したものだった。だが互いに腰の引けたようなプレーが変わるわけではなかった。

ようやく試合のスピードが上がったのはキックオフから15分ほどたったころ。ともに相手ボールへの寄せが速くなり、自然にボールを巡っての接触プレーも増える。レフェリーもこのころから軽い反則は流すようになる。

マスク姿の両監督はベンチから動かず、じっと試合を見つめている。規定どおり、ベンチにいる控え選手やスタッフも全員マスク姿だ。

ベンチにいる選手らは全員がマスクを着用=ロイター

ベンチにいる選手らは全員がマスクを着用=ロイター

前半23分ごろ、ペナルティーエリアまで守備に戻った全北のMF金甫炅がファウルを受けて倒れ、同僚のDF洪正好が右手を差し出して助け起こした。これがこの試合で選手同士が手をつなぎあった最初のシーンだった。

後半の立ち上がりに水原のペナルティーエリアラインあたりで混戦があり、全北の選手たちがハンドをアピール。プレー停止後、主審は「ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)チェック」を示し、すぐに「レビュー」にかかったが、最終的にノーファウルと判定した。

VARを使ったことに驚き

今回のKリーグの開幕で最も驚いたのが、VARが行われていたことだった。VARとアシスタントVAR、そしてオペレーターの少なくとも3人が入るオペレーション室は、完全な「密閉・密接」状態。無観客が必須という状況下では無理して行う必要はないと私は思っている。イタリアでは審判協会がVARを使わないことを要求し、国際サッカー連盟(FIFA)もそれを認めている。

後半、水原の動きが落ち、全北が圧倒的にボールを支配して攻める。後半に入って完全にマスクを外した全北のジョゼ・モライス監督は、勝負どきと見て、15分すぎに切り札のFW李同国とMF邦本宜裕(元福岡)を投入する。

全北の猛攻が続いたが、ようやく後半30分近くになって水原が息を吹き返して攻撃の回数を増やす。ところがその直後、オーストラリア代表MFアントニスが全北のMF孫準浩の足首に足裏でタックル、一発退場になってしまう。

そして後半39分、左CKを得た全北がついにゴールを割る。ゴール内からニアポスト前に出てきて孫準浩のキックに合わせ、斜め後方のゴールに送り込んだ李同国のヘディングは、Kリーグ最年長、41歳の元韓国代表エースらしい美しいものだった。

決勝ゴールを決め、静かに喜ぶ李同国=ロイター

決勝ゴールを決め、静かに喜ぶ李同国=ロイター

チームメートと肘を合わせて喜びを分かち合う李同国。テレビカメラに向かうと、左手を開いてその手のひらの上に右手を乗せ、親指を立てるポーズを見せた。韓国で「感謝」を表すポーズで、新型コロナウイルスと闘う医療関係者へのメッセージだったという。

試合はそのまま1-0で終了。昨年まで3連覇のチャンピオン全北と昨年のカップウィナー水原という好カードは、ホームチームの勝利で終わった。

選手に感染のリスクと恐怖は?

久々のライブサッカーは、私にとってはとても楽しかった。しかし選手たちにの何人かには、試合後になって感染の恐ろしさが襲ってこなかっただろうか。自分たちだけがリスクにさらされているという思いにはならなかっただろうか。

また無観客が選手たちに与える影響も気になるところだ。サポーターというプロサッカーに不可欠な要素を抜きに戦うことの影響が、今後出てくるかもしれない。

レフェリーの試合終了のホイッスルが高く鳴り響いたとき、そこには、抱き合って喜ぶ選手たちの姿も喜びを爆発させるホームのサポーターの歓声もなく、後半から降り始めて試合終了時には本降りになっていた雨の音だけが「ピシャ、ピシャ」と聞こえていた。

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