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マイナンバーカード、「密」を生んだミスマッチ

知っ得・お金のトリセツ(9)

今話題のマイナンバーカードを使った特別定額給付金のオンライン申請。まずはよくあるパターンでクイズから。

Q1. マイナンバーカードの普及率が最も高い年齢層は?
Q2. オンライン申請に使える情報端末はなに?

新型コロナウイルスの緊急経済対策である1人当たり10万円の給付が先週、一部の自治体で始まった。すると人手を介さず業務が迅速に済むはずのオンライン申請が、かえって人を自治体窓口に向かわせ「密」を生む……そんな皮肉な光景が展開された。主因は5回間違うとロックが掛かり、窓口で設定し直す必要があるマイナンバーカードの暗証番号だ。「意外な盲点」と報じられたがクイズの答えに鑑みればある程度予期できた混乱だ。

高齢者ほど持っているカード

Q1の答えは75~79歳。国民全体の普及率は最新でも16%強にとどまるが70代後半は1年前のデータで既に23.6%。同年代のほぼ4人に1人は保有していた。電子証明書がICチップに搭載された新機能カードというと、若者との親和性が高そうなイメージだが主な保有者は実は高年齢層だ。保有者全体の年齢分布でも60代以上が過半を占める。主な利用法がこれまでは身分証明書にとどまっていたことを考えると不思議はない。

81歳の自分の母もその一人。「なんとかカードを持ってるからすぐ10万円もらえる」と言い張る母に聞いてみた。「じゃ、暗証番号は?」。「へ?」「何それ?」「え、2つもいるの?」「知らないわよ、そんなもの!」……かくして人は窓口に向かい密がつくられる、そのことがよく分かった。

立ちはだかる「ガラケーの壁」

無論、高齢者でも暗証番号をきちんと管理している人は多いだろう。だが次の壁が立ちはだかる。Q2の答えはスマートフォン、もしくはパソコンとICカードリーダーだ。パソコンがあっても、今回はさらにICカードリーダーという通常は持っていない付属品がないと役に立たない。従って主戦場はスマホだが、これも例えばiPhoneなら7以降の機種の最新読み取り機能が必要。そもそもスマホ保有率自体、近年上昇したとはいえ一般のおよそ9割に対して60代になると6割台に落ちる。

中高年以上を中心に従来型の携帯「ガラケー」がまだまだ一定の存在感を持っているのだ。ガラケーの利用者は何人いるのだろう?

実はこのコラムで先週書いた「マイナンバー、『ナンバーあれどカードなし』の残念」に対し読者から反応をいただいた。「私はガラケー派です。ガラケー所有者は2000万人と言われています。今回のやり方ではオンライン申請できない人がたくさん出ます」。え、2000万人? そんなに? と思って調べると確かに併用者を含めた数字だが2000万~3000万人とも言われている。

「あえて不便」なカードとは…?

カード保有者は高齢者が多い一方、その多くが使いこなせないというマイナンバーカードをめぐるミスマッチが浮き彫りになったのが今回の騒動。ほかにも落とし穴はある。カード取得後に引っ越して、券面上の住所だけ変えICチップ上の署名用電子証明書を変更していない場合だ。その場合、失効扱いとなり今回のオンライン申請では使えない。ツイッター上で多数報告されているケースだ。署名用電子証明書の利用はこれまで国税電子申告・納税システム「e-tax」を使っての確定申告時などに限られていた。多くの人には無関係だったため自治体窓口でも引っ越しの手続き時にあえて強くは勧めていなかったようだ。

誰に、どんな機能を提供するためにつくったのか――。目先の不備を追っていると、マイナンバーを巡る最大の問題は根本的な思想の欠如にあることがわかる。導入時の担当大臣、甘利明氏の最近のツイッターでの発言が「参考」になる。カード普及率が低いから現金がすぐに届かないというのは誤解で「マイナンバー自身は既に法律で全国民に付番済で、希望の振込口座を届け出れば本当は出来ます。でも当時の制約で法律改正しないと口座とマイナンバーを結べません」。

通称「マイナンバー法」に対してはプライバシーの侵害や情報漏洩への危惧から反対も根強く、利用範囲を税と社会保障、災害のうちの特定範囲に限定しそれ以外の利用を禁止した経緯がある。現状、口座に直結しないのは「あえて不便」にした結果というわけだ。作為と不作為、両方の不便に囲まれさらに新たに加わったコロナという脅威と闘うため、どこまで政府による個人データ活用を許すか。10万円を申請しつつ、その思想も深めたい。

山本由里(やまもと・ゆり)

1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
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