新型コロナ薬のレムデシビル 「特例承認」に至るまで

BP速報
2020/5/11 17:35
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ギリアド・サイエンシズが開発した「レムデシビル」=ロイター

ギリアド・サイエンシズが開発した「レムデシビル」=ロイター

日経バイオテク

厚生労働省は、ギリアド・サイエンシズの「ベクルリー」(一般名レムデシビル)を「新型コロナウイルスによる感染症」の治療薬として、7日に特例承認した。4日の承認申請からわずか3日後の承認。医薬品の承認について審議する薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会の開催日に承認まで至っており、異例ずくめの承認となった。

レムデシビルは、ギリアドがエボラ出血熱を対象に開発を進めていた静注薬で、ウイルスの複製に関与するRNAポリメラーゼを阻害する作用を持つ。今回は、新型コロナウイルス感染症の治療選択肢として緊急に使用可能とするための措置として、米国での緊急使用許可(EUA)を受け、医薬品医療機器等法に基づき特例承認された。レムデシビルが正式に承認されるのは、米国ではEUAのため、世界で初めて。

■投与対象を重症患者に限定して承認

承認された効能・効果は新型コロナウイルスによる感染症。これに関連する注意事項として、「新型コロナウイルスによる感染症に対する主な投与経験は、酸素飽和度94%以下、(または)酸素吸入を要する、(または)体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)導入または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者に対してであることから、現時点では原則として重症患者を対象に投与を行うこと」との文言が盛り込まれ、米国のEUAの対象と同様、特例承認の対象は重症患者のみとなった。

なお、重症患者の定義が米国と日本では若干異なっていることを踏まえ、「レムデシビルは、日本で重症患者とされる、集中治療室(ICU)に入っている患者、気管挿管されている患者、ECMOを導入している患者に使われることになる」(厚労省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課)という。

用法・用量は、「通常、成人および体重40キロ以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200ミリグラムを、投与2日目以降は100ミリグラムを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5キロ以上40キロ未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に体重1キロ当たり5ミリグラムを、投与2日目以降は同2.5ミリグラムを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする」。

これに関連する注意事項として、「本剤の最適な投与期間は確立していないが、目安として、侵襲的人工呼吸器管理またはECMOが導入されている患者では総投与期間は10日間までとし、侵襲的人工呼吸器管理またはECMOが導入されていない患者では5日目まで、症状の改善が認められない場合には10日目まで投与する」と記され、患者の状態に応じて、5日、10日の投与期間を使い分けることになった。

特例承認に際しては、政令に基づき、(1)進行中の治験や臨床試験の成績を速やかに報告する(2)副作用などを速やかに報告する(3)本剤が特例承認されたものであることなどを使用する医療関係者や患者、代諾者に説明する(4)本剤の販売または授与の相手、販売・授与数量を必要に応じて報告する――ことなどの義務が生じる。

■厳格な全例調査より患者への投与を重視した承認条件

また承認条件として、(1)医薬品リスク管理計画を策定・実施する(2)製造販売後、一定数の症例データが蓄積されるまで、可能な限り全症例についてデータを収集、報告する(3)安全性に関する追加的に実施された評価に基づき、適正使用に必要な措置を講じる(4)安全性・有効性に関する最新情報を医療従事者が入手できるよう措置を講じる(5)本剤の投与が適切と判断される症例のみを対象に、患者や代諾者に文書で説明・同意を得た上で、投与されるよう医師に要請する(6)承認に際して猶予された資料は、承認取得後、遅くとも9カ月までに医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出する――が付いた。

承認条件の(2)で厳格な全例調査ではなく、「可能な限り全症例についてデータを収集、報告する」とした点について、医薬品審査管理課の吉田易範課長は、「全例調査には一定の手続きが必要になることから、多くの患者にいち早く投与することを鑑みて、投与を急ぐことを優先し、『可能な限り』とした」と説明し、厳格な全例調査よりも患者への投与を重視したことを明らかにした。

特例承認の根拠となったのは、(1)米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が主導し新型コロナウイルス感染症の重度の入院患者を対象にした臨床試験(2)ギリアドが主導し新型コロナウイルス感染症の重度の入院患者を対象とした、承認申請前の最終段階にあたる第3相臨床試験(3)新型コロナウイルス感染症の患者を対象に人道的見地から行われたレムデシビルの投与経験――の3つ。

そのうち、「プラセボ(偽薬)群が設定された(1)の臨床試験の中間解析の結果が主なものとなったが、同臨床試験を含め、総合的にデータを評価した」と医薬品審査管理課は説明している。なお、(1)の臨床試験の中間解析では、レムデシビルを10日間投与した群では、プラセボ群と比べて治療期間が短縮する効果が示唆されている。

■審査報告書は「早ければ2020年5月中に公開したい」

もっとも、限られたデータしかない中、特例承認の可否を議論することになった医薬品第二部会では、様々な指摘が出たようだ。医薬品審査管理課の吉田課長も、「データが十分でない、情報が足りていないのは事実なので、色々な議論があった。ただ、こういう状況なので、今後の情報提供なり、報告などを受けてしっかりと確認するということで、最終的には全会一致で特例承認して差し支えないと結論された」と明かす。

また、有効性については、前述した(1)や(2)の臨床試験でレムデシビルの有効性が示唆された一方で、中国で実施され、英医学誌ランセットに報告された臨床試験ではプラセボ群と比較して臨床的な改善が認められなかったと報告されている。

その点について、吉田課長は「ランセットの論文は承知しているが、予定していた症例数が(流行の終息で)組み入れられず、有効性について適切に評価できなかった可能性があると(今後公開される)審査報告書でも触れられている。第二部会でも議論してもらったが、それも含めて、今回、添付文書に記載した様々なデータに基づいて特例承認を了承した」と説明した。

レムデシビルの審査報告書は、「現在、マスキング作業などを進めており、できるだけ早く、できれば2020年5月中に公開したい」(医薬品審査管理課)という。

「今回の特例承認でレムデシビルの投与対象となる、国内の重症患者数は不明。現在、集中治療室(ICU)に入っている患者、気管挿管されている患者、ECMOを導入している患者の人数について情報収集しているところだ」と医薬品審査管理課は説明している。

ギリアドはレムデシビルを世界で150万回分(10日間投与で14万人分)、無償提供する方針を示しており、それに伴って日本でも無償提供する。ただし、新型コロナウイルス感染症による入院は、感染症法に基づく措置入院となっており、患者は、自己負担分を支払う必要は無い。

レムデシビルの日本への輸入時期、輸入量は、「現時点では未定。国内でどの程度の医療機関に提供されるかも分からない」(医薬品審査管理課)

なお、今後、新型コロナウイルス感染症の中等度の入院患者を対象としたレムデシビルの臨床試験の結果、有効性が示された場合に、適応拡大となるのか、特例承認されるのかなど、どのような手続きになるのかについて、医薬品審査管理課は「随時データを出してもらうということ以外、まだ分からない」と話していた。

◇  ◇  ◇

■レムデシビルに適用された特例承認とは?

特例承認とは、「医薬品医療機器等法」の第14条の3第1項に定められている承認する仕組み。(1)疾病のまん延防止等のために緊急の使用が必要(2)当該医薬品の使用以外に適切な方法が無い(3)海外で販売等が認められている――という要件を満たす医薬品について、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を踏まえ、医薬品を承認できると定められている。承認申請資料のうち臨床試験以外のものを承認後の提出としてもよいことから、医薬品の早期承認が可能になる。

ただし、「医薬品医療機器等法」に基づく特例承認は、どの国で承認されたどんな医薬品にも適用できるわけではない。「医薬品医療機器等法の第14条の3第1項の医薬品等を定める政令」という、関連の政令が存在しており、そこで、特例承認の対象となる品目や承認制度の対象国があらかじめ規定されている。20年4月末時点で、同政令で特例承認の対象となる品目は「新型インフルエンザのワクチン」のみ、承認制度が日本と同水準の国となっていたのは、「英国、カナダ、ドイツ、フランス」だけだった。

そのため厚労省はレムデシビルの承認申請を見越して、5月2日付で同政令の一部を改正。対象となる品目に「新型コロナウイルス感染症にかかる医薬品」を追加。承認制度が日本と同水準の国を「米国、英国、カナダ、ドイツまたはフランス」に変更した。

ちなみに、新型コロナウイルス感染症にかかる医薬品には、今回のような抗ウイルス薬だけでなく、ワクチンも含まれると考えられることから、前述した国で新型コロナウイルス感染症を対象に承認されたワクチンについても、今後国内で特例承認が可能になる。

(日経バイオテク 久保田文)

[日経バイオテクオンライン 2020年5月8日掲載]

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