逆境に強いパラリンピアン「今こそスポーツの力」
マセソン美季

日本で緊急事態宣言の延長が発表された4日、カナダの我が家のプランターで百日草(ジニア)が芽を出した。花言葉は、まるで今の状況を象徴しているかのようだ。「遠い友を思う」「絆」「注意を怠るな」
新聞やテレビ、ラジオ、インターネット、はたまた家族や友人との会話に至るまで、新型コロナウイルスの話題に浸食されている。このウイルスは生命を脅かすだけでなく、政治、経済、教育など、あらゆる分野で、あらゆる人たちに相当なダメージを与えている。
当たり前の生活が突然、姿を消してしまった。様々な制限が課せられ、不便で、時に不快な生活に不満は尽きず、心配事や不安も後を絶たない。生活から余裕がなくなり、真っ先に削られてしまったのがスポーツと文化芸術だ。
4月末、カナダのパラリンピック委員会は、この未曽有の状況を乗り越える糧にしてもらおうと、パラリンピアンを起用した公共CMの発信をはじめた。不条理な現状の下、湧き上がる感情や、整理しきれない思考と格闘する人に向けたメッセージで、外出禁止の中、東京大会出場が内定した選手たちが自宅で録音した音声が使われている。
逆境に向き合い、自分たちでコントロールできることだけに集中し、乗り越えてきたのがパラリンピアンだ。感情をやりくりし、置かれた状況の中でできることを積み重ねることで心身への影響を最小限にできる。
今、私たちに必要なのは、不確かな未来に向けてかじを切るために必要な力だ。体力と適応力、そしてソウゾウ(想像・創造)力が大切だと私は思う。これら全てを高める力を秘めているのがスポーツ。こんな状況だからこそ、スポーツの意義を声高に伝えたい。
パラリンピックは「できないこと」ではなく、「どうすればできるようになるか」を考える癖を私につけてくれた。多少のことでは心は折れず、柔軟に生きる力も与えてくれた。
外出制限が長引く中、畑や花壇の土を耕しながら、心も耕す期間にしたい。百日草が咲き終わるころには、コロナウイルスも終息していてほしい。

1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジ・スピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。国際パラリンピック委員会(IPC)教育委員も務める。