「今日だけで50人埋めた」 ブラジル、コロナ死者1万人

2020/5/10 16:44
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新型コロナで運び込まれた遺体を埋める墓地の職員(8日、サンパウロ)

新型コロナで運び込まれた遺体を埋める墓地の職員(8日、サンパウロ)

【サンパウロ=外山尚之】ブラジル政府は9日、新型コロナウイルスによる死者数が累計1万人を超えたと発表した。同日の新規感染者数・死者数ともに米国に次ぐ世界2位で、感染増加に歯止めがかからない。危機的な状況の中、格差や脆弱な医療インフラ、政治混乱といった積年の課題が改めて表面化してきている。収束の兆しが見えない中、混乱の現場を歩いた。

「今日だけでもう50人は埋めたよ。こんなの初めてだ」。サンパウロ郊外にある中南米最大の墓地と呼ばれるビラ・フォルモサ。広大な敷地の中、木々が生い茂る一角では、真っ白な防護服とマスクに身を包んだ男性数名が疲れ切った表情で汗を拭っていた。墓地の職員だ。

しばらくすると、電動カートが木製のひつぎを運んできた。遺族の集団が最期の別れを惜しむ間もなく、墓地の職員たちはスコップを手に取ると淡々とひつぎに土をかけ始めた。「日に日に状況がひどくなっている」。こう語る職員の背後には死者の急増に備え、ショベルカーで均等に掘られた無数の墓穴が並んでいた。

新型コロナに備え、墓地には無数の墓穴が掘られていた(8日、サンパウロ)

新型コロナに備え、墓地には無数の墓穴が掘られていた(8日、サンパウロ)

ブラジル政府の発表によると、9日夜時点で同国の感染者数は約15万5939人で、死者数は1万627人。ともに急激な上昇が続いており、先進国がピークを越えた中、新たな感染拡大の中心地となっている。

欧州など海外渡航者がウイルスを持ち運んできた経緯もあり、感染拡大初期はビジネス街で流行していた新型コロナだが、最近ではクラスター(感染者集団)が低所得者層に移りつつあるといわれている。墓地で肩を落として歩く遺族たちの服装からも、豊かとは言えない暮らしぶりがうかがえた。

新型コロナを機にサンパウロでは食事の宅配サービスが大流行しているが、リュックを背負ってバイクや自転車を操縦するのは多くが、その日暮らしの貧しい人たちだ。一方、高所得のホワイトカラーはリモートワークが定着しており、食事の宅配から買い物代行、犬の散歩まで外注することでウイルスとの接触を避ける人々も少なくない。

格差社会は病院の利用状況からも読み取れる。8日時点で、サンパウロ市の集中治療室(ICU)の利用率は85%に達した。一見、医療崩壊の瀬戸際のように見える。しかし、市中心に立地する富裕層向けの民間病院の中には、稼働率が50%以下の病院もある。第1波のピークをしのぎ、病床は余り始めたが、民間保険に加入していなければ、こうした病院で受け入れられない。

比較的所得が低い人たちが住む郊外では、ICUの稼働率がほぼ100%となっている病院も多い。そもそも、ファベーラ(貧困街)に住む低所得者層の多くは、病院にかかることすら難しく、実際の感染者や死者数は統計よりも相当、多いとされる。

外出自粛令に反対する、ボルソナロ大統領の支持者たち(9日、サンパウロ)

外出自粛令に反対する、ボルソナロ大統領の支持者たち(9日、サンパウロ)

サンパウロ州をはじめ各州政府とも、外出自粛でウイルスの拡大を抑え込もうとするが、その試みはうまくいっていない。サンパウロの目抜き通りにあたるパウリスタ大通りでは、週末ごとに外出自粛に反対する集会が開催されている。9日に現場を訪れると、数百人の人々でごった返していた。2~3割はマスクもつけていない。

「もう外出自粛はうんざりだ!」マイクががなり立てると、ブラジル国旗を掲げた人々が喝采で応じた。州政府はレストランやほとんどの商店の店舗営業を禁じているが、1カ月以上にわたる措置が続く一方で補償はほとんどなく、多くの零細事業者は限界に来ている。新型コロナを「ただの風邪」と呼ぶボルソナロ大統領は「外出自粛は経済と雇用を悪化させる」と声高に叫び、人々に外に出るよう扇動している。

ドリア州知事の顔写真を貼り付けたひつぎを掲げる、ボルソナロ大統領の支持者(9日、サンパウロ)

ドリア州知事の顔写真を貼り付けたひつぎを掲げる、ボルソナロ大統領の支持者(9日、サンパウロ)

会場では政治的な主張も目立った。あるグループはボルソナロ氏と対立するサンパウロ州のドリア知事の顔写真が貼られたひつぎを掲げ、「ドリアに死を!」と叫んでいた。新型コロナを機に支持率が低迷されているとされるボルソナロ氏だが、熱狂的な支持者に支えられており、依然として3割近い支持率を誇る。2022年の大統領選に向けた世論調査でも首位を走る。

こうしている間にも感染者・死者とも増え続けるが、混乱する政治は適切な手を打てないまま、事態はずるずると長期化するばかりだ。新型コロナはブラジル社会の混乱と分断をさらに深め、中南米最大の大国の迷走を加速させている。

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