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人間関係を「間断なく」 コロナが試すスカウトの力
スポーツライター 浜田昭八

2020/5/10 3:00
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「ステイホーム」で、テレビを見る時間が増えた。つい先日には米映画「人生の特等席」を鑑賞した。クリント・イーストウッド演じる米大リーグ球団の老スカウトが主役。弁護士になっている愛娘の絡む展開が面白そうなので、つい見入ってしまった。

ちょっと現実味を欠くが、娘は幼少時から父親に仕込まれたので、スカウトができるほど野球を"見る目"がある。父親はスイングする音で打撃を判別することができるほどの名人。だが、視力が衰え、打撃フォームの確認が難しくなった。そこで、父親の耳と娘の目が協力して、ライバルのスカウトに競り勝つ。

ライバルは現場へ足を運ばず、データで選手の力量を判別する。今どき、それほどのんびりしたスカウトがいるとは思えない。地道に現場へ足を運ぶ古いタイプのスカウトを際立たせるためのデフォルメなのか。

ところでコロナ禍の中で、わが日本球界のスカウトたちは、どう過ごしているのか。金の卵が顔をそろえる春の高校野球甲子園大会は中止になった。夏の大会の開催も危うい。甲子園大会に出場する強豪校の中心選手の力量は、すでに把握しているに違いない。ただ、ここでスカウトが見たいのは、大観衆が見守る緊迫した試合で、どれだけ普段通りの力を出せるかだ。

春の選抜高校野球は中止になり、夏の甲子園開催も見通せない(写真は昨年の選抜大会閉会式)=共同

春の選抜高校野球は中止になり、夏の甲子園開催も見通せない(写真は昨年の選抜大会閉会式)=共同

一本勝負の夏の大会はハートの強弱を見極めるのに、とりわけ向いている。甲子園の本大会だけでなく、地方大会も勝負強さを見抜く絶好の場だ。あと一歩か二歩で晴れの大舞台に進めるかどうかという地方大会の準決勝、決勝は、これに勝る判別の場はないと言える。"部活"をプロの都合に合わせて見るのに批判はあるだろうが……。

試合がなくても、練習を見ればいい。イーストウッド・スカウトのように、日本のスカウトもよく練習を見ている。指導者が見落としている潜在能力に気付くこともある。ただ、この時期なので、人との接触がままならない。電話やビデオの活用という手はあるが、選手本人の姿を目にしないことには、細部はつかめない。

スカウト同士で「つるむな」

スカウトの話題になるといつも、元ソフトバンク球団社長の故・根本陸夫さんを思い出す。広島、クラウン、西武、ダイエーで監督を務めたが、敏腕スカウト、球団編成担当の役員で名をはせた。その人が後輩スカウトたちに強く言い渡したことがある。それは「つるむな」だった。

スカウト仲間と連れ立って野球を見てはいけない、ということだ。スカウトが集まって観戦すると、経験豊富な人の見立てに惑わされることが多い。それでは、自分の野球を見る目ができない。ベテランスカウトから学ぶことはあるが、球団間の戦略もあって本心でないことをよく口にする。

プロ、アマ両球界の関係は、選手引き抜きを巡って険悪だった時期が長く続いた。野球界の発展のために手を結び、今では様々な面で協力している。例えば春夏の甲子園大会ではネット裏にスカウトの席が設けられ、多くのスカウトが球児のプレーに目を光らせている。根本さんが心配したようなことはないのかと気にかかる。

近鉄で現役を引退したあとスカウトになった根本さんは、当時の球団役員で法政大の先輩だった大西利呂さんに申し渡されたことがあった。それは「いち早く」「間断なく」「あとを大事に」だった。

ロッテに入団した佐々木朗希に比肩できるような隠れた才能も、どこかに眠っている?=共同

ロッテに入団した佐々木朗希に比肩できるような隠れた才能も、どこかに眠っている?=共同

現在ほど情報が発達していない時代。いいアマ選手を「いち早く」見つけろ。最初に力を認めてくれたスカウトや球団に、選手も関係者も恩義を感じるものだ。見つけるだけでなく、その後も練習をまめに見るなど、接触を怠るな。油断すると他球団に出し抜かれる。

さらに、契約したあとも、当の選手はもちろん、関係者との友好関係を「間断なく」保ち続けろ。その選手の移籍、引退後も「あとを大事に」するべしという助言だった。大事に扱うことは選手の成長を促すし、次代の選手を獲得するのにも役立つ。この助言はドラフト時代になっても生きている。

試合のない今こそ、スカウトの力が試されるのではないか。自由に人と会えないなど、つらい制約はある。その昔の米大リーグのスカウトは「アイボリーハンター」と呼ばれた。未踏の地に象牙を求めるのに似た苦労はつきもの。映像や電話では掘り出せない才能が、どこかに潜んでいる。音ですべてを見抜く神業を持っていなくても、今こそハンター精神を発揮するときではないか。

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