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淡い輝き 木組みで描く 建具の技を照明に

匠と巧

細工の隙間からこぼれる光が、植物を連想させる優しい模様を壁や天井に描き出す。種村建具木工所(大阪市)の照明「光箱」だ。開発したのは社長の妻である種村貞子さん(58)。障子などに用いる組子細工の技術に服飾のデザイン感覚を取り入れた。2012年に発売すると、和の雰囲気を手軽に取り入れられると人気を集めている。

大阪市平野区にある町工場では大小様々な木材が削り出され、職人の手を経て格子戸や障子などの建具に生まれ変わる。1956年の創業から変わらない工程だ。近年はインテリア商品も開発している。光箱はその一つだ。

光箱には2つの技を組み合わせた。一つが、日本家屋の障子や欄間などに使われてきた建具技法「組子細工」。もう一つが、和紙に立体的な模様を描き、建具に使われてきた京都の細工紙「京からかみ」だ。桜や麻の葉をかたどった組子と濃淡のある京からかみを透かして、独特の光の模様が生み出される。

光箱は本体、フタ、発光ダイオード(LED)光源の3つで構成する。5人の社員全員で分担し、本業の建具作りの合間を縫って手作業で製作している。

まず木材を細く削り出し、木と木を組み合わせるための溝を彫る。フタ部分には「葉」と呼ぶ2~4センチの木片を組み合わせ、模様を作る。隙間なくくっつけるために、かんなを使って数ミリ単位で調整する。「少しでもずれが生じると、完成したときに全体としてきれいな形に仕上がらない」と貞子さん。建具作りで培った技が生きる。

京からかみは光が通りやすいよう薄い品を特注して、細かく切って手作業で貼り付ける。障子をイメージした白と、赤やピンクや緑などの色を、本体とフタの柄に合わせて組み合わせたのが特徴だ。「きりかえ」と呼ばれる技法で、短期大学の服飾学科を卒業した貞子さんのアイデアだ。

光箱の開発のきっかけは本業の不振だった。夫の種村義幸さんが07年に2代目の社長に就いた頃には、既製の建具に押されオーダーメード品は売り上げが落ち込んでいた。一方で高齢の職人が亡くなり、社内にあった組子細工の技術も失われかけた。

義幸さんは独学で技法を学び、合わせてインテリア商品の開発も始めた。建具は落ち着いた色味のものが多く、「組子細工と色味を組み合わせた新しい商品が作れないか」と貞子さん。思いついたのが、家庭で自分の好きな色を取り入れやすい照明だった。

光箱は壁掛けと置き型の2種類があり、からかみの色を注文できる。3万円(税別)からで、百貨店などの催事でも販売している。

光箱はこれまでに百数十個が売れ、個人だけでなくホテル内の店舗の内装などにも取り入れられている。海外への手土産としても人気で、リピーターも多いという。「照明を見ると人はほっとする。伝統技術が生み出す雰囲気を生活の中に取り入れてもらいたい」と貞子さんは笑う。作り手の思いが込められた光箱は、これからも国内外に優しい光を届けていく。

(下野裕太)

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