「新常態」への備えは 過去の教訓生きているか?

2020/5/8 18:52
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2020年3月期の商社決算が出そろった。新型コロナウイルスの影響で丸紅が過去最大の赤字になったほか、三井物産は今期、最終利益が前期比で半減を見込むなど厳しい経営が続く。15~16年に資源価格が急落した際、市況に左右される事業の業績変動を抑えながら、新たな収益源を探るという共通の課題を各社に突きつけたはずだが、その教訓は生きたのだろうか。

「戦後最悪の危機モードに突入した」。前期に1975億円の最終赤字に転落した丸紅の柿木真澄社長のコメントだ。コロナ対策として手元資金を厚くするため、大幅な減配や自社株買いをしないとした方針が嫌気され、7日の決算発表直後、同社株は大きく売り込まれた。

赤字転落はコロナの影響ばかりではない。13年に2700億円かけて買収した米穀物大手ガビロンに加え、北海やメキシコ湾での油田・ガス事業でも16年3月期に減損を計上している。

住友商事も米国のタイトオイル・シェールガスや北米の鋼管事業などで再び減損を計上した。「単純にコロナの影響だと言い切れない、過去から問題を引きずる案件で利益を落としている」(野村証券・成田康浩アナリスト)と、プロジェクト管理の甘さを指摘する。

15年3月期には住友商事が、翌期には三菱商事と三井物産が赤字に転落して以降、各商社とも「非資源ビジネスの強化」を経営課題としてあげた。創業以来、初の赤字に転落した三菱商事はその後、非資源分野を強化し、資源価格が急落しても補完できる収益構造への転換を急いだ。伊藤忠商事は繊維や小売り、食品などで地道に収益を積みあげ、資源分野に頼らない事業構造の構築に磨きをかけ続けた。

その後、世界経済の成長にのって最高益を更新する商社が相次いだが、そのドライバーとなったのも相変わらず資源・エネルギー分野だった。前回の商社業界を襲った激震から5年。今回の決算で劣後した商社はここ最近の最高益に沸くなかで、非資源や個人向け事業などへの事業転換の取り組みをおろそかにしたツケを払わされた。

現在、各社とも若手人材の積極登用や、コロナ災禍でも伸長しているネット系のスタートアップへの投資など「次の一手」の開拓に乗り出したが、競合するのは米アマゾン・ドット・コムや中国アリババ集団だ。資金・人材面から自前で対抗するには限界がある。

三菱商事はNTTやインドネシアの配車大手、ゴジェックとも組み、デジタルサービスを軸にした新たな事業開拓にようやく踏み出した。伊藤忠も6千億円を投じて組んだ中国中信集団(CITIC)との共同事業もまだ目立った成果を上げていない。ネットによる経済のサービス化が広がるなかで、外部の異業種との提携で既存事業の深掘りや新たなビジネスへのとっかかりを見いだしていく手はもっと必要だろう。

「VUCA」(不安定・不確実・複雑・曖昧)な時代が到来したと言われて久しい。まさにコロナはVUCAの極みだろう。三菱商事は垣内威彦社長がトップに就いてから4年余りで累計で2兆円もの資産を売却、今年3月末の利益剰余金も4.6兆円にまで積み上がった。三井物産、伊藤忠も利益剰余金はそれぞれ3兆円前後まで積み増しており、先が読めないなかでも対応できる余力がないわけではない。

コロナ災禍で優良な資産や企業が売りに出る機会も増えそうだ。「変化に対する耐性はついた。財務規律を守りながら、攻めるところは攻める」(三菱商事の垣内社長)。アフターコロナの「新常態」にあわせ、商社の身上である「変わり身の早さ」が改めて問われている。

(藤本秀文)

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