「工場を止めるな」 コロナ危機にスタートアップ続々

BP速報
2020/5/8 11:24
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消毒液の散布機能を加えたZMPの無人警備ロボット「パトロ」(出所:ZMP)

消毒液の散布機能を加えたZMPの無人警備ロボット「パトロ」(出所:ZMP)

日経クロステック

「ここから感染者を出して工場を止めるわけにはいかない」――。ある部品メーカーの工場責任者は、新型コロナウイルスの感染動向に対して日々神経をとがらせている。

もしも工場から感染者が出れば、その工場は消毒が完了するまでの部分的な稼働停止と、濃厚接触の可能性がある作業員の検査や自宅待機を命じられる。納期通りの供給を約束する部品メーカーにとって、生産の遅延は損失に直結する。

このようなリスクを最大限減らすため、「打倒コロナ」を旗印にスタートアップ各社が続々と動きだしている。各社の技術を取り入れた現場の一日はどう変わるだろうか。

■夜、無人ロボットが消毒に奔走

「ウィ――――ン」。ここは人影のない夜の部品工場。昼間は機械の稼働音が絶え間なく響き渡るが、今聞こえるのは消毒液の散布に奔走する無人ロボットの走行音だけ。ロボット開発スタートアップのZMP(東京・文京)は、販売中の無人警備ロボット「パトロ」に、消毒液の散布機能をオプションとして追加。5月に提供を始めた。

パトロは4輪を備えた箱型の車両だ。3次元と2次元の高性能センサー「LiDAR(ライダー)」、カメラや接触センサーを搭載。これらを組み合わせて、自車両の位置を把握しながら最大時速6キロで工場内を巡回する。LiDARなどで生成した建屋内の地図情報を使い、エレベーターのボタン部分や手すりなど、作業員が手を触れる頻度が高い箇所を念入りに消毒できる。

パトロは駆動用にリチウムイオン電池パックを搭載する。「容量は非公開」(ZMP)とするが、1時間の充電で稼働4~5時間という。夜間の作業終了時に充電し、深夜から早朝にかけて消毒という任務をこなせる。

ZMPは感染対策需要の拡大に応えて同機能の追加を決めた。車両とオプション機能を合わせて月額11万円からとなるが、「月当たりの問い合わせは以前の4倍に増加した」(同社広報担当者)という。

■朝、画像認識で手洗い管理

夜が明けて場面は朝へと移る。無人ロボットが消毒した工場に続々と出社する作業員たち。皆新型コロナ対策として手洗いの徹底はしているが、朝の忙しさから忘れる者も少数いる。「昨日の朝は手を洗えていなかった。今日こそせっけんで念入りに洗おう」――。ある作業員はこう意気込んで手洗い場に向かった。

感染症の対策として有効な手洗いであるが、人によって方法や時間などにばらつきが生じやすい。そこで、画像認識が強みのフューチャースタンダード(東京・文京)は、手洗いや消毒を記録するサービスを開発し、5月に提供を始めた。手洗いの様子をカメラで撮影。所定の秒数を満たしているか、せっけんはしっかり使っているかなど、作業員の個人データとひも付けて管理する。

カメラはシンクの鏡下部に設置する。100万~200万画素ほどのフルHD画質のものを使う。シンク部分に手が一定秒数確認されたら手洗いをしたものとして記録する。秒数を満たさなかった人には、設置したタブレット端末の画面に警告を出してやり直しを促す。従業員の手洗いに対する意識を高めて感染防止を目指す。

■昼、換気と密集を検知

午前から午後にかけて工場はフル稼働だ。そんな中、工程リーダーである係長がタブレット端末を片手にこんな声をかけてきた。「今日は人が多くて二酸化炭素(CO2)濃度が規定値を超えそうだ。そろそろ換気しよう」。

係長が見ているのは、フューチャースタンダードが5月に始めた換気状態の検知サービスだ。CO2濃度計を使って換気状態を可視化する。経験や勘に頼らず、誰でも同水準の換気管理を実現できる。

手洗いに加え、新型コロナの感染防止には「3密」(密閉・密集・密接)の回避が効果的。そのうち、密閉を防ぐために換気は有効な手段だ。

フューチャースタンダードは換気状態の検知サービスを提供する(出所:フューチャースタンダード)

フューチャースタンダードは換気状態の検知サービスを提供する(出所:フューチャースタンダード)

工場建屋にCO2濃度計を設置してリアルタイムで計測する。一定の濃度に達したり急激な上昇がみられたりしたら、換気を促す警告を出す。濃度計から吸い上げたデータはクラウドに蓄積し、管理者はネットワークを介してタブレット端末などで確認する。

さらに同社は、密集を防ぐサービス「密集度検出ソリューション」の提供も5月に開始している。作業場の人の密集度合いを画像認識技術で推定する。半径2メートル以内で複数人が作業しているなど、過度な混雑がみられる場合は離れるように警告音を鳴らす。

3つのサービスはいずれも買い切りで、12万~20万円程度の価格となる。同社最高経営責任者(CEO)の鳥海哲史氏は「さまざまな種類の画像認識技術を世界中から集めている点が強み」と話す。市販のカメラシステムや既存の認識技術を組み合わせることで、同社は検討開始から約1カ月という短期間でサービスの提供までこぎ着けた。

■夕、仕分け支援ロボで密接回避

だんだんと日が暮れ、今日も受注した部品をすべて生産できた。夜のトラック集荷に間に合わせるために出荷準備を急ぎたい。これまでは作業員をずらりと並べた「人海戦術」で、梱包・仕分け・出荷までこなしてきた。ただ、これでは密接の状態に近く感染の危険性がある。

ここで活躍するのが、中国をルーツとするギークプラス(千葉県印西市)が手掛ける仕分け支援ロボット「EVE S20」シリーズだ。7月に日本市場へ投入する。作業員の人数を必要最低限に減らし、複数のロボットでその間を埋める。人から人への物の受け渡しを無くすことで感染防止につなげる。

ギークプラスは仕分け支援ロボットで密接を防ぐ(出所:ギークプラス)

ギークプラスは仕分け支援ロボットで密接を防ぐ(出所:ギークプラス)

EVE S20シリーズは、背もたれの無い椅子のような形状のロボットで、上部に荷物を載せて自動で運ぶ。高さは1~1.25メートルほどで、利用場面に合わせて調整できる。障害物はレーザー方式で検出する。荷物を載せた際の走行速度は、毎秒2メートルで、停止時のずれは1センチ未満に抑えた。Wi-Fiなどで通信して指示を送る。

同社はすでに中国国営の中国郵政に仕分け支援ロボットを提供している。作業員の人数や荷物の量などに応じて柔軟に配置を組み替えられる点が、専用のライン設備を導入するよりも利便性が高いと評価を得ている。

スタートアップ各社は、技術を武器に社会課題を解決しようと創業に至ったケースが多い。新型コロナウイルス感染拡大の中、持ち前の技術を新たな製品・サービスに転換するスピード感は大企業をしのぐかもしれない。

(日経クロステック 窪野薫)

[日経クロステック 2020年5月7日掲載]

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