近隣国協力、感染症が盲点 日本、中韓との協力に距離

2020/5/8 2:30
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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、近隣国間協力の盲点が浮かび上がった。日中韓での協力には距離がある。欧州各国の連携を束ねる欧州連合(EU)は主導する権限がなく役割を果たせていないと批判を受けた。長期戦では経済や人的交流の深い各国間の枠組みの重要性が増す。

日本と中国は4月21日に外相、30日には外務次官間で電話協議した。マスクなど医療関連品を円滑に輸出入できるよう協力を確認した。一方で日中韓3カ国となると、3月の外相協議で保健相会合の早期開催で一致したものの、1カ月以上たっても開いていない。

近隣諸国がまとまって感染症対策を進められなかったのは欧州だ。まとめ役であるEUの限界が露呈した。

約3万人の死者が出たイタリアは4日から行動制限を緩和し、一部業種で職場復帰が進む。対象はざっと400万人だ。

ロックダウン(都市封鎖)から約2カ月が経過し感染は落ち着いてきた。それでも政府関係者は「EUがもっと早い段階から協力的だったら……」とこぼす。

「EUを代表して心から謝罪したい」。4月16日、フォンデアライエン欧州委員長は欧州議会での演説で神妙な面持ちだった。

感染が爆発的に増えた3月上旬、イタリアは他のEU加盟国に医療用マスクの支援を要請した。応じた加盟国はほとんどなかった。ドイツはマスクなどの医療関連品の輸出を制限し、フランスは国による在庫・生産の管理に踏み切った。

EUの大きな柱の一つである「単一市場」がないがしろにされた事態に、コンテ伊首相は「ウイルスに対処できなければ、欧州統合という計画は失敗に終わる」と憤った。

伊支援に重い腰を上げたのは3月下旬からだ。欧州委が人工呼吸器など5千万ユーロ(57億円)分の支援計画を承認し、4月にノルウェーとルーマニアが医療チームを派遣した。

背景にはEUと加盟国が持つ権限の複雑な構造がある。通商や競争政策はEU共通で欧州委の権限が強い。社会保障などは各国の権限だ。公衆衛生の権限はそれぞれが持ち、有事にEUがやれることに限界がある。

欧州委は検査手法や通常勤務の再開で守るべき指針などを相次いで示した。ほとんどが強制力のないガイドラインどまりで、最終的には各国政府の判断になる。

加盟国が導入した国境管理で物流が停滞し、防護品や人工呼吸器の輸送が滞った事例も相次いだ。

森井裕一東大教授は感染症対策で権限を強める余地に関し「EU各国で医療設備や公的保険の制度が大きく異なる。通貨統一よりハードルが高い」と話す。

地域共同体の権限強化が近隣国の感染症拡大を抑える最も有効な手立てとの見方がある。

青山学院大の羽場久美子教授は「交流が活発な周辺国と国境を共同管理する越境地域協力(CBC)が重要だ」と話す。「米欧を中心にワクチンの開発や備蓄を巡る国家競争が強まる。1国ではなく周辺国とともに供給確保の体制を主導すべきだ」とも語る。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は感染症対策で共同体としての役割を強化する。3月中旬ごろから感染者数が急増し、各国が次々と事実上の都市封鎖に踏み切った。物資の融通や防疫政策などの調整には課題がある。

「公衆衛生上の緊急事態に対処する作業部会はあるが、実質的な調整は無きに等しい」。シンガポール誌「ASEANトゥデイ」は共同体としての機能に疑問を呈した。

ASEANは新しい協力策を探る。各首脳による4月14日のテレビ会議で新型コロナ対応のための基金を新設すると決めた。域内で検査キットや医薬品の調達などに使うことを想定する。

日本も長引く新型コロナ対応で周辺国との協力が重要になっている。

19年の日本への入国者数は1位が中国の959万人、2位は韓国の558万人だ。台湾と香港を加えた東アジアで全体の7割を占める。東アジア以外で最多の米国は5位の172万人だ。

日中韓は保健相による会議を07年から毎年開いている。09年の新型インフルエンザなどの感染爆発を抑える方策も議論した。19年は日中韓の政府間にホットラインを創設する方向で合意した。

日中韓での協力が遅れているのは、日韓関係悪化の影響が一因との見方がある。

小此木政夫・慶大名誉教授は「保健衛生で協力の枠組みが整っているのに、国内の反発を意識して互いに支援の話をしにくい状況だ」と語る。(ブリュッセル=竹内康雄、ジュネーブ=細川倫太郎、溝呂木拓也)

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