古刹1400年 サバイバル史(書評)
「私の法隆寺物語」高田良信著

2020/5/8 2:00
保存
共有
印刷
その他

高田良信著 東方出版 2700円(税別)

高田良信著 東方出版 2700円(税別)

法隆寺住職・聖徳宗管長を務めた著者の高田良信が、奈良新聞に連載した全200話を収録した。ただ「トップを退いたいわばご隠居の随想・身辺雑記」ときめてかかって読むと、良い意味で裏切られる。著者は法隆寺の宝物・什器(じゅうき)を網羅した昭和資財帳の編さん提唱者でも知られるだけに、古文書に通暁した人物でもあるからだ。

たとえば夢殿の本尊・救世観音像を岡倉天心やフェノロサの文部省宝物調査隊の一行が、開扉・白布解除を求めた史実について。このくだりだけでも「法隆寺日記」「法隆寺懇志簿」「太子伝補欠記」「東院資財帳」「七大寺巡礼私記」など数多くの文献に当たって伝承を洗い直している。

聖徳太子ゆかりの大寺とあって、現代人は太子信仰に伝統と安泰のイメージを重ねがちだが、1400年の星霜は決して順風満帆ではなく、幾度となく苦境に追い込まれた。特に本書の前半は上代、古代、中世、近世、近現代を生き抜いた古刹のサバイバル史といった様相だ。

100年から百数十年置きに必要になる中規模・大規模修理の費用を、有力スポンサーや経営基盤がない時代に執行部がどう工面したか。草分け的な南都の仏教が、後発ながら勢力を伸ばした平安・鎌倉の諸宗派の影響下、いかに存在を主張したか。

古代には僧坊で集団生活をしていた僧侶が中世にかけて子院に分住していったことやその居住権が売買されたこと。トップの別当職も中世は興福寺僧が就任していたこと。寺内でも学侶と堂衆の2つの階層がしばしば権力闘争を繰り広げていたことなど、経営史・社会史的側面にも目配りしながら紹介する。

エピソードを彩る顔ぶれも筒井順慶、松永久秀、徳川家康、豊臣秀頼、徳川綱吉、中井正清、渋沢栄一、正岡子規と多彩だ。(編集委員 岡松卓也)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]