中国3兆円国家ファンド 狙うは次の東京エレクトロン

日経ビジネス
2020/5/11 2:00
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長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ、湖北省武漢市)

長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ、湖北省武漢市)

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新型コロナウイルスの感染拡大は人々の生活を一変させた。収束後もすべてが元に戻るわけではなく、人、企業、国などが営みを続けるうえでの新たな「常識」となって定着しそうなものも多い。各地で芽吹いている「ニューノーマル」を追う。今回のテーマは「自給自足目指す中国ハイテク産業」。

1月23日から4月8日まで76日間に及んだ湖北省武漢市の都市封鎖。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため世界で最も厳格な人の移動と経済活動の制限が敷かれた。スーパーなど市民生活に必要な業種を除き、原則として企業活動は制限された。だが実はその中で、当局から特別許可を与えられ「例外」として稼働を続けた企業がある。

スマートフォンなどの記憶媒体として広く使われる基幹部品「NAND型フラッシュメモリー」を手掛ける、長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ、YMTC)。中国理系大学トップである清華大学系の紫光集団に属する国策半導体メーカーだ。

■経済活動制限が広がる中で操業を継続

武漢封鎖解除から5日後の4月13日、YMTCは重要な発表を行っている。128層の記憶素子を重ねた「3次元NAND型フラッシュメモリー」の開発に成功したという内容だ。2020年末から21年上半期にかけての量産開始を目指すという。

3次元NANDは、記憶素子を高密度で積層するほどメモリー製品としての競争力が上がる。小さいスペースで大きな記憶容量を実現できるためだ。

YMTCが発表した128層は、現在の量産レベルとしては世界最先端と言っていい。すでに韓国SKハイニックス、韓国サムスン電子が同等品の量産を始めており、米マイクロン・テクノロジーやキオクシア(旧東芝メモリ)も20年内に量産を開始する計画だ。先頭グループに対して「周回遅れ」と評されていたYMTCだが、このタイミングで追いついてきた。

半導体受託生産(ファウンドリー)大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)も、全土で経済活動制限が広がる中で操業を継続した一社だ。同社は中国国有通信機器メーカーや中国政府系ファンドなどが出資する大手メーカー。天津や北京、上海、深圳に拠点を構える。通信機器世界最大手の華為技術(ファーウェイ)の半導体子会社である海思半導体(ハイシリコン)や米クアルコムなどから受託生産している。

SMICは今年に入ってファーウェイのスマホ向け半導体「麒麟710A」の受注競争で、ファウンドリー世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)に競り勝ったと報じられている。

■悲願の半導体国産化、武漢は重要拠点の1つだった

高度な技術力が要求される最先端の半導体は、「世界の工場」となった中国製造業の泣き所だった。米中貿易戦争の中で米国はその弱点を突こうと、ファーウェイなどを米国からの部品輸出を実質的に禁止する制裁対象リストに追加してきた。

米企業の半導体製品などが調達できなくなれば、多くの中国IT企業は身動きが取れなくなる。実際、18年には禁輸措置対象となった中興通訊(ZTE)が経営破綻寸前に追い込まれている。

半導体の「国産化」は中国にとっての悲願であり、その重要拠点の1つが武漢市だった。新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた挙国体制をとる中で、半導体を「特別扱い」したゆえんだ。

20年3月、いまだに中国が新型コロナウイルスの影響を色濃く受けている状況下で、複数の中国メディアが「国家集積回路産業投資基金が第2期の投資を始めた」と報じた。国家集積回路産業投資基金は中国政府が14年に1387億元(約2兆円)を集めて組成した半導体産業育成のための巨大ファンドで、YMTCやSMICもこの恩恵を受けて成長してきた。

第2期で集めた資金は第1期の1.5倍に上る2041億5000万元(約3兆円)。投資ターゲットに据えているのが半導体の「製造装置」。半導体のサプライチェーン全体を国内で完結できる体制を作ろうとしている。

「将来の米アプライドマテリアルズや東京エレクトロンを育てる」。19年9月、中国国内で開催された半導体業界のサミットで国家集積回路産業投資基金のマネジャーはこう宣言した。

アプライドマテリアルズと東京エレクトロンはいずれも最先端の半導体製造において欠かせない製造装置を作る企業だ。中国の半導体サプライチェーンが自給自足を達成するまでに不足している部分はまだ多いが、この2社が供給する製造装置はその代表例だ。

国家戦略「中国製造2025」で中国政府は、安全保障の観点から半導体自給率を20年に40%、25年に70%まで高める目標を掲げた。米中貿易戦争の影響により中国製造2025について表立って言及されることは少なくなったが、中国の半導体自給率は着実に高まっている。

中国の民間調査会社「CINNO Research」によれば20年1~3月、中国スマートフォン向け半導体(SOC)市場で、ハイシリコンが初めて首位を獲得した。2019年10~12月に首位だった米クアルコムは2位となり、3位は台湾メディアテック、4位は米アップルだった。

■米国からの調達を続ける意向を示したが

米インテルが圧倒的に強い高性能コンピューター向けCPU(中央演算処理装置)も内製化の動きが進む。中国政府系でスーパーコンピューター開発を手掛ける曙光信息産業は4月22日、最大47億8000万元(約726億円)の第三者割当増資を発表し、そのうち20億元(約303億円)を中国製CPU採用に充てるとした。

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは4月26日、ファーウェイの任正非CEO(最高経営責任者)について報じた。甘粛省社会科学院が発行する雑誌のインタビューにおいて「完全な自給自足は難しい」「米国は良い友人だ」と発言し、米国からの調達を続ける意向を示したというのだ。

一方でファーウェイはOS(基本ソフト)のアンドロイドや各種半導体の調達に支障をきたしており、ハイシリコンなどによる内製部品を利用し始めている。

米中貿易戦争という通奏低音が響く中、世界経済を襲った新型コロナウイルス。日本を含む世界各国は、安全保障の観点から医療物資をはじめとする各種製品の中国依存リスクに目を向けている。

日本政府は20年度補正予算に生産拠点の国内回帰を促す補助金2200億円を盛り込んだ。米商務省は中国とロシア、ベネズエラを対象に、半導体関連製品などの輸出制限を強化すると発表した。

今回の新型コロナウイルスの流行が収束したとしても今後、世界は別の新たなウイルスが発生するリスクを織り込みながら行動していくしかない。その最もシンプルな対策は「自給率」を高めることだ。

■国策企業に莫大な資金をつぎ込む中国の手法

高度な技術力が要求される半導体分野においては、中国が一朝一夕に日本や欧米、台湾に追いつくことはできないだろう。それでも必要と判断すれば、国策企業に莫大な資金をつぎ込む中国の手法は、ディスプレーや電池など様々な分野の勢力図を短期間で塗り替えてきた。

異なる行動原理で動く国や企業といかに向き合っていくのか。各国が「自給自足」の意向を強めるコロナ後の世界経済において、さらに重要なテーマとなる。

(日経BP上海支局長 広岡延隆)

[日経ビジネス電子版 2020年5月7日の記事を再構成]

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